小休止
「勝てたね」
僕がそう言うと
「そりゃあ、俺らなら当然だろ」
ふん、とアレンは鼻を鳴らして言った。
「イティラ君、アレン君……本当に凄いね」
さっきまで壁際にぺたんと座っていたロニエとキョウカが駆け寄ってきた。
「……凄い」
「はは、ありがとう」
この学院に入ってから素直に褒められる回数が増えているけどやっぱり慣れない。
照れで少し気恥ずかしくなりながらも顔色が変わらないように頑張った。
「おっ、こっちも終わったか。オレはどんな状況でも驚かない、驚かない」
学院長が闘技場の有り様を見たくないのか目を瞑りながら入ってきた。
「はい、何とか」
「やっぱりイティラたちに頼んで正解だった」
「それより学院長、目を開けてください。現実を見ましょう」
「い、嫌だ……。学院内を見回ったがそこかしこが大惨事。修復にどれだけの時間と費用がかかるか」
もう見たくない、と過去一番情けない姿である。
「けど、目を晒してもいられませんから」
「んぐ、それはそうだが。じゃあ、三、二、一で目を開けるぞ。三、二、一……」
そこからは言わずもがな、学院長はいやああああああああああ、と叫んで動かなくなってしまった。
当然だろう、整えられて平らだった地面は穴でボコボコで更にへイルの氷魔法のせいで脆くなってしまっている。
極め付けにファントムが暴れたせいでかなり高級な装飾が施された壁にまで被害が出ている。
「ここに来るまで学院長と一緒だったの?何で九位階との戦いを手伝ってもらわなかったの?」
学院長が壊れてしまった傍ら、ロニエがそう聞いてくる。
「うん。ここに二体いるのは分かった段階で、一がどこにも今ないのが心残りだったのと怪我人の確認のために校内中を駆け回るって」
「それってイティラ君が回った方が良かったんじゃ……」
回復魔法もあるし、とロニエが呟いた。
「いいや、ここの被害が一番ひどそうだから僕はこっちに来たんだ。それに僕がここに向かうって決めたせいで皆んなが危険に陥ってしまったんだから」
「それは私がここに来ようって言ったせいです」
「確かにね、けど決めたのは僕だから」
あそこで判断を間違えなければこんな大被害を生まずに済んだのだから。
「っち、見られていたな」
急に学院長の様子が戻ってそう呟いた。
「どうしたんですか」
「いいや、なんでもない。気のせいかもしれない」
少し気が動転していたからな、と恥ずかしそうに頭を掻いて言った。
「そうですか」
「ともあれ、本当に助かった。ありがとう」
「っく…………あれ、ファントムは」
「いない……ね」
「ってあれ、イティラ君たちじゃん」
ファントムによって気絶させられた面々は意識が覚醒したのか立ち上がり始めた。
「傷が塞がっているってことは、イティラが治してくれたのか」
「うん。ちゃんと塞がって良かった」
ファントムによる傷が一番酷かったカエンドス君の傷を治すのは正直大変だった。
「ありがとうな、遂に死んだかと思ったよ」
「お礼ならロニエに言って。流石にファントムの目の前じゃ回復出来なかっただろうし」
「そうだな」
カエンドス君がロニエに感謝している間に僕は学院長に
「学院、どうするんですか」
「そりゃあ直すしかないが……。その間、生徒は休みかな」
それよりもどこから金を搾り出そう、今は深く考える気になれないのかぼやっとしている。
「国から何とか貰えないんですか」
この国を守るために勇者を育てる学院の補助を国が大きく受け持っていると聞いたけれど。
「貰えるには貰えるが……。正直あの凝った作りにまでは戻せない」
装飾のために高額をはたき出してもらうのも忍びないしなあ、と呟いた。
「そもそもこの学院ってなんでこんなに煌びやかであったり、高級そうなものが多いんですか」
「あー、魔王城からぶんどってきた」
何故か誇らしそうに言った。魔導書と一緒にな、と付け加えて。
「そうですか。今回、九位階の目的はそれの奪還も目的になっていた可能性ありませんか」
ヴェノムは廊下を歩いていた。話によるとディバイドという九位階も廊下を駆け回っていたようだ。
「それはない……。ない……。ないと信じたい」
後半になるにつれてどんどん声が小さくなっていき最後は完全に聞こえなかった。
「今日はこれで解散ですか」
九位階の襲撃も終わった。生徒を寮に帰した方が良いと思うけれど。
「そうだな。必ず複数人での移動を原則として帰ってもらうか」
学院長はそう言うと、音声拡張魔法を使用するために闘技場を出て行った。
──ものの数分で学院長の放送が始まり、今日の大惨事の謝罪と下校報告がされた。
「じゃあアレン、、ロニエ、キョウカ、帰ろうか」
「俺はすまないがもう少し残る。この大剣を慣らしたいんだ。
元々はファントムのだという大剣を持ってそう言った。
「でも、帰りが一人に……」
「大丈夫だ」
その目からは絶対的な余裕と頼もしさが僕に流れて来て
「分かった、気を付けてね」
僕は彼を信用してそう言った。
(実際、何かあってもアレンなら大丈夫だろう)
──この決断がこの先において非常に重要なものであることに僕は気付く由もなかった。
「というか、イティラもやっていかないか」
「僕は遠慮しておく。皆んなを回復したせいで魔力を使いすぎて疲れちゃった」
「そうか、凄まじい勢いで回復していたから無理もないか」
それじゃあ俺は行く、と言って離れていった。
「じゃあ帰ろう」
僕が振り返ってそう言うと
「はい」
「……うん」
僕らは寮への帰路についた。
修繕費……いくらになるのでしょうか。




