圧倒的な強さ
──死んだ状態でな
目の前の男はそんなことを言った。
その言葉に僕たちはすぐに剣を構えた。
「明らかに変だと思っていたけど、敵か」
「よくも俺の配下を皆殺しにしてくれたな、特にお前は三人も」
口角を上げて恐怖をも感じさせる顔でそう言った。
「あんたは何者だ。配下、と言う時点できまりだが」
僕の言葉に男はマントをバサッと払って
「ああ、俺は魔王ゾルーティンだ。かつてはこの大陸全土を支配していたな」
(魔王。学院長はあまり強くないと言っていたが、全くそんな事はないじゃないか)
明らかに九位階達とは違う風格を纏うこの男はまず間違いなく強い。
「一度は勇者に負けたが今度は勝つ、そのためにお前たちが必要なんだ」
「何を言っているのか分からない、けど僕らは絶対に負けない」
「ほう、九位階すら倒せない小娘二人と立て続けの戦闘と残存魔力が少ない貴様に出来るのか」
「出来るか、出来ないかじゃない。やるんだ」
僕は左右の二人と目線を交わし合い魔王に仕掛ける。
「四の塵──性質変化・剛、五の塵──豪剣連斬」
「『筋力増強』、三の閃──爆雷刃」
「『鋭敏化』、三の雪──狂雪月花」
各々が自らを強化して、二人は連斬を一人は高速の居合い斬りを三方から魔王に放つ。
それに対して魔王はふん、と言うと濃密な魔力の波動を身体から発した。
「っきゃあ」
「……っ」
ロニエとキョウカが波動に負けて吹き飛んでいく。
「はああああ」
耐え切った僕は魔王のその身に連斬を斬り込もうとした。
「ぐっ……」
しかし、魔王の後ろ蹴りが鳩尾に直撃してしまい体勢が崩れた。
僕は魔王に下がった頭に腰を入れた回し蹴りを浴びせられて後方に吹き飛んでしまった。
「『針山』」
魔王がそう唱えると心臓の直下に嫌な予感がしたが、
「くうううう」
魔王の桁違いな威力の蹴りによる痛みが僕の身体を支配した。
「一の閃──雷轟」
身体を動かせず巨大な針に貫かれる一歩手前でロニエが飛び込んできて僕の身体を運んでくれた。
「ありがとう……っ」
僕はロニエの方を見るとその右腕は大きく損傷していた。
僕が『超回復』を使おうとすると
「この傷なら大丈夫ですよ。それよりも魔王をどうするかです」
手で僕の行動を制してそう言った。
今はキョウカが魔王の相手をしていて、魔王の攻撃をなんとか受け流しているが押されかけていた。
桁違いの魔法に桁違いの力、広い視野。
今のところ魔王に欠点が見られない。
(僕は最悪の最悪、『魂の転移』で何とかなるけど、ロニエとキョウカは……)
二人の命は絶対に落とさせてはならない。
「ロニエとキョウカは後方から魔法を、僕が魔王に剣で挑む」
「でも、それではイティラ君が」
あまりにも危険です、そう言った彼女の顔は悲痛に染まっていた。
「とにかく、僕に任せて」
僕はそう言い終えるや否や雷轟で魔王に突っ込む、ロニエの呼び止めを無視して。
「三の塵──五月雨斬り」
「おっと、急に危ないな」
そんなことを言っているが物凄い余裕で避ける魔王。
「はあッ」
魂と肉体の結び付きはすでに今出来る限界まで高めた、体重移動も完璧な一斬りも通らない。
「『放電』」
「『飛翔斬』」
二人の魔法が死角から飛んできても
「ふっ」
魔王が小蝿を払うように手を振ると一瞬のうちに消えてしまった。
「一の塵──六切り」
一瞬向いた意識の外から連斬を仕掛けようとすると片手で捌かれる。
(一撃も当てられないなんてっ)
魔王はその腰に剣を携えているが一度も抜いていない。それでも、僕らは圧倒されている。
今もロニエ達が魔法を放つが当たらない。
「お前は何故、これほどの力を」
学院長の評価とは全く異なる強さ。
「何だ、時間稼ぎか。まあいいだろう」
俺が強いのはな、と一息置いて
「素質があるからだ。才能があるからだ」
手を広げて高らかにそう言うと背後から不可視の斬撃が飛んでくる
「この程度の魔法を何度も何度も、人が気持ちよく話しているというのに鬱陶しい。『針山』」
無数の針が彼女達の四方八方を取り囲んで、
「まずい」
放たれた。
あのイティラが擦りすらもさせられないなんて、強い。




