決闘
未修整なので雰囲気変わっちゃいます……すみません!
「あら、そんなに驚かなくていいのよ」
「あなたは……」
目の前の人物はよくよく見てみると──黒色のフードを被った細身の女性だった。
「私が誰なのかなんていいじゃない。それよりももっと大事な私に聞くべきことがあるんじゃないの」
(聞くべきことが……あっ)
「僕が死んだってどういう事ですか」
「そのままの意味よ。あなたは魔物の突進を受けて死んでしまったの」
「でも、僕はこうして動いている」
手を握ったり、飛び跳ねたりしてみるが問題はない。
「信じられないのは無理ないわ。でもね、あそこをご覧なさい」
女性が指を差した方向を見てみると……。
──血塗れで木に寄りかかっている僕がいた。
「ここは魂の世界。現世で死んだ者の魂が一時的に残留するところ」
「なんで……」
衝撃で女性が言っていることが耳に入ってこない。
僕が死んだ……。
イルビィに馬鹿にされた時、いつもみたいに冷静でいられたら。
決闘の為に山に入らなかったら。
山からすぐに出ていたら。
僕にもっと力があれば──
様々な可能性が頭の中を駆け巡る。
「──っと、ちょっとしっかりして」
女性の声で考えが振り払われた。
「僕はどうすれば」
「大丈夫よ。あなたの魔法を使えば、生き返れるわ」
(僕の魔法……)
「僕には魔法が発現していない」
「いいえ、あなたにはひとつだけ使える魔法があるわ。『魂の転移』よ」
「魂の転移?僕にそんな魔法が発現したなんて聞いたことがない」
「それはそうよ、それはここの魂の世界でしか使えないのだし、
そもそもその魔法はこの魂の世界に存在する魔法だもの」
「魂の世界の魔法……そんな魔法が何故僕に」
「あなた、生まれつき魔力量はとてつもなく多かったでしょう」
そう、僕は魔力量が多いのに魔法が発現していない、いわゆる宝の持ち腐れだ。
「この魔法は生まれつきあなたにあった。しかし、この魂の世界の魔法だから感知されなかったのよ」
そう言うと、女性は目を細めてふふっと笑った。
「魂の転移とはどういう魔法なんですか」
「魂の転移はその名の通り魂を器に入れる魔法よ。
具体的にいうと死んだ後に自分の身体にまた入り直すことが出来る」
「じゃあ、僕は生き返ることが出来るって事ですか」
「そういうこと。けどね、その為には肉体が生きてないといけないの。
今のあなたの肉体は多量出血に内臓破裂、所々粉砕骨折している状態」
「じゃあ、僕はやっぱり……」
希望が見えてしまったからこそショックが大きい。
「ごめんなさい、意地悪しちゃった。
あなたの身体を回復させる、その為には私はここにいるの」
「そう……なんですか」
「そう。じゃあ、早速試してみましょう」
女性はそう言った直後、回復魔法を発動させた。
「凄い魔力ですね」
「そうなのよ、現世で魔法を使うよりも魂の世界で魔法を使う方が物凄く沢山の魔力が必要なの。
──よし、回復出来たわ、肉体に意識を向けて唱えれば発動できるわよ」
「ありがとうございます。もう一度お聞きしますがお名前は」
「教えてあげない。次会った時に教えてあげる」
女性は微笑んでそう言った。
「それじゃあ行きなさい」
「はい、ありがとうございました」
僕の身体に意識を向けた。
「頑張って生きなさいよ」
「はい。『魂の転移』」
直後、視界が真っ黒になっていった。
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「『魂の転移』で肉体に入ると肉体と魂の結び付きが強くなる。この意味を考えておいてね」
目を覚ましたら、また山の中だった。
「生き返ったのか」
僕は木に寄りかかっている。
しかし、身体には痛みも傷もなかった。
「良かった……」
生き返れて安堵していたその瞬間
「ブルモオ゛オ゛オ゛オ゛」
鳴き声が山中に響いた。魔物がまだ近くを彷徨いていたのだろう。気配で気づかれてしまった。
「まずい」
すぐに起き上がりさっきと同じく剣を構える。
「ブオ゛オ゛オ゛オ゛」
魔物は興奮が解けていないのか体制を作るとすぐに突進を仕掛けてきた。
「二の塵──身躱し連斬」
その突進をギリギリで躱して、反撃の連斬を行うと
「ブォォア」
──魔物が倒れた。
(何が起こった……?)
