帰路
夏に入って日照時間が日に日に伸びているが今日は残念ながら曇天。冷たい風が吹き、今日の惨事を表すような薄暗い帰路を僕らは歩いていた。
「──私たちが殆ど攻撃を当てることが出来なかったヘイルに剣技をスパっと当てて倒していた姿、とても格好良かったんですよ」
「分かったよ。分かったからもうやめてえ……」
僕はロニエにずっと褒め倒されていた。
ロニエはさっきから熱が抜けないらしく、僕やアレンの戦いぶりをずっと凄かった、良かった、と言っている。
「推薦組でまた私だけ置いていかれてしまいました」
ロニエは自分だけが九位階を倒せなかったことを相当悔やんでいるようだ。
「今回のは四の型の有無じゃないかな」
アレンは元々、僕は直前の強化期間で習得したから倒せたのだと思う。
仮に四の型による身体能力向上がなければ倒せていなかっただろう。
「四の型ですか……」
四の型の習得は困難を極める。僕の塵山流の場合は習得が簡単な部類であるけれどロニエの紫電流は四つある流派のうち上から二番目に難しいとされている。
一番は当然、アレンの虎翼流である。
「ロニエに剣を教えてくれた人に指導を頼むしかないんじゃないかな」
「そうですよね。けど、今の私に習得出来ますかね……」
自分の力量を考えて不安そうにしている。
「僕には分からないけど。ロニエなら大丈夫だよ」
「ありがとうございます。キョウカちゃんはどなたに剣を教えてもらったんですか」
「……孤児院の先生」
(キョウカが前に会話慣れしていないって言っていたのは両親がいないからなのか)
「週末に偶に不在なのは孤児院に行っていたからですか」
「……そう」
「そうだったんですか。キョウカちゃんは物凄く強いですけど、その先生も強いのですか」
「……体力がある。二十人以上を一人で世話して、ニコニコしてた」
「その先生のこと、好きですか?」
「……うん」
ロニエは本当に会話が上手だ。相手を気遣いながらもそれを悟らせないような口調と表情でキョウカと話している。
(僕も見習わないとな)
僕も同年代と話すことが少なかったせいで会話が上手でない。今だって僕はどう話しかければいいか分からなかった。
「イティラ君はお爺さんに教えてもらったんですよね」
その問いに僕は頷いて返答した。
「お爺さんもとても強いのでしょうね」
「うん、そうだね」
お爺ちゃんは本当に強い。僕が弱いのもあるけど一度も勝ったことがない。
「私も指導していただきたいです」
「時間が出来たら家に来なよ。ここから少し遠いけど大歓迎だよ」
「ありがとうございます。絶対のお邪魔させていただきます」
まだ予定も決まっていないのにワクワクした様子のロニエはとても可愛らしかった。いや、いつも可愛いんですけど。
「……私もいい」
キョウカが袖口をくいくい引っ張ってそう聞いてきた。
「もちろんだよ。アレンも呼んでいつものメンバーで泊まりに来てよ」
「はい」
「……うん」
(そういえばこの学院に来てから一回も家に帰っていないな)
父さんとお爺ちゃんとは文通をしているからあまり帰っていないという感覚がなかったけれど学院に入ってもう二ヶ月が終わろうとしている。
流石に顔を見せにいかないとな、と思っていると
「イティラ君のお家ってどこにあるんですか」
「僕の家は中央都市の郊外にあるよ。電車を乗り継いで半日くらい」
「中央都市……魔剣士学校があるこの大陸で一番大きくて煌びやかな都市ですね」
そう、中央都市は高層建築や娯楽施設が立ち並ぶ、かなり発展している都市だ。その中で浮いた古風な雰囲気の魔剣士学校。
教育技術は凄いが見た目が微妙な学校だと周辺住民にはよく言われていた。
「ロニエはここ?」
この前の武具屋の店主との親しさは幼い頃から何度も顔を合わせていないとなかなか出来ないものだ。だからそう思った。
(まあ、ロニエなら全然顔を合わせていなくても出来そうだが)
「はい。東の都市、中央地域に家があります」
「都市の中央に!?お金持ちじゃないか」
この大陸のどこの都市も中央に家を持つだけでなく、維持するにも莫大な費用がかかる。
「お父さんとお母さんが頑張ってくれているだけですよ」
お母さんたちは本当に凄いです、とロニエが両親のことをとても誇らしく思っていることが感じられた。
「いい親御さんなんだね」
「はい」
向日葵のような輝く笑顔が咲いた。
僕らはその後も話しながら歩いてあと少しで寮、という所で何か嫌な予感を感じた。
「そこで待ち伏せているのは分かっている。隠れていないで出てこい」
「イティラ君?」
ロニエは僕の突然の行動に驚いている。
「はっはっは、流石は四と七を倒した者。気づかれましたか」
木の裏から長身で老齢な執事服を着た男性が出てきた。
この男の正体は……ってもうお分かりですね。




