勘違いと禁書
俺の役割は変わらずやつらの討伐なった。だから、目撃情報に従って俺は荒野を走り抜ける。
ここは元々緑が広がっていたが、この大戦の影響で焼かれ、荒れてしまった。この大戦は無意味に被害だけが拡大していく。
一方、彼は拳闘士を追った。しかし、本部はそこまで深追いをしなくて良いとの話だから直ぐにやつらの討伐にかかるだろう。
走った末に俺は目撃情報があった所に着いた。しかし、誰もいなかった。
「今日は外れか」
やつらだって移動する。もうすでに別の場所に移ってしまったのだろうと結論づけた。
今日はもう情報はないけれど、やつらや他の種族によって困らされている所はないか、探そうと思って背後を振り向くと
「やあ」
情報通りのピエロのメイクと格好の男が立っていた。その男は陽気に手を振る代わりに、巨大な鈍器を振り上げていて──。
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「「ただいま」」
「お帰りなさい。キョウカちゃん、久しぶり」
キョウカもその言葉に頷いて返した。
「イ、イティラ……。愛息子よ」
扉の前で話していた僕らの背後から父さんが外の作業から帰ってきた。その父さんは手をプルプルとさせて
「二股か!?」
そう言い切った。
「違うよ!というかロニエとも付き合ってないよ」
父さんはとんでもない勘違いをしている。
「いいんだ、イティラ。俺はあの日からお前がやりたいことは何でもさせてやるって決めたから」
そう言って落ち葉のようにヒラヒラと風に流されていった。
ん?父さんが何か口を動かしている。
(う・ま・く・や・れ・よ?やかましいわ)
おっと、口がつい悪くなってしまった。ロニエが来た日から父さんはずっとこんな感じだ。
(魔剣士学校時代に友達を連れてこなかった僕が悪いんだけど…………まあ、そもそもそんな人いなかっただけだけど、ぐすん)
「イティラ君?」
「おっとごめん」
ずいぶん長い間、昔を思い出して悲しんでいたようだ。
「イティラ君が戻ってくるまでの時間でロニエちゃんの部屋を綺麗にしておきました。荷物を運びましょう」
「掃除までしてくれたんだ。ありがとう」
「いえいえ。これぐらい当然です」
キョウカに各部屋の紹介をしながら廊下を進む。
「ここだね」
僕の部屋の二つ隣、ロニエの部屋の一つ隣の一番奥の部屋がキョウカの部屋だ。
(そういえばこの部屋には入ったことがなかったなあ。小さな頃は僕の部屋から奥は不気味なものが住んでいると思って近づかなかったからだったっけ)
昔を懐かしんでその部屋に入ったが、その部屋に驚きはなかった。僕の部屋と同じ作りで家具が多少少ない程度であった。
「ん?これは」
棚にポツンと置いてある黒い本を手に取った。
「ああ、その本なんですけど。ベットの下に落ちていて」
ベットの下?この家の寝具は敷布団だけ……ではなかった。この部屋にだけベットがあった。
「なんて書いてあるんだ?」
この大陸の言葉なんだろうけれど、僕が知っているのと少し違う。
むむむ、と唸っていると
「これは大戦直後まで使われていた旧文字ですよ」
ロニエが隣から顔を覗かせてそう言った。
「読める?」
「全部は出来ませんが少しなら。えーっと」
──『肉体と魂の一致』について禁書としてここに記す。常人はこれは決して極めべからず。極めたら最後、破壊に準じる暴走の僕となるだろう。故に残りの二冊を悪用されてはならぬ。
しかし、英雄の器、救世主は例外である。これを極め、力を得て、弱き者たちを救え。
「ここまでしか分かりません。少しですが分かる部分から推測すると、方法を示しているようですが……」
しかし、流石は博識だ。普段使っていない言葉を読めてしまうなんて。
「その禁書がどうしてこの家に?」
それに肉体と魂の結び付きについての本ではないか。
「この本の著者は……大戦当時の国王ですかね」
この家の先祖が大戦の功労者であったとかですかね、とロニエが呟いた。
「そんな話は聞いたことないけど」
「分かりません。ただの推測です」
けど、と置いて
「この本が普通ではないことが分かります」
そう、ただの子供が書いたようなものとは違う、本気の雰囲気を纏っているような気がする。
「……何か書いてある」
キョウカが本棚の側面を見てそう言った。
「これも……旧文字です。ただ、現代文字にに大分近いですね」
「……読める?」
ロニエはうーんと、えっと、むむむ、と唸って
「分かりません」
「まあ、読めないなら仕方がないか。いつか読めるようになったらまた開こう」
そう言って禁書を棚にしまった。
肉体と魂の一致のデメリット。さて、イティラはどっち。




