お化け屋敷
「行ったか」
ラムザンがここを離れた直後、俺の背後から声がした。
「ローランド、生きていたのか!」
「勝手に殺すな。面倒なことになると思ったから気絶したふりをしていただけだ」
それより、と置いて
「一切身体を動かしていなかったせいで痛てえ。喉もカラカラだし死にそうだ」
彼は気絶したふりをしていただけで状態は俺と同じだ。このままだともうすぐ死に近い。
「どうにかして逃げられないだろうか」
手を縛られているうえに栄養不足で十分に身体を動かせない。
「ふっ、俺が拳だけの拳闘士じゃないことを忘れたか」
足をゆっくりと動かしている。俺はしばらくの間何をしているのか分からなかったが──
「そうか!……ただ動かせるのか」
彼も言っていたがちょいちょい身体を動かしていた俺と違って彼は一切動かしていない。故に筋肉が完全に固まっているはずだが……。
「任せておけ。もうちょっとこっちに寄れるか」
俺が最大まで近づくと「そうだ、そうだ」と言って
──足を振り上げた
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「こっちこっち」
記憶を頼りに僕はロニエ達の手を引いて学校を案内する。エンタメや展示などの出し物をしている教室や演武をしている闘技場、色々な箇所を回ったが僕が一番連れてきたかったのはここだ。
おどろおどろしい見た目の入り口に仮装をした受付員。中からはキャーと悲鳴が響く。壁には「危険、苦手な人はご注意を」と書いてある。
「イティラ君………。ここって」
ロニエの顔が恐怖で青く染まっていく。その様子を見たキョウカも何が起こっているのか不思議そうだ。
「うん。お化け屋敷」
「何でお化け屋敷なんですか。この前ので分かっていますよね……| 《あまり得意でないことを》」
恐怖で顔を染めたと思ったら、今度は羞恥で顔を赤く染めたロニエの声は最後まで聞こえなかった。
「お化け屋敷は毎年の恒例だからね。年々凄くなっていくって地域住民にも人気なんだ」
「いやですよ。絶対に入りませんからね」
僕の手を振り払ってそう言った。
「そっか。残念だよ……」
まあ、ここに入る目的は二つ。一つは怖がるロニエを見ることだが、もう一つはキョウカの反応を見ることだ。苦手かどうか分からないけど、キョウカが声を張り上げたところを見てみたかった。
「じゃあ、行こう。三人でお願い」
受付の子に言うと「分かりました。逝ってらっしゃいませ」と言ってくれた。
「え?三人……っあ」
僕は肉体と魂の結び付きを意識してロニエを抱えてお化け屋敷に入った。すると開いていた扉はガチャンと音を立てて閉まった。
「ちょっとイティラ君」
ロニエが背中をポンポンと叩いてきたから下ろしてあげた。どんな状況でも乱暴な態度をとらないのは流石だ。
「何で無理矢理入れたんですか」
ロニエがぷんぷん怒っている。うーん、こういう姿をいいと思ってしまう僕は可笑しいのだろうか。
「ロニエは可愛いしやっぱり一人でいると危険かなって、知らない人に声をかけられたり」
いわゆるナンパの警戒である、と言う建前。
「要らないところで優しさを発揮してくれましたね。私は出ます」
扉に近づいてノブに手を掛ける。そして開こうとするが
──開かない。
「えっ、どうして」
何度も試すが全く変わらない扉。開かないのも当然である
「ここのお化け屋敷の扉に念動魔法をかけて逃げられないようにするのはいつの日にか出来た決まりだからね」
入り口にいた受付員の彼女がかけているのだろう。
「なんてことをしてくれたんですか」
「ごめんごめん。入っちゃったんだから楽しもう」
「入っちゃったんじゃなくて入れられたんですけどね」
まったくもう、とロニエは一言ついて
「まあ、望むところです。絶対に勝ちます」
むんと両手を握りしめてやる気を出してくれた。
「さあ、さっさと終わらせてしまいますよ」
ロニエは先頭でどんどんと進んでいく。その背中は逞しく何者にも負けないような風格を纏っていた。
その姿を見て僕は今回は怖がる姿は期待出来ないかな、と思った。
──二十歩目。ロニエが動かなくなった。
涙を流して足を震わせ、必死にしがみついてくる。かくいう僕も足が震えてしまっている。
この場で平気そうなのはキョウカだけだ。仕掛けが襲ってくるたびに目を見開くだけで基本的に無表情は崩れなかった。
「今年はやばいな」
お化け屋敷といえども毎年怖いわけではない。年によっては面白さを重視したり、僕はよく分からなかったけれど美しさに力を入れたりもしていた。
が、今年は学校を舞台にした怖さに重きを置いてきている。
「やばいなじゃないですよ……」
ぎゅっとしがみついて離そうとしないロニエが涙声でそう言った。
「キョウカ、先に行ってくれるかな。僕はロニエを抱えていくよ」
僕も怖いことには怖いが、ロニエの怖がりようを見ているとその気持ちも軽減される。いわゆるお姫様抱っこで震えるロニエを抱えて僕らは進んだ。
その後はロニエが一瞬目を開けてしまった時に仕掛けが襲ってきて大暴れしたり、キョウカの反応が薄すぎて仕掛人が焦ったりなど紆余曲折したが何とか最後までたどり着いた。
「ふう、怖かった」
「……うん」
どうやらキョウカも怖がってはいたようだ、反応が薄かっただけで。
「さて、あとはそこの角を曲がるだけ」
僕らが角を曲がるとそこには顔面が真っ白な人が立っていた。
あまりの衝撃に僕らが動きを止めると
「どうしたんですか、何があったんですか。目を開けますよ、開けますからね」
そう早口で言って開くとロニエの身体が一瞬硬直して僕の腕から飛び降りた。
そして、脱兎の如く逃げ出していった、せっかく収まった涙を再び解放して。
「久しぶりだね、トロム君」
顔面真っ白男は僕らにそう声を掛けてきた。
キョウカの大声はいつ聞けるのでしょうか。




