汗と少年
「うぐっ、うっく…………ここは」
目を覚ますとまず感じたのは頭痛の酷さだった。外部からまるで頭蓋骨にヒビが入っているかのような。
痛みに耐えて俺は状況を確認すると埃っぽく薄暗い部屋の中で手を鎖で縛られて壁に括り付けられていた。
更に、俺の直ぐそばに人が転がっていた。
「ローランド!ローランド、起きろ」
ローランド・ギルマ──彼も手を鎖で縛られていた。更に、彼には痣や火傷跡、切り傷など酷い状態であった。
「ふふ、やっと起きましたか」
重そうな金属の扉を開けて入ってきたのはあのピエロの男だった。
その忘れようにも忘れられない顔を見て全て思い出した。
俺は鈍器で殴られて……この頭痛の原因もあれか。
「初めまして、いや、あの時一瞬だけ目が合っていましたか。────のラムザントペルーナです。気軽にラムザンとお呼びください」
「あなた達は流石に同胞を帰しすぎました。ということであなた達には餓死してもらいます」
─────────────────────────────────────
今日も今日とて訓練日和。僕とキョウカはロニエを相手に攻め続ける。
「『飛翔斬』」
キョウカの斬撃包囲網の練度がここ数日で上がり、僕でさえも脱出が困難になっていた。
それを受けたロニエは降参をすると魔法が消滅した。
「キョウカちゃん、強くなりすぎじゃないですか」
「僕もそう思う」
キョウカの魔法の質と言うべきかは分からないが、『飛翔斬』が硬く鋭くなっていっている気がする。
その上、一度発現した魔法を中断するなんて本来出来ないはずなのである。
「……訓練、頑張ってる」
「私も頑張っているんですけどねえ」
口を窄ませて「何でいつも私は一番遅れているのでしょうか」と呟いた。うっすらと負の雰囲気を纏っている。
「ロニエも強くなっているよ」
ロニエの成長も本当に凄い、剣技のキレや魔法の使い方、体捌きが前よりも格段に向上している。
その旨を伝えると
「ふふ、ありがとうございます。元気が出ます」
一瞬で明るい笑顔と雰囲気を取り戻した。こういうロニエの切り替えの早さも最近成長したと思う。
その言葉は何が起こるか分からないから胸の内にしまっておくけど。
「さて、そろそろ家に戻ろうか」
最近は夏が本場に入り、昼間がとても暑い。
熱中症になってはいけないから僕らは最近、比較的気温が低い朝と夜に訓練をしている。
「うーん、いい汗をかきました」
訓練後の柔軟運動を終えたロニエはさっぱりとした顔でそう言った。
「そうだね」
最近は一人側が戦える時間が伸びて、一時間以上戦っていることも多い。
その間、駆けて剣を振って、魔法を使っているから運動量がとても多くなっている。
それ故に汗を沢山かくのだが──
「キョウカは全く汗をかかないよね」
サラサラと髪を揺らして柔軟をしているキョウカ。
「本当に心配なくらいですよね。体調が悪くならなければ良いのですが……」
「キョウカ、手を触ってもいい?」
「……うん」
許可を得たから彼女の手に触れると
「冷たい」
普通は体温調節が出来なくて熱中症になりやすいと聞いたことがあるが彼女の身体は冷たかった。
「あれだけ動いてこれってキョウカの身体はどうなっているんだ」
「……分からない。昔から」
「まあ、ずっと悪くなっていないならいいか。僕らには分からない」
「そうですね。私たち医者ではないですからね」
そんなこんなキョウカの身体の不思議について話して準備を終えて、稽古場のすぐ隣にある家に帰った。
「ただいまー、ってあれ」
玄関に見たことがない女性ものの靴と子供の靴があった。
「おかえり、イティラ。客が来ているよ」
(僕に客……誰だろうか)
「にーーちゃーーーん」
バタバタと廊下から音が響いて、顔を出したのはアルスだった。
「久しぶりだね、アルス。いらっしゃい」
僕が来ていいって言ったから来たのか。もうあれからだいぶ日が経つからてっきり忘れているのだと思っていた。というか僕が忘れていた。
「にいちゃんに会いたかったから」
ぴょんぴょんと跳ねて全身で喜びを表現してくれている。
「こら、人様のお家ですよ。こんにちは、イティラさん」
アルスを怒りながら現れたのはアルスのお母さんだった。
「こんにちは」
「誰?銀髪のねーちゃん」
いつの間にかアルスがキョウカの元に近づいていた。
「……キョウカ」
「キョウカ?キョウカもねーちゃん」
ぴょんぴょんとまた跳ねて「ねーちゃん、ねーちゃん」と繰り返していた。
「元気ですよね」
ロニエが僕の横に来てそう言った。
「そうだね。しっかりと育って欲しいよ」
「こっちのねーちゃんは?」
さっきまで跳ね回っていたアルスが今度は気付いたらロニエの前にいた。
「私はロニエです。よろしくね」
「うん!ロニエねーちゃん」
ふふふ、と笑うロニエ。
それを見た僕まで何故か笑えてきてしまった。
アルスの再登場。元気な子供は良いですね。




