ロニエとお仕置き
「滅べ」
俺の剣技が奴の身体を通過するとそれは跡形もなく消え去った。
「ちっ、逃げられたか」
剣技が当たる瞬間に奴は能力で俺の手の届かない所まで逃げていってしまった。斬ったのは残像であった。
「畜生」
奴はしばらくこの辺りには寄り付かないだろう。
貴重な目撃情報であったのに無駄にしてしまった。
俺は天を仰ぎ、更なる力を欲した。
アイツらを倒し、この大戦を終結させる力を。
誰も傷つけさせない力を。
皆を救うための力を。
──尤も祈る対象なんて無いのだけれど。
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「おえええええ。気持ち悪い」
僕は四つん這いになって苦しんでいた。
「当然です。それくらいの苦しみ、我慢してください」
どうやら僕は怒らせてはいけない人を怒らせてしまったらしい。
むっすりとした表情は勿論可愛いのだが、過剰な仕打ちのせいでその可愛さは五割減である。
「はああ、はああ。ふう」
深い呼吸を何度も繰り返して調子を取り戻し、やっとロニエと正面から向き合うことが出来た。
「もう許して下さい」
謝った。彼女の機嫌を取り戻すには謝るしかなかった。
「つーん」
「ロニエさん?」
僕が顔を合わせようとすると、ロニエにそう言いながら顔を逸らされた。
「つーん」
いつの日かに見ためんどくさくも可愛らしいロニエが帰ってきてしまった。
今回に限っては、引き起こした原因は紛れもなく僕であるから文句の一つも言えないのだけれど。
「ロニエさん、そろそろ訓練しないと日が暮れますよ」
僕が機嫌を直してもらえるように丁寧に接しながらどうしようか、どうしようかと考えていると
「今日は泣き疲れました。負ぶっていってください」
「僕が、ロニエを負ぶって帰る!?」
僕らはかなり奥まで入り込んでいる。それに──。
「はい。勿論、やってくれますよね」
いつもの笑顔とは違う、何か圧のようなものを感じる。
「……はい」
ここは了承するしかなかった。
僕がしゃがみ込むとロニエは背中から抱きついてきて、彼女を落とさないように背負った。
(軽い。それに柔らかい)
彼女は羽根のようにとても軽く、彼女を背負ったままでもいつも通りに走れそうだった。
そして何より、僕に触れる四肢や豊満なそれ。なるべく意識から外そうとしても男の差性か、背中の神経に集中してしまう。
「んー、高いです」
僕とロニエの身長はそう大して変わらないけれど、背負った分視界が高くなって気分が上がったのだろう。
彼女が前後にゆさゆさ揺れるせいで更に意識が向いてしまう。
「ろ、ロニエ。行くよ」
「はい!」
僕は駆けた。木を避け、害獣を狩り、ロニエを振り落とさないように駆け降りた。
山を抜けてからも、地域住民からの好奇の目に晒されようと駆け抜けた。
「きゃあああ、楽しい」
ロニエはまた叫んでいるけれど、今回のは恐怖でなく楽しさで叫んでいる。
(機嫌を直してくれて良かった)
この調子なら家に着く頃にはさっきの事を忘れているだろう。
どんどん日が暮れてきていて住処に向かう鳥たちが飛んでいる。また、あちこちで虫が鳴き合唱のようである。
「着いた」
かなりの速度で走ってきたから行きの半分くらいの時間で家に到着することが出来た。
「あー、楽しかったです」
とても満足気な顔で微笑むロニエ。
やっぱり、ロニエは普通に笑っている顔が似合う。
今後は笑顔の圧を引き起こさないようにしようと心に決めて、家に入った。
「お帰り。遅かったな」
「ただいま。山に行っていたんだ」
「風呂は出来ている、先入ってこい」
父さんは僕の汗の状態を見て、そう言った。
「ロニエ、先入る?」
ロニエは女子だ。その辺の配慮を働かせると
「イティラ君の後でいいです。イティラ君、沢山汗をかいていますから風邪をひいてしまいます」
「そっか、じゃあ先に入るね」
僕は脱衣所で服を脱いで風呂に向かう。
学院の風呂は石造りであるけど、この家のは木製である。
手入れが非常に面倒な代わりに木の温かみや香りが感じられて僕はこっちが気に入っている。
(今日はとても疲れたけど、とても楽しかった。しばらくこのような生活なら毎日がもっともっと楽しくなるなぁ)
「はあああああ」
今日を振り返りながらそう言いながら湯船の中にブクブクと沈んでいこうとすると
「ああああ、うおっ」
突然、ガラッと音を立てて引き戸が開いた。
瞬時に視線を戸の方に飛ばすとそこには綺麗な赤いストレート髪の少女が立っていた。
「お背中お流しいたします」
ロニエは小悪魔のように微笑んでそう言った。
何とも楽しそうで良いですねえ。
次回はお楽しみ!?