さっきはかすり傷ひとつつかなかった攻撃が通り、魔物は血を吹き出した。
「魂の転移の効果か?」
あの女性は最後、魂と肉体の結び付きが強くなると言った。
「魂と肉体の結び付きが強くなると身体能力が向上するのか?」
そんな事を考えていると朝日が差してきた。
「やばい、学校の準備をしないと」
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決闘の事を考えていたら学校の授業が終わってしまった。
「よお、落ちこぼれ。この学校最後の授業はどうだったか」
ニヤニヤしながらイルビィが近づいてくる
「楽しかったよ、早く闘技場に行こう」
「昨日の生意気な態度はどうした」
笑いながらそう言ってきた。
イルビィは性格はとても悪いが、剣の腕は物凄く、先生にも勝つほどだ。
強くなったからといってこの学校一の天才には勝てない。
圧倒的な力の差に僕は勝つことは諦めていた。
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「落ちこぼれとイルビィ様の登場だ」
「イルビィ様、イルビィ様」
「落ちこぼれ、死ぬんじゃないぞ」
「イルビィ様との力の差を弁えろ」
闘技場に集まった多くの人が叫び出した。
「イルビィ、人が来るなんて聞いていない」
「俺もビックリしているよ」
目を開いて驚いたように言った。
「ごめんなさいねぇ。余計なことしちゃったかなぁ」
イビィルの取り巻きの女子がニヤニヤしながら耳元に絡みつくような声で言った。
「最高じゃねえか。皆んながおめえを見送りに来てくれてるんだから」
そう笑いながら言った。
「決闘を始めよう」
イルビィの言葉には耳を傾けずに言った。
「それじゃあイティラ君の甚振り始めるかあ」
ニヤっと嫌な表情を浮かべて言った。
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「両者位置について、礼」
僕たちの担任がそう言い、僕らは互いに礼をする。
決闘は神聖なるものだ。
いくらイルビィでも決闘の時になるとふざけた態度はとらない。
「両者構えて、始め」
僕とイティラは剣を抜き、互いを見合う。
先に動いたのはイルビィだった。
彼の大振りな袈裟斬りに合わせて回避をして、今度は僕が斬りかかる。
「一の塵──六切り」
六連切りのうち四つがイルビィに当たった。
「イティラてめえ、何をした。速さ、強さが前とは段違いじゃねえか」
目を見開いてそう驚きながら言った。
「ちょっとは成長出来たってことかな」
僕はしらばっくれてそう言った。
「成長って範囲じゃねえだろ。まあいい」
そう言って彼は構えを変えて
「二の翼──真空斬」
斬った空間を真空にするほど強い斬撃が僕を襲う。
「二の塵──身躱し連斬」
彼の斬撃を去なして連斬を浴びせる。
その内の一撃が顔を掠めて彼の頬から血が流れ出す。
「くっ、落ちこぼれのイティラがあ。一の翼──三段袈裟斬り」
頭に血が上ったように彼は斬りかかってきた。
「三の塵──五月雨斬り」
重い三度の斬撃に対して速さにを重視した十五連斬りで迎えうつ。
そして──
彼の一撃を二撃で跳ね返し、残った九連斬りが彼の身体を深く斬った。
「くふ……」
そう言って彼は剣を落として倒れた。
「勝者、イティラ・トロム」
先生の声が闘技場内に響き渡った。
闘技場は静まっていた。
「イティラって凄くね」
ある者がそう言ったのを皮切りに、
「そうだなあ、あのイルビィ様に正面から勝ったのだから」
「ああそうだ、彼がこの学校で最強だ」
多くの僕を称賛する声が響いた。
しかし、今まで散々罵ってきたことを僕は忘れていない。
掌を返した彼らを僕は冷たい目で見た。
その後、気を取り戻したイルビィは苦虫を噛み潰したような顔で僕に謝り、昨日の事を訂正した。
以降、彼の虐めはなくなり、王のように振る舞っていた彼は静かになったのだった。
恐るべき成長度合い。