敗北
「いやあ、中々の上物が手に入ったなあ」
魔王は肩に担いだアレンを見てそう言った。
「健在能力も潜在能力も高い、低い魔法力と魔力は俺が分け与えればいいし」
魔王はルンルンであった、スキップをするぐらいには。
魔王がしようとしているのは全滅させられた九位階の再編成。アレンの身体を魔法体に変えて、魔族を作ろうとしていた。
壊滅させられた九位階は魔王が魔力から創り上げた、真の肉体を持たない仮魔族の集団であった。
しかし、別の何かを媒介として、魔族に創り上げる方法で創られた魔族は九位階以上に強力な力を持つ戦士となる。更にアレンなど戦闘においての才能があればあるほど強い個体が出来る。
「さて、一度拠点に置いてから迷惑な勇者に会いに行きますか」
そう言った直後魔王の背後が光り輝いた。
「何だ?」
魔王が振り向くとそこには首の骨を砕いて確実に殺したはずのイティラが光を発しながら立っていた。
(話にあった暴走か?しかし、聞いた情報とは全く異なる)
前に暴走した時のイティラはフラフラとして動物のように吠えていた。
しかし、今のイティラは背筋が伸びて光を発している。何よりも右目の色が黒から紫色なっている。
「オマエハ絶対ニ、殺ス」
「様子がおかしいがまあいい、さっきので死ななかったのならもう一度やるまでっ……」
さっきまで完全に気配が消えることはなかった。故に油断していた。
気づいた時には背後でイティラ剣を振り下ろしていた。
「あっぶねえ」
アレンを突き飛ばす勢いで回避をして状況を理解する。
(こいつ、確実に強くなってやがる)
今まで傷一つ俺につけることが出来なかったのに、と呟き赤い線が引かれた腕に触れた。
「『針山』」
消費魔力を気にせず地面からも空中からも針を飛ばしてイティラを確実に倒そうとするが
避けられないように広範囲でありながらも密集させたのにも関わらず、魔法の発現者である魔王すらも気づかなかった安置をイティラは知っているかのように全てを避けていた。
「『魔獣』」
魔王は数千にも及ぶ大型魔獣を呼び出した。
それらもイティラの歩みの前では無駄であった。イティラに触れようとした魔獣は気づいた時には細切れにされていた。
やがて、魔獣達もその力に慄き近づかなくなっていった。
「やるんだ、お前たち」
魔法の強制力で無理矢理向かわせるも片っ端から細切れに、ある魔獣は姿形すらも残されなかった。
「ちっ、何なんだよお前は」
イティラの斬りかかりに魔法が練り込まれた剣──魔剣を当ててその剣を無効化をした。
(よし。…………いや、そもそもなんでさっきの今で『纏気』が剥がされてるんだ!?)
気付いた頃には時すでに遅し。イティラの剣には魔王の気が纏わりついてなく、胴体に剣が斬り込まれる寸前であった。
「ぐふうっ」
大きく胸を裂かれてみっともない声を発しながら魔王は膝を突いた。
イティラは魔王に向かって歩いていく。
一歩、二歩、三歩と来た所で
「かかったなあ」
イティラが踏んだ地面から無数の太い針が飛び出してくる。
残り魔力の殆どを消費しながらもその針の一つひとつに『爆破』を付与して、避けても爆破に巻き込まれて死ぬように細工が施されてある。魔王の奥の手の一つである。
「……」
「何でだ……」
魔王は確実にこの目で針が突き刺さり、身体の内部から爆破され、外も爆破に巻き込まれてボロボロになる姿を見た。
なのに目の前には身体どころか衣服にすら傷一つないイティラが立っている。
「死ネ。邪断ノ剣──滅」
「これはヤバい」
しかし逃げようにも身体が動かない。まるで何かで周囲を固められているかのように。
邪を断つ剣が魔王を脳天から両断して──。
「逃ゲラレタ」
途中までは斬り割いていた感覚があったが、それが突然消えてしまった。振り下ろされた剣の先は無であった。
魔王の気配を捜索するが見つからなかった。完全に斬られる前に魔法で逃げていったのだろう。
──今のイティラの捜索可能範囲内であるこの大陸全土から。
捜索を終えたイティラの足元はふらついて倒れた。
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「ここは……魂の世界か」
ここに来るといつも声を掛けてくれたあの人。話すとどこか安心するあの人。陰で何かを企んでいたらしいあの人。
「えっと、確か僕は首を締め上げられて……」
意識を失う前の状態を確認していると
「イティラ君!?ここは何なんですか」
ロニエが背後にいて、私がいるのに傷だらけの私がそこに寝ていますし、とにかく混乱している様子であった。
「落ち着いて、深呼吸、深呼吸」
「え、あっはい。すうう、はあああ。すううう、はああ。って何で逆にイティラ君はそんなに落ち着いているんですか」
(テンションがめちゃめちゃだ。まあ、僕も最初の時はすごく取り乱していたけど)
そんなロニエも可愛いと思ってしまう僕は可笑しいのだろうか。
「ここは魂の世界。現世で死んだ者の魂が一時的に残留するところ」
あの時、女性が言ってくれた時と同じ調子、同じ言葉で伝えた。
「私が死んだっ!?そ、そんな、まだやりたい事が沢山あったのに」
興奮が解けてくれたから良かったけれど、代わりにしゅん、としてしまった。
「この状況、僕なら何とか出来るかもしれない」
輝くイティラ、今度は何が……?
最近、誤字が多すぎるのはどうすればいいでしょうか……。




