アレンとファントム
「おっしゃあ、やるぞ」
俺の心は闘志で煮えたぎっていた。
(デストロイからはかなりの痛手を負った。今回は無傷で乗り切ってやんよ)
「最初から飛ばしていくぜ、幽霊のおっさん。四の翼──武神解放」
「『百鬼夜行』」
周辺からぞろぞろと骸骨が湧いてくる。
「三の翼──暴衝打ち」
俺が地面を打ちつけると忽ち衝撃は広がって骸骨を崩していく。
「一撃で片付いたぞ。次は……」
視点をファントムに合わせたがそこにいなかった。
(透明化か、聞いていたよりも厄介だな。学院長は音と気配で感知できると言っていたが、イティラの方の音で掻き消されちまってる)
ズコーン、ズコーンと氷山がイティラを追っている様子は面白いが、そんな思考は置いておいて聴覚に意識を向ける。
右後ろからザザッという音が聞こえて全力で後ろ蹴りを放つと腹に蹴りが刺さったファントムが現れた。
しかし、
(硬え、何だこいつの腹筋は)
ファントムは俺が足を引いて体勢を整えようとすると大剣を抜いて薙ぎ払ってきた。
「はあっ」
体重を移動させてありったけの力で打ち合うと俺の氷の剣はピシッ、ピシッと音を立て始めた。
すぐにその音は低くなっていき、砕けてしまった。
「嘘だろおっさん。俺の剣を力で折るなんて」
(魔法で溶かされるし、力で折られるし、魔族は本当にどうしているんだ)
「『操氷』」
俺は残り魔力の殆どを注いで、ファントムのに負けない迫力の大剣を創った。
「一の翼──三段袈裟斬り、三連」
俺の剣技はファントムに受け止められ、弾かれたが
「……っ」
最後はファントムのスピードを超えた。傷の方は殆どなかったがファントムの黒服は肩から腰にかけて斜めに避けた。
「『幽霊化』、『百鬼夜行』」
ファントムは逃げるように消えて、魔物を生み出してくる。
「三の翼──暴衝打ち、二連」
かなりの広範囲に出されてしまったから仕方なく二回叩きつけると不意に首筋に嫌な予感を感じた。
「っはああああ」
その予感に身を任せて振り向きざまに大剣を薙ぎ払うと良い感触があった。
「っく」
消える前よりももう一本傷が増えたファントムは初めて苦痛で顔を歪ませていた。
(『幽霊化』は攻撃が当たると解けるのか。というかイティラの方凄いことになってるな)
巨大な龍が飛び回っていて、俺も相手したかったな、と頭に過ぎったが振り払ってファントムと目を合わせる。
「『百鬼夜行』も俺にはほぼ無効。透明になっても捕捉される。どうだ、降参しないか」
「ふむ、降参とな、それは不可能だ。俺は魔王様のために戦い魔王様のために殉じるのが役目だ」
「魔王様の為にねえ。忠誠なんて俺には分からない感覚だ」
誰かのために死ぬなんてごめんだな、そう言葉が漏れていた。
ファントムには聞こえていなかったようで
「俺はどうしても相手に情けをかけてしまう。だが、貴君は強い。情けなしで戦わせてもらおう」
「情け、ねえ。じゃあ本気を出してもらおうじゃないか」
ファントムは目を閉じて
「『理性破壊』」
そう唱えるとファントムのでかい身体は更に肥大化して、顔は人のようだったが獣のようになり角が生えてきた。
──鬼、と表現するのが最も相応しいだろう。
更に目を引かれるのが身体の肥大化とともに膨れ上がっていった筋肉だ。
(何だあれ、見るからにさっきより硬く丈夫だ。あれに刃が通るだろうか)
ファントムはぐおおおおおお、と叫びながら突っ込んでくる。
(速え、しかも力が比べ物にならないな)
気合いでその身体を剣で受け止めたが元々強かった力が恐ろしく強化されていて押し返されてしまう。
「これはやばいな」
しかしデストロイよりは直線的で分かりやすい、そう軽く捉えているのも束の間、角でかち上げようとしてくる。
「ニの翼──真空斬」
その角に横薙ぎの一撃を叩き込んで勢いを抑えようとするが殆ど変わらず俺が押し切られそうになってしまった。
当たったらひとたまりもないその攻撃の数々。
(イティラがよくやる去なしを真似してなんとか凌いだが単純な力技が一番きついな)
俺は敵の強さを改めて認識する。
攻撃を避けてこちらの攻撃を入れる。単純かつ明快な戦術をとり、攻撃を確実に入れられているが
「っち、刃が通らねえ」
「ごああああああああ」
「おらあああああ」
ファントムは角や拳を入り混ぜて攻撃をしてくるのに対して
俺は弾くようにして剣を振った。
(押し切られる……)
相手は両手、両角を巧みに駆使して使ってくるが俺はこの大剣一本しかない。二刀流にしようも俺の予備の金属剣は大きさが違くて釣り合いが取れない。
(ファントムのよりも小さいとすぐに破壊されてしまうから同等にデカくしたがここで裏目が……)
──ファントムのと同等にデカくした。
その部分が強調されて脳裏を過った。
(あの大剣はどこだ、さっきまでファントムが使っていた大剣は…………あった)
俺は走った、あの大剣を目指して。
ファントムがその逃走にも見える行為を許すはずもなく全力の突進を仕掛けてくる。
(大剣の二刀流はやったことないが……)
「っち、おらあああ」
案外重いその大剣を抜いて振り向きざまに二本の大剣で薙ぐ。
二刀は角に絡みつき、初めてファントムの攻撃を弾けた。
「ごがああああああ」
「五の翼──神如翔崩剣」
ファントムは斜め上からの角の振り下ろし、正面からの突き、斜め下からの蹴り。
縦横無尽から強大な一撃が束になって襲いかかってくる。
二刀流による剣技はファントムの猛攻を完全に防ぎ切り、抜いた。
全力の斬撃が角から顔を斬って肩まで抜けて、後にはファントムの顔に斜めの傷をつくった。
攻撃の手を止めたファントムがこちらを見ている。
「この大剣、頂くぜ」
暗に勝利宣言をした俺にファントムはふんと鼻を鳴らしてその言葉に了承したように思えた。
しかし、相手も手は抜いてはくれない、俺がさせない。
命張った男と男の戦い、最高じゃねえか。
──今日は最高の一日だ。
俺は剣を構えるとファントムも突進体勢をとった。
「せいやあああああああ」
「ごあああああああああ」
俺をかち上げようとするその角に俺は渾身の力で氷剣を振り下ろした。
──ビキッと鈍い音を立てて
俺の氷剣は砕け散った。
ファントムは勝利を確信して二段目のかち上げをしてくるが
俺は狙っていた。
一刀を失った俺は虎翼流、本来の形である一刀に戻った。
瞬時にファントムの背後に滑り込んで
「五の翼──神如翔崩剣ッッッ」
圧倒的な切れ味を誇るその剣はファントムの皮を削ぎ、血管を破り、肉を断った。
「ごがあああああああ」
ファントムがいくら叫ぼうが構わない。
無数の斬撃は頑丈なファントムの身を断ち斬った。
ファントムはそれでもなお、動こうとする。
それを見た俺は高く剣を構えて
「じゃあな」
ファントムを一刀した。
直後、ファントムは光となって消えた。
俺はイティラの方を見ると一足早く終えたらしく、こちらを見ていた。
俺が片手を握って挙げると
イティラも握った手を挙げた。
「ふっ、俺らの勝利」
アレンが強いのはもう何も言うまい。
学園に襲う危機の排除完了…………何かを忘れている気がする。




