二人と魂の世界
僕はこの魂の世界について知っている限りのことを話した。無論、僕の魔法のことも。
「自分の魂でしかやった事ないけれど、魂の'転移'というくらいだから他人のも出来ると思う、確証はないけど」
出来るかどうかは五分五分だけれど、出来ると信じたい。
ロニエはずっと黙って僕の話を聞いてくれていた。
「そうだったんですね」
僕の話の終わりにどこか安心したような、しかし悲しいような顔を上げた。
「そういえば魔王は?アレンは?」
連れ去られそうになっていたアレンと魔王の姿を確認出来なかった。
「魔王はイティラ君が倒していたじゃないですか」
「え……?僕、そんな事していないよ。圧倒的に負けていたんだからそんなこと出来るわけ」
「身体がこうピカピカって光って、邪断の剣〜って。ここから見てました」
「記憶にないんだけど。それに本当に倒されたのなら魔王もここにいるはずだよ」
「でも、見たんですよ。キョウカちゃんも見ていましたよね」
隣でキョウカがコクコクと頷いている。
「もしそうなら魔王は逃げたか。じゃあ、アレンはどこに」
「アレン君ならその木に投げ飛ばされていましたよ」
ロニエが指を差したところに行くとアレンが倒れていた。
数カ所に傷があるのと締め上げられた首と打ちつけたであろう腕が青くなっているだけで致命傷はなさそうだ。
僕が『超回復』で回復するとすぐに治った。
僕らの身体にも使用して治した。
「よし、これで魂の転移も使える。ただ……」
三人分の魔力が残っているか微妙だ。
「ロニエとキョウカ、どっちが先にやる」
「キョウカちゃん、お先にどうぞ」
ん、とキョウカが言うと寄ってくる。
僕はキョウカの手を握ってイメージする。
(『魂の転移』を使う時は自分の肉体の中に今の自分を入れるようにしていた。だからキョウカの魂を感じて、それを彼女の肉体に入れるようにして……)
「『魂の転移』」
キョウカの魂は段々と薄くなって肉体に吸い込まれていった。
「凄い、こんな感じなんですね」
「僕も入っていくところを見るのは初めてだよ」
少しすると、キョウカの肉体が動き出した。
「よし、ちゃんと出来たみたいだ」
「そうですね」
キョウカは手を握ったり開いたり、首を左右に振ったりして動作を確認している。
そうしていると突然、少しであるがキョウカが顔を顰めた。
「どうしたのでしょうか」
「魂が肉体に置き換わったからいつもよと感覚が違うんだと思うよ」
「イティラ君にもその経験が?」
「残念ながらないよ。僕は本当に才能がないからね」
魂の転移で強くなっていなかったら今頃僕はどうなっていたのだろうか。
「そうですかね」
自分を卑下する子供と話す母親のような喋り方だった。
「そうだよ。身体が小さめだし、筋肉つきづらいし、剣士として足りていないものが多いんだよ」
「でも、イティラ君は咄嗟の判断が的確ですから。判断力は立派な才能だと思いますよ。それに魔力も多いですし」
──挙げればいくらでも良いところがあるんですから、自信持ってください。
その言葉が妙に僕の心に響いた。
「あるかな、良いところ」
「はい、あります」
「そっか。ありがとう、元気が出たよ」
「それなら良かったです」
と言うと手を重ねてきて
「私もお願いします」
「分かった。『魂の転移』」
キョウカと同じくロニエはどんどん薄くなっていって、やがて肉体に入っていった。
二人で大幅に魔力が減ったけれど残り魔力はギリギリある。
「『魂の転移』」
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目を開けると目の前にロニエがいた。
「おっ、目が覚めました」
その声を聞いた時に違和感がした。
「ん?どうしました」
僕の様子を見て首を傾げて心配そうに聞いてくる。
僕は
「気持ち悪い……世界が、回る……」
とてつもない目眩と気持ち悪さに苛まれていた。
「気持ち悪いって大丈夫ですか。私に何か出来ることは」
どうすれば良いかとバタバタしている。
「……魔力切れ」
キョウカが思いついたように言った。
「あっ……、それは」
「そ、れは?」
「頑張って、耐えてください」
彼女の向日葵のような笑顔が炸裂する。
(何でだ、ろう……。この、笑顔から可愛さを感じ、ないのは)
ロニエのこの調子も仕方がなかった。魔力切れの気持ち悪さを直す方法は見つかっていないのだから。
しかし今の僕にはそんな事を理解できるわけもなく
「この、いじわるぅ」
最後の力を振り絞ってそう言った。
「なんですとお、ふふ」
ロニエもこの苦しさを経験した事があるらしく、そう思うのも無理ないと苦笑しながら言ったそうだ、吐き気が収まった後に聞いた話である。
治るまで三日がかかり、その間僕はずっと苦しんでいた。
「しん、どい──」
絶対に魔力切れが起こらないはずの少年が魔力切れに。




