決意
「ぐっ、畜生」
不意打ちだけの男、その認識を改めるまでそう時間は掛からなかった。
最初の短剣はあくまで開幕に過ぎなかった。巨大な鈍器が宙を舞い、突然火柱が地面から生え、何もない空間から剣が飛び出してくる。時には動物が召喚されて、時には男自身が宙を駆けて蹴り込んできた。
とにかく手札が多かった。それらを上手く組み合わせて退路を潰し、防御の隙を突き、俺の身体を傷付けてくる。
「最初の勢いはどうしましたか。ショーは自ら楽しむ心がなければ楽しめませんよ」
「畜生……」
ずっとあんな態度だ。俺を殺そうと思えばいくらでも出来るはず。しかし、ギリギリを責めて楽しんでいるようにしか見えない。
身体はボロボロ、手も足も出せない。故に言うしかない
「……畜生」
(何か案はないのか……何か)
俺の頭に一つの策が浮かんだ。しかし──
(肉体と魂の一致を行うか?しかし、リオルトは気絶している。どうなるか……)
俺は恵まれていなかったようで一致させると暴走してしまう。
しかし、リオルトの近くにいる時は別であった。さながら勇者が仲間を強化するかのように。
万が一、暴走したらリオルトまでもが危ない。しかし、しないと男にやられる。
俺は決意を固めた。意識を自分の内側へと移して、感覚を呼び起こす。
何者にも負けない力をこの身に纏わせてっ……。
「ぐっ……。ぐああああああ」
心臓が破けるほどの鼓動。途端に吹き出す汗。全身が千切れそうな痛み。
俺の体に起きているのは暴走の前兆。
(まずい。リオルト、すまない……)
破壊の衝動が全身に広がっていく。意識が薄くなっていく。魔力の流れが活発になる……。
「悪いがそうはさせない」
「ぐは」
俺は首に手刀を強く叩き込まれて暴走前に気を失った──。
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「二の閃──鏡雷斬、二連」
僕の剣技を防ごうとロニエが剣技を放ってくる。
しかし、手数も力も僕の方が上、僕はロニエの剣を弾き飛ばして追撃を仕掛ける瞬間──
「キョウカちゃん」
「……うん。ニの雪──撓雪打ち、三連」
キョウカとロニエが位置を変え、僕の前に現れたキョウカは滑らかな連斬で僕の剣技を受け流すようにして捌き切った。
「ふふ、久しぶりですでしたけど、上手くいきましたね」
「……なんとかなった」
九位階と戦った前の強化訓練のことだろう。相当練習していたのだろう、位置の入れ替えが指し示したかのように無駄がなかった。
「今度は逃がさない。一の塵──六切り、三連」
ロニエが瞬きをする間に死角に潜り、最速の連斬をするも
「攻撃魔法は使って良いんですよね。『放電』」
ロニエの身体を中心に魔力が広がり、それが性質を獲得して発現する。
「っっっっっっっく」
電流は瞬く間に身体中を駆け巡り、僕の意識を蝕んだ。
「ハアッ」
僕は瞬時に自分の頬を殴り、意識をはっきりさせる。
これは生存本能との稽古で編み出したものだ。確実に出来る技ではないけれど。
「本当にイティラ君は凄いですね。でも、私たちの勝ちです」
二人に気絶を防いだ一瞬で僕を挟んで立たれた。
「『飛翔斬』」
キョウカが僕の周りを駆け、飛び跳ねて不可視の斬撃を飛ばしてくる。それは僕の周りを埋め尽くした。
「『放電』」
一方、ロニエはキョウカが残してしまった穴を塞ぐように電気の矢を放った。
「ハアアアアア」
僕は肉体と魂を結び付けて、自分の正面に来た斬撃を斬る。
(電気の矢は避けろ、自分が通れる最低限の空間を開けるっ)
「三の塵──五月雨斬り」
僕は斬撃の空間をこじ開けた。
「嘘!」
「せいやああ」
「きゃん」
中段回し蹴りでロニエを飛ばし、
「一の閃──雷轟」
「っ……」
雷轟で接近して同じく回し蹴りで吹き飛ばした。
「ふう」
危なかった。何とか勝てた。
最後の攻撃、ロニエ達は目線だけで魔王の真似を成した。
(多分、今よりもずっと彼女達は強くなっていくと思う。負けていられない)
「痛てててて」
ロニエが戻ってきた。だいぶ遠くまで飛ばしてしまったのだろう。
肉体と魂を結び付けた時の力加減が不十分である。
「負けてしまいました今日こそ勝てると思ったのに……」
ロニエはがっくりと肩を落とした。
「ふふ、まだまだ負けてあげないよ」
「……凄い動きだった」
キョウカも戻ってきたようだ。
「ありがとう。ロニエ達も最後の包囲網、凄かったよ」
「まさかあれを抜けられるとは……」
「僕が戦った九位階の中にも同じようなことをしてきたやつがいたからね。
(あの時は生存本能が身体を動かしていたし、魔法を弾く速さ、強さが格段に上だったけれど。
「やっぱり経験の差ですかね」
(けど、本当にこの学院に来てから多くの強い人と戦ってきたなあ)
学院長、アレン、魔導書の影、先輩達、イルビィ、九位階、魔王。
(魔王とは再戦していつか勝ちたい)
今はその気持ちが大きい。ただ、命も大切にしないといけない。
「実戦の経験大事だけど、練習でも沢山の経験は得られるよ」
「そうですね。頑張りますよ〜」
むん、と両拳を胸の前で握りしめた。
「……私も」
キョウカもロニエの真似をして、両拳を握りしめた。
「僕だって負けないよ」
流石に僕は胸の両手を握りしめなかったが、他に何をするか思いつかずにワタワタしていると
「っく、ふふふふ」
その様子を見て、ロニエが笑った。
それにつられていつも無表情なキョウカも少し広角を上げていた。
つられたのは僕も同じで、しばらく三人で笑っていた。
(この幸せな時間を僕は守るために強くなるんだ)
まだまだ、二人に勝利は譲らない。




