イティラとヘイル
「イティラ君……」
膝を折って涙を流しているロニエは突然の登場に驚いているようだ。
「それにしてもこれはひどい状況だな」
アレンはそう呟いていた。
当然だ、そこかしこに同級生が転がっていてその中には斬られている子もいるのだから。
「アレンは先にあのでっかい人をお願い」
「分かった」
もう片方の九位階はキョウカがまだ戦っているからもう少し任せて僕は皆んなの回復に向かう。
「『超回復』」
「イティラ君、ありがとう、それとごめんね。私、イティラ君の代わりになれなかった……」
辛そうに、自分の力量のなさに悔やむように言った。
「大丈夫だよ。ロニエは良く頑張った」
僕は今出せる最高の笑顔をして少しでもロニエの気を楽にしようと思った。
「っふ。ふふ、何その顔」
「ひどいなあ、はは」
僕らは少しの間笑い合った。
「じゃあ、僕は行くね」
「うん、頑張って」
僕はその声を背に雷轟で闘技場中を駆ける。
「『超回復』」
(これで最後の一人。それにしてもこれだけこの魔法を使ったのは初めてだからちょっと疲れたなあ)
けど、そんな事は気にしていられない、と自分に言い聞かせて僕はキョウカの元に向かった。
「キョウカ、あとは僕に任せて」
「……うん。お願い」
キョウカも大きな傷はないけれど、細かい傷が多くて、大分体力を消耗していたのだろう。そう言うとすぐに退いていった。
「あら、さっきまでいなかったわね。自分から死ににくるなんて随分と物好きね」
こっちに来る途中で学院長から聞いた九位階の情報の中だと女性は一人、と言うことはこの人は氷使いのヘイルか。
「別に死ぬために来たわけじゃないですけどね。あなたを倒させていただきます」
「そう。出来たらいいわね」
そう言うと目をキリッとさせて
「『操氷』」
その魔法は僕の足元から急に突き出してきた。
「危っな」
「ふふふふふ。いい声で鳴いてね『操氷』」
氷の山は立て続けに僕を貫こうとしてくる。
僕は駆けて、駆けて追いつかれないように駆けた。
しかし、やがて僕の周りは氷山だらけになってしまった。
「さっきの子は片っ端から壊してくれちゃっていたから使えなかったのよね。『氷龍』」
僕の周りの氷が段々と減っていった。それに反比例するように空中に氷の塊が出来ていった。
それは何かの形を成していって、龍の形となった。
「彼の者を討ち滅ぼしなさい」
ヘイルがそう言うと氷の龍は動き出して僕に襲いかかってきた。
「四の塵──性質変化・剛、三の塵──五月雨斬り」
龍の側面に回り十五連斬を浴びせると、剣が当たった部分が抉れた。
(何だ、案外柔らかい。これなら……)
そう思っているのも束の間、その傷が塞がった。
「何のために氷山を創っていたか分かる?どれだけ攻撃をもらおうと再生する龍を創るためよ。これであなたを倒してあの忌々しい小娘たちに……」
何をされたのかわからないけれど、物凄くロニエとキョウカに腹を立てているらしい。
高速で空を駆け回る龍の猛攻を躱しながら僕は破壊方法を考える。
(再生不可能状態──全体を一気に破壊すれば出来るだろうか)
しかし、僕よりも百倍近くある龍を破壊するのはかなり大変だ。
「三の塵──五月雨斬り、三連」
僕は龍の周りを駆けて斬っていく。
大分切っただろうと思って背後を向くとすぐそばに龍の顔があった。
「ほあっとおう」
かなり大きく奇声を発しながらもすぐ様飛び上がり噛み砕きを避けた。
龍の上は物凄い揺れる。
(あ、結構楽しい)
そう思っているのも束の間、気持ち悪さが込み上げてきた。
「う、うぷっ」
僕を振り落とそうと躍起になっていたのかかなりの高さまで上がっていたが飛び降りた。
高所から飛び降りるのも初めての経験であるが楽しいと思った。
(って、今は敵と戦っている最中なんだから集中)
僕は失念していた。
自分で空中を駆け回る龍と空気抵抗を受けながら落下していく僕。どちらが速いのか。
気付いた時には龍の口に咥えられて猛スピードで降下する僕。
地面までの距離は少ししかない。
頭から叩きつけられて死ぬ、そう思ったけれどその思考を振り払って
「一の塵──六切り」
自分を咥えている口を破壊してすぐに肩を地面の方に向ける。
そのまま僕は地面に激突して
「ぐは。ぐうううう、っく」
激痛が全身に響き僕は意識を失いかけるが自分の顔をぶん殴ってなんとか持ち堪えた。
(ヴェノムの毒の弾の痛さよりマシだったから動けた。あれがなかったら、今頃気絶していただろう)
「『超回復』」
折れて、砕けた骨をすぐに治して僕は体勢を持ち直した。
「今ので死んでくれたと思ったのにしぶといわね」
ヘイルは残念そうに言って
「『操氷』」
また、僕を貫こうとしてくる氷山が連続して生えてきたと思ったら
「『氷龍強化』」
龍に氷が吸い込まれていった。
途端に龍は氷の光線を口から放ってきた。その光が地面に当たるとそこは凍りついた。
僕が駆け回るとみるみるうちに周囲が凍らされていく。
(当たったら僕まで凍らされるな)
さっきは当たると溶ける液、今は当たると凍らされる光線。
今日は散々な日だな、そう現実逃避をしたいのは山々だがこれを倒さなければならない。
生存本能が身体を動かしていた時、あれは魂と肉体が一致していたのだろう。
あの時を思い出して、感覚を作る。
こちらに向かってくる龍へ
「一の閃──雷轟」
龍が光線を発射しようとしているが構わない。
僕は雷轟の勢いのまま凍った地面に乗って滑る。
「五の塵──豪剣連斬、三連」
僕の最大威力の斬撃を龍の身体中を滑りながら抉っていく。
龍も負けじと再生をしていくが
「せいやああああああああ」
僕の死力を尽くした剣技が上回った。
「はあああああああっ」
最後の一撃と同時に龍の残った全身にヒビが入って砕けた、跡形もなく散った。
「私の龍が、私の最高傑作が。よくも」
「あなたの負けは自分の魔法を信用しすぎたことです。三の塵──五月雨斬り、二連」
僕は龍を斬った勢いそのままにヘイルに斬りかかった。
「きゃ、きゃああああああああああ」
誰かに助けを求めるように天に手を伸ばしたが結果は虚しく光となって消えていった。
「ふう、アレンはどうかな」
僕がアレンの方を向くとそちらも光となって散らせたところであった。
アレン側はどんな事があったのでしょうか。




