ロニエと叫び
「ハアッ」
「「「ぐはあああああ」」」
「せいやああ」
「「ごふっ、ごああ」」
──この世は不条理だ。
俺は生きとし生けるもの全ての命を守りたい。
しかし、その守りたいものは自分たちに刃を向けて殺さんとしてくる。
同胞を守るために救うべきものを斬らなくてはならない。
それによって多種族の攻撃はさらに激化する。
「俺は一体どうすればいいんだ……」
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「きゃっ」
パタン、という音と共にロニエが尻餅をついた。
「身体を制御しきれていない」
お爺ちゃんはロニエの戦い方は力任せだと言う。
恐らくであるがその原因は『魂の転移』にあると思う。
「ただ、制御すれば確実に強くなる」
そう言ってお爺ちゃんは畑の方へ歩いていった。
「お爺さん、強いですねえ」
僕が手を差し伸べるとロニエは掴んで立ち上がった。
(指がとても細い……。これでよく折れないなあ)
触れ感じ、少し力を入れればすぐに骨が折れてしまうくらいの細さであった。
男女の筋力や運動神経、身体の作りを比べると少し女子の方が闘いに向いていないと思う。
けれど、そんな事も感じさせないほどの強さであるロニエは本当に凄いと思った。
「あ、あの……イティラ君」
「うん?」
僕が顔を上げると顔を赤くしたロニエがいた。
「その、えーと……手を」
「手?…………!」
ロニエを立ち上がらせてから僕はロニエの手をニギニギとしながら凝視していたらしい。
慌てて僕が手を離すと
ヒュ〜、と不意に背後から聞こえた。
僕が背後を向くと
「青春だねえ」
そう言って父さんがその場を離れていく。
「ちょ、ちょっと待って父さん」
「あとはごゆっくり〜」
僕らの方に手を振って離れていった。
「えっと、あはは」
照れているのを隠すように笑うその表情はあまりの可愛らしさで辺りの何もかもを溶かしていって
「可愛い」
僕の理性をも溶かしてしまった。
発した言葉は取り消せず、気付いた時にはもう遅い。
「えっ!」
「あっ!」
一瞬の沈黙がその場を支配してきたが、僕は振り払って
「ええっと、今のは違くて……」
ロニエはその言葉に少し悲しそうにして
「違うんですか……」
か細くそう呟いた。
「いや、えっとそうじゃなくて……」
「そうじゃなくて?」
「うーんと、とっても…… 」
とんでもない事を言った上に、後半は声になっていなかったような気がするけど、まあいいか。
目の前のロニエがこんなに嬉しそうにしているんだから。
「さっ、さて次は何をしようか」
今日はまだまだある。
「もっと訓練したいです」
「肉体の制御を訓練したいの?」
「はい」
「そっか。それだとひたすら動いたり、戦ったりするしかないかな」
一度目の『魂の転移』の後、僕はひたすら山で獣を狩りながら走らさせられた。
「僕に付いてきて」
僕らは山に向かって走った。
走り始めて数十分、山のかなり奥まで入ってきた。
森の中は鬱蒼としていて少し不気味だ。
「い、イティラ君。ここお化けとか……出ませんよね」
ロニエは恐怖で声が小さく震えている。
「ロニエ、お化けが怖いの?」
「怖くありません。少し苦手なだけです」
そう言うロニエの姿は意地を張って嫌だと言えない子供のようだった。
「そっか。この山、実はね……」
「じ、実は……」
声だけじゃなく身体も震え出してきた。
僕はその姿を見て少し面白くなってしまっていた。
「出るんだよ。この世に恨みを持つ者たちの亡霊が……」
「きゃあああああ」
ロニエはそう叫んでしゃがみ込んで
「嫌です、怖いです。もう動けません、動きたくありません」
かなり本気で泣きながらそう訴えてくる。
(折れるのが早いなあ)
これだけで終わりにするのは勿体なく感じて僕は気配を消して背後に回って
「わあ!」
「きゃああああああ」
目を瞑って頭を抱え、怖い怖い、と泣き叫ぶロニエ。
(流石にやりすぎたか)
初めて浮かんだ嗜虐心に従ったところ、ロニエを大泣きさせてしまった。
「ごめん、ごめん。僕だよ」
「イティラ君……」
顔を上げたロニエからは大粒の涙が溢れていて助けを求めているような感じだった。
「揶揄いすぎちゃった。さっきのは嘘だよ」
うっく、うう、とロニエはそれから一頻り泣くと
「イティラ君!!!」
目の周りを赤く腫らしたロニエが僕に迫ってくる。
「う、ごめん」
赤く綺麗なストレート髪が逆立って見えるほど彼女は怒っていた。
「ほんっっとうに怖かったんですよ」
胸ぐらを掴まれて前後に激しく振られる。
「だって、怖くないって言っていたから……」
「だっても何もありません」
その声は色々な動物がいる森中に響き渡り、しばらくの間森に静寂が訪れた。
その間、僕はお仕置きとしてしばらくロニエに振られ続けた。
──物凄く酔った。
日常描写、しっかり出来ているでしょうか……。




