褒賞と損害
九位階、魔王との戦いから三日後、僕はやっと魔力切れによる体調不良が直った後のこと。
「貴君の功績、大義であった。故にこれらを授ける」
この大陸の頂点から勲章と大量のお金を受け取っていた。
自分でも何が起こったのか未だに掴む事が出来ないでいた。
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「ううん、ん」
目眩がするか、吐き気がするか、確認をして諦めて布団に入り直すのが最近の習慣となった。
今朝も流れ作業のように自分に布団を掛けようとすると
「ん。あれ、治ったああああ」
いくら目を開けてもいつも通りの僕の部屋、立ち上がっても気持ち悪くならない。
ようやく解放される、と思っているとガチャリ、と音を立てて扉が開いた。
「ようやく治りましたか、良かったです」
ロニエがひょっこりと顔を出した。
「うん、やっとだ……よ」
ここで一つ疑問が浮かぶ。
「って、何でいるのおおおお」
ここは男子寮、女子禁制の場所。それにこの部屋の鍵は掛けてあったはず。寮長は本人以外には絶対にその人の鍵を渡さない人だ。
その二つの意味を込めて聞くと
「学院長権限です。イティラ君のお世話をしていました」
向日葵のような笑顔でとんでもないことを言う。
それなのに可愛い、と思えるのは調子が戻ったからだろう。
「そう言えば私がこの部屋に入っている時はイティラ君、ずっと寝ていましたからね」
気付いていないのも当然です、と自己完結していた。
「お世話ってちなみに何?」
「お掃除をしたり、布団を変えたり、飲み物を用意したり……」
そう言えば、起きたら布団が変わっていたり、常に温かめの水が用意されていたりしていた気がする。
ありがとう、と言おうとするとロニエが言葉を続けた。
「あとはお着替えさせたり、身体を拭いたりして、いました」
後半少し顔が赤くなっていたのは気のせいだろうか。
着替えに身体拭き、確かにしばらく寝ていたのに汗臭さとかは一切感じられない。
けど、
「僕の裸を見たの……?」
「極力見ないようにはしていましたよ」
「極力って、見たには見たんじゃん」
こんな美少女に寝ている間に世話をしてもらっていた、というのは人によっては嬉しいのだろう。
けど僕は自分の貧相な身体が彼女に見られた事が嫌であった。
「それは……見えちゃった時もありましたけど。あっ、大丈夫ですよ、男の方は筋肉が全てではないと思います」
特大の地雷が踏まれた。
暗に筋肉が全然ないと言われた僕の心はボロボロだった。
人は頭で理解していても他人に言われてしまうと大分傷つくということを新たに知った瞬間だった。
「ほ、他には何かしなかったの?」
一刻も早く話題を変えたかった。
「他ですか、えっと……!な、何にもありませんでしたよ」
首をブンブン振って何もしていませんと訴えかけてくるロニエ。誠実な彼女が言うんだからそうなんだろうけど、やっぱり身体を見られたのは恥ずかしい。
「そっか、まあ色々とありがとう」
「どういたしまして」
えへへ、と微笑んでそう言ってくれた。
「そうでしたイティラ君が元気になったら呼べと学院長から言われていたんでした」
イティラ君は制服に着替えていてください、と言い残すとすぐさま出ていった。
「そういえば、僕の世話ならアレンでも良かったんじゃ」
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僕の部屋に学院長がやってきた。
「調子が戻って良かったよ」
「ロニエのお陰でもうすっかり元気になりました」
学院長がそうか、と置いて
「突然で悪いけど、ちょっと付いてきてくれ」
と言うと気付いた時には僕は学院長に抱えられてとてつもない速さで都市の中を通過していた。
「ちょ、ちょっと待ってください。僕はどこへ」
「行けば分かる。何としてでも連れてこい、とのお達しだからな」
訳もわからず学院長に連れて行かれてたどり着いたのが、この大陸に住む人なら誰でも見覚えのある建物──王宮。
「何故、王宮に」
「何故って、イティラが魔王を撃退したからだけど」
連絡がついていたのか早々に四代目大陸王の前に通されて僕は褒賞を渡されていた。
「って、いやいや学生の身分の僕はこれ程の大金を頂くわけにはいきませんよ」
目の前に見えるお金はざっと見て一年遊んで暮らせるほどだ。
「いいや、受け取ってくれたまえ」
いやでも、と躊躇っていると
「イティラ、受け取っておけ。この人は功績をあげたものには絶対に褒賞を授けないと気が済まない人なんだ。しかも性質が悪いのが……」
「勇者君」
学院長の声を遮るように王様が声を発した。この距離で聞こえるってどれだけ聴力がいいのか。
(それはいいとして、性質が悪いのが、何なんだろうか)
今の僕には考えても無駄なことである。
「分かりました。ありがたく頂戴します」
ずっしりとしたお金の重み、僕はこれ程の働きを出来たのだろうか。
「そう言えば、何故僕だけなのでしょうか」
あの戦いにはロニエやキョウカ、アレンがいた。
「ロニエ達から事情は聞いている。調査したところイティラの攻撃の直後、魔王は大陸外に逃げていった」
「けど、魔王が戻ってきたら意味がないですよね」
大陸外に出られるなら戻ってくることも可能なはずだ。
「そこでわしの魔法だ。この大陸や民に害意を持つ者が外からこの大陸に入ることが出来ない結界が海との境に張り巡らされている」
(実質的に魔王がこの大陸に入れなくなったということか)
「理解しました」
「うむ、もう下がってよい」
「失礼します」
僕と学院長は王宮を出た。
「そういえば、授業はどうなるんですか」
学院長の身体ががピクリと跳ねた。
「そうなんだよ。それだよ……」
学院長はポツポツと言い出した。
学院のあちこちがダメになってしまったから、殆ど全体を改修する。
だから、しばらくは休みにする。
改修費で学院長は借金たっぷり。
学院長にとって今回の事件は本当に大惨事であったと。
地獄の借金返済生活が今始まる……。




