学校長と推薦
決闘から一年と少しが経ちまもなく学校を卒業する時が近づいてきた。
僕はまだ進学する学院が決まっていない。
しかし進学したい学院はある。
──『勇者学院』だ。
六年前に魔王を討伐して都市に帰ってきた勇者様が将来また魔王の様な者によって大陸が侵略されないようにする為に後進の勇者を育てる目的で創立した学院だ。
僕はお爺ちゃんが剣だけでなく、勉学も教わっていたから頭は悪く無いけれど、勇者様が創立された学院に合格できるほどの実力は無いと思っている。
放課後、進路書を眺めながら何処の学院に行こうか考えていると、
「三学年イティラ・トロムさん、イティラ・トロムさん。至急、学校長室に来てください」
音声拡張機によって僕を呼び出す声が響いた。
「おいイティラ〜。何やらかしたんだよぉ」
この打ち解けた態度の生徒は僕とイルビィの決闘の次の日から僕に近づいて来た者の一人だ。
他にも多くの人が僕に近づいてきたがぶっきらぼうな僕の態度を見て離れていった。
彼だけは何故か僕に近づいくのをやめずにいた。
「理由は全く分からないよ」
そう言った後、僕は学校長室に向かった。
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大きな扉を三回ノックすると中から許可の声が返ってきた。
「失礼します」
この学校に入って一度もこの部屋に入った事が無いからとても緊張していたが、
「どうぞ、どうぞ」
そこには赤と白の髪が整えられて派手なメイクをしたピエロの様な人がいた。
その姿に驚いて、ボーっとしていると。
「どうしたんだい……ってああ、この格好かい。このメイクをするとやる気が出てね。実は出張に行く時はこの格好なんだ」
その長身を僕に合わせるように腰を折り、ウィンクをして人差し指を立てた。
「そう……なんですか。お疲れ様です」
「ありがとう。それで今日君を呼んだ理由なんだけどトロム君、『勇者学院』に興味ないかな」
「勇者学院ってあの『勇者学院』ですか」
「ああ、その勇者学院だ。実は本校にはあの学校への推薦権が一つあるんだ」
「そんなもの、聞いた事がありませんが……?」
「それはそうだろう。なんせ都市一の魔剣士学校って言われている割に本校の生徒は強くない」
学校長はそう困ったように言った。
「だから推薦権のことは秘密にして毎年流していたんだ」
「なるほど」
「元々はグラム君を推薦するつもりだったんだが、今では君の方が強い」
あの決闘が無ければイルビィが勇者学院に進学していたか。
性格はともかく実力的に彼は申し分ないから、それはそれで良かったと思うけど。
「なんせ君はこの私以外の全ての教員に勝利しているのだからね」
イビィルに勝った日の後、彼に負けた教員たちが落ちこぼれにイビィルが負けたとは信じられないと決闘を申し込まれた。
五人抜きを果たした後に、実力試しをしたい教員や研究を主としている教員もその成長の秘密を探りたいと申し込まれ、
いつの間にか学校長を除く全ての教員と決闘することとなっていた。
「と、いう事でだ、トロム君推薦されない……」
「──喜んで」
元々進学したかった学院だ。ここで振って沸いた機会を逃してはいけないと思ったら、食い気味に答えてしまった。
「はっはっは、そんなに進学したかったのか。そういえば君は勇者に憧れていたんだったな」
「ご存知なんですか」
「ああ、推薦するにあたって君の事は多少調べたからね。
それにしても最底辺からトップへの成長は凄いな、その秘訣は教えてくれるのかい」
興味があるのかニコニコしながら聞いてきた。
「魂と肉体の結び付きを強くなるように鍛えたんです」
その発言を皮切りに不意に空気が変わった。
「どこで結び付きについて知ったんだい、本校では指導していないはずだが」
目を細めてそう言った。
「お爺ちゃんに教わりました」
あの女性から教わったと説明するのは難しいからそう答えた。
「お爺ちゃん、か。名は何というんだい」
「グランド・トロムです」
「 」
学校長は小さな声で何かを呟いたが聞き取れなかった。
「トロム君、忠告だがあまり結び付きについては口外しないほうが良い」
初めとは打って変わって真面目な態度でそう言った。
「何故ですか」
「とにかくだ」
「分かりました」
どうやっても教えてくれなそうだから引き下がった。
「それじゃあ、要件は終わりだ。推薦試験はあるが、君なら問題ないだろう。これからもますます励んでほしい」
「はい、ありがとうございました。失礼します」
学校長室を出る。
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彼が出ていった後
「グランド・トロムの元に行くか」
今日はもう一戦激しい戦いをするかもしれないと思い、
杞憂になりながらも支度を進めた。
怪しさ満点学校長