有名人
また学院長に抱えられて都市を駆け抜け、寮に帰ってきた。
「おかえりなさい」
ロニエが出迎えてくれた。
しかし、ロニエだけではなく
「……おかえり、元気?」
キョウカもいた。
「ただいま、元気だよ」
「イティラ君、この前の話、覚えていますか」
「この前の話?」
「イティラ君のお家に行くというお話です」
「あー、そんな事話してたね」
魔王と戦う前の話だったか。
「折角、長期のお休みになったので突然ですけど、伺わせていただけませんか」
家は父さんが綺麗にしてくれているし、別に断る理由もない。
「いいよ。キョウカは?」
「……孤児院に、行ってから」
「分かった」
本当はアレンも呼びたいけれど、魔王に惨敗した悔しさから鍛錬をする、と直ぐに実家に帰ってしまったらしい。
「荷物の準備をしないといけないし、出発はいつにする?」
僕の実家までは遠い。流石に日帰りは出来ないから、着替えとかが必要になる。女子であるロニエやキョウカは尚更多くなるだろう。
「実はですね、もうまとめてあるんですよ」
「もう!?早いね」
「はい、イティラ君が起きる前から楽しみでうずうずしてしまったので」
遠足に行く前の子供みたいですかね、と恥ずかしそうな顔で微笑んでいた。本当にロニエは表情のバリエーションに富んでいる。しかも、そのどれもが可愛らしい。
向日葵のような笑顔に、頬を膨らませて不満を訴えている顔、照れたように笑う顔や母親のように包み込むような笑顔────。
「イティラ君?ボーッとしていますがまだ体調が良くないですか」
ロニエの顔を浮かべていたせいで、黙り込んでしまっていたらしい。恐るべきロニエ。
「もう元気だよ。それで、明日にも出発する?」
家には服はあるし、最低限のお金さえあれば何とかなるだろう。
「はい」
(どれだけ期待してくれているのか分からないけど、少しでも期待に添えるようにしたいな)
その後、キョウカと合流の方法などを話し合って部屋に戻り軽く荷物をまとめた。
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「今日もいい天気ですね」
駅に着き、ロニエがそう言った。
「もう夏だからね」
まだ入りたてで茹だるような暑さではないけれど、遮る雲ひとつない空からは日光は強く僕らを照らす。
「あっ、トロムさんだ」
名前を呼ばれてそちらを向くと見知らぬ少女であった。
「僕のことをどこかで?」
そう聞くと横からロニエにくいくいと袖を引っ張られた。
「あれですよ、あれ」
ロニエの指が指す方に視線を向けると
──イティラ・トロム、魔王を撃退。大陸の危機を救う二代目勇者現るか!?
と言葉を添えられた僕の写真が大きく貼られていた。
「なにあれ」
「イティラ君は寝ていたから知らないでしょうけど、遠隔映像魔法や音声拡張魔法で結構、イティラ君のことが流れていたんですよ」
「あっ、グラム君だ」
「あれが噂のイティラ・トロムか」
「イティラ君可愛い、結婚して」
「ね、今やイティラ君はこの大陸で最も知られている学院生ですよ」
いつの間にこんなことに……。
「さあ、ここに居続けたら人が集まってしまいますから早く電車に乗りましょう」
「そうだね」
僕らが歩を進めて電車に乗り込むと
「イティラ君待って。結婚してえ」
という声が響いたのは別のお話。
ガタンゴトン、という音を立てて電車は進む。
今日は平日であるから乗っているのは僕とロニエと御老人の夫婦だけだ。
御老人方はこちらに気付いて
「あれまあ、トロムさんじゃないの」
「どれどれ本当か、って本物じゃないか」
随分と元気な夫婦だ。
「こんにちは」
「こんにちは、私たちの生活を守ってくれてありがとうね」
お婆さんがそう言った。魔王に支配されていた時代を長く生きた方らしく、その苦しみを知っているようだ。
「生活を守るだなんてそんな。たまたま運が良かったんですよ」
「運だってその人の才能だ。事の過程はどうであれ、君は魔王を追い出すという偉業を成し遂げた。それは変わらない」
何やら褒められているようだ。お爺ちゃんの言葉もそうだけど、どうして年配の方の言葉はこんなに胸に響くのだろうか。
「はい、分かりました」
「これからも頑張ってね」
夫婦との会話を終えて視線を窓の外に向けるとそこは田園が広がっていた。
「これはすごいですね」
都市の中央には田園などないからロニエには珍しいのだろう。
しっかりと手入れされていて作物は状態も良いのだろうけど、見るものとして、風景として美しい。
「イティラ君のお家はどんな感じなんでしょう」
ロニエはワクワクと目を輝かせていた。
(ロニエに目一杯楽しんでほしいから何も起こらなければいいな)
そう思っても現実はそうはいかない。
突然、電車がキュキューッと音を立てて急停止した。
ロニエを連れて実家に帰省。そこで聞かされるは昔の話。衝撃の真実にイティラは──。
次回、四章開幕。




