ロニエと強化
やつは案外早く見つけることが出来た。
「君は……。あの時死んでいなかったのか」
この前、俺に剣を刺し、癒えぬ傷跡をつけたこいつに。
「今度こそお前を倒す」
「困ったねえ。この辺には人の気配はない、人質は無理か」
ああ、困った困った、と首を肩をすくめて振っている。
「消えろ。龍王ノ牙──乱」
四方八方から斬撃を行い、やつの身体を一瞬にして跡形もなく斬り伏せた。
辺りを見回すが何かが起こる気配もない。
「案外、呆気なかったな」
そうして俺が立ち去った時、背後から声が聞こえた。
「【 変化】」
俺が振り向くと散り失せたはずのやつの身体が再形成されていっていた。
そして、その身体が完成すると更に九つの尾を持つ狐に変化していった。
「これで相手をしよう」
九尾狐になったやつが身体に鬼火を纏わせてそう言った──。
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山での訓練とお爺ちゃんの稽古、そして二日に一度の生存本能との稽古を続けて早一週間がたった。
やはり才能の面が大きいのだろう、ロニエの成長は目覚ましくあっという間に山での訓練に慣れてしまった。そのお陰で戦いにおける重心の置き方、移動の正確さを会得してお爺ちゃんにもその成果を認められた。
僕もそれに負けじと生存本能との稽古を重ねて、少しずつだけど魂と肉体の結び付きを強められている。
「ふう、自分の成長を感じられると楽しいですね」
コツを掴んだロニエの山を一周する時間は初日の半分以下にまでなっていた。しかも息切れを起こしていない。
「そうだね。そろそろ内容を変えよう」
「内容を?」
「うん。木を乗り継いでいくだけはもう慣れたでしょ」
はい、とロニエは頷いた。
「だから今度は山中を走るんだ、害獣を狩りながら」
ここの山は葉っぱが多く落ちているせいで走り込みづらい。
「害獣って例えばどんなですか」
「電車の時に現れた熊、覚えてる?」
ロニエは斜め上を見上げて、やがて思い出したのか、はいと頷いた。
「あれとか正にそう。他にも猪や狼などこの辺の住民に危害が加えられる可能性があるものが多い」
「そうなんですか。この地域には狩人さんとかはいないんですか」
「狩人はいるし、お爺ちゃんも偶に山に来て狩っているけど……」
この地域の狩人はとても凄腕であり、お爺ちゃんの実力も言わずもがなである。が、
「この山は広いからどこで繁殖しているか掴みづらいんだ。だからちょっとやそっと狩ったところでまたすぐに増えてしまう」
「そうなんですか」
「だから、訓練にも最適なんだよね。害獣はどれも身体が丈夫だから的確に弱点を見抜いて攻撃する必要があるから」
へええ、と相槌をうつロニエの背後から茂みを掻き分ける音がした。
「どうやら向こうから来てくれたみたいだよ」
僕とロニエが視線を移すと僕の二倍ぐらいの背丈の熊が出てきた。
「どうやってやるんですか」
弱点を見抜く方法を教えていなかったのを忘れていた。まあ、今回の相手は楽だから良いか。
「熊の肩口を見て」
よく見ると深い引っ掻き傷がある。多分、仲間内で激しくやり合ったのだろう。
「今回はあそこ。第一の弱点としては大きな傷がある箇所」
「分かりました。一の閃──雷轟、二の閃──鏡雷斬」
ロニエは雷轟で飛び上がりながら接近して傷口に沿うように綺麗に斬ってみせた。
「ぐがあああああああ」
が、一度の剣技で仕留めきれなかった。熊はロニエの頭から噛み砕こうとして
──その首が落とされた。
早業であった。その斬撃は僕の視界にも映らず首を斬り落とした。
「どうでしょうか」
ロニエは剣を鞘に収めて振り返った。その顔は満面の笑みでこの暗い森を明るく照らすようであった。
「最高だよ。最後の斬撃、僕には分からなかった」
「ふふふ、学院長にたくさん稽古をつけてもらっていたんですよ」
どうやら魔王戦後、僕の看病の合間を縫って学院長に稽古をつけてもらっていたらしい。
「学院長の三の型──急襲です」
どうやら見えていないのは斬撃だけでなくロニエ自身もだったようで、熊の噛みつきを避けて一瞬空中に飛び上がり斬り落としたらしい。
「本当に凄いね、ロニエは」
「えへへ」
努力の成果が身を結んだおかげでロニエも満足そうだ。
「僕も頑張らないとな」
魂と肉体の結び付き、剣技の上達、基礎能力の強化、やることは山積みだ。
僕の呟きは虚空に消えたが、決意は新たに固まった。
ロニエの成長が凄まじい。
最近タイトルにロニエが付きすぎな件。




