勇者と結界
'俺'たちが南に行くに連れて視界にどんどん半透明な半球が広がってきた。
「あの結界は物凄いな」
エヴィックは目を大きく見開いて驚いていた。
「確実にあれは学院の生徒が張ったものじゃない」
「そうか。じゃあ九位階の可能性が高いか」
エヴィックは多分、と言って俺の方を見た。
「俺の調子も大分戻った。もっと急ごう」
半球の前に着き、中を見ると
「学院長」
結界を破ろうと剣技を繰り出す学院長がいた。
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「オワリノ型──無限星斬」
無限の斬撃が九位階の三体を斬り滅ぼした。
「教室の方に行くか」
三体を相手にしている途中に教室が爆ぜたのが目に入っていた。
「向こうには行かさせないぜぇ」
オレは走り出そうとすると俺の目の前に結界が展開された。
「ちっ」
オレはさっき斬り滅ぼしたはずの奴らの方を向くと八と九の姿が目に入ったが
──ニの姿がなかった。
「はっはっは。流石の勇者もこれには驚くか」
空間中から二の声が響く。
「死体を媒介として発動する魔法『死霊』。どうだ、見たことないだろう」
顔は見えないがきっと勝ち誇ったような表情をしているのだろう。
とりあえずオレは実体がある八と九を瞬時に斬り裂いた。
しかし、
「無駄無駄無駄」
二がそう叫ぶと消えたはずの八と九が元に戻っていた。
(『死霊』の効果か……)
オレは復活し続ける八と九を絶えず何度も何度も斬っていく。
「はっはっは、馬鹿め。何度やったって同じさ」
オレはその声を無視して斬り続ける。
「五の型──彗星極連斬」
八と九は復活しては消え、復活しては消えを繰り返す。
「だから、無駄だって何度言えばっ……」
八と九の復活が途絶えた。
「何故……」
あまりの出来事に上手く思考が纏まらないようだ。何せ不死身の兵を生み出したと思っていたのだから。
「回数制限だよ」
「回数制限っ……」
二は言葉に詰まった。
「お前が何回試したのか知らないがいつかは効果が切れるだろう、魔法なんだから」
「まあいい。本来の目的は勇者をこの場から離さないことなのだから」
破ってみろ、と言わんばかりに結界をキラキラとさせる。
(オレの魔法力じゃ、結界に無理やり干渉することが出来ない。斬って破壊するしかないか)
今ほど自分の魔法力の無さを呪った時はない。
「五の型──彗星極連斬」
仕方なくオレは結界を何度も斬るがびくともしない。
「五の型──彗星極連斬、付与『衝撃弾』」
オレは唯一使える『衝撃弾』の付与をするも
──やはりびくともしなかった。
「この世に存在する魔法の中で最高まで内側からの強度を高めてある。いくら勇者でも破るのは無理さ」
「それならオレの剣技をそこまで高めるまでだ」
「────」
二に何を言われても耳に入らなかった。ひたすらに斬って斬って斬りまくった。
「学院長」
不意に二以外の声が聞こえた。
「あー、いつの日かイティラに負けた子達か」
「その覚え方はあんまりじゃないですか」
セキグはしょげてしまった。
「すまんすまん、冗談だ。セキグ君どうしたんだ」
「こっちの方に大きな魔力の動きを感じたので九位階かなと」
「危ないから、逃げなさい」
セキグは胸を張って
「大丈夫です。五人で協力して九位階の六を倒してきたので」
(九位階の六……あいつか)
「そうかじゃあその力を見込んで外からこれを攻撃してくれないか」
「分かりました」
そう言うと五人は息を合わせて一点を攻撃した。
「硬っ……なにこの硬さ」
ローズが痛そうに手首を振った。
「……」
二はいつの間にか黙っていた。
「じゃあ、同時に攻撃してくれるか」
「はい。合わせます」
オレがいくぞと言いかけたところで
「まずい。『死霊』追加『結界強化』」
そう二が言うが何も起こらない。
「何故だ。『結界強化』」
二は必死に結界の強度を上げようとしているようであった。
「もしかしてさっきの復活のさせすぎのせいじゃないか」
オレはふと思いついたから言ってやると
「そんな事があるはずが……あってはたまるか」
物々と叫んでいるが
「やるか。せーのっ」
そんな事は気にせずに剣技を放った。
すると、あんなに強固であった結界はバキバキと音を立てていって終いには跡形もなく砕けた。
「大丈夫でしたか」
「ああ、身体は平気だ。ただ、時間が食われてしまった。オレは教室の方に向かう」
「そうですか。僕らは自分たちの教室に戻ります、ヘトヘトで」
セキグはへへへ、と頬を掻きながら笑ってそう言った。
「五人とも、九位階のことも結界のこともありがとう。では、これで」
「お気をつけて」
その言葉を背に教師へ向かった。
オレは教室に着くと何度も瞬きをした。その上、目を擦り、見間違いではないかと何度も見返すが変わらない。
──教室の様子は元の姿が影も形も見えない、酷い有様であった。
「何だこれはああああ」
思いそのままに叫ぶと
「急に大声を出すなよ、学院長」
視界に入っていなかったアレンから声をかけられた。
「すまない、すまない。取り乱し……て」
声がした方を向くと
──壁に寄りかかってぐったりとしているアレンがいた。
何よりも驚いたのは火傷した部分だ。
左半身は見るに絶えないほど酷く、右半身にも所々傷があった。
「これか、手酷く焼かれちまってな」
一度傷を見て、そう言い
「けど、大丈夫だ。九位階の一人も倒した」
自分の務めは果たしたと満足気であった。
「すまない、オレが遅れたばかりに」
(オレが二に手間取らなければアレンがこんなに傷つくことはなかった)
自分の不甲斐なさに腹を立てていると
「別に謝られる必要なんざないさ。楽しい戦いだったしな」
いつも通りの余裕な態度は変わらずそんなことを言った。
(気を遣ってくれているのだろうか。本心の可能性の方が高そうだが)
「そう、か。イティラ達は」
「イティラに全員連れていかせた、多分大丈夫だ」
「じゃあ、イティラの所に向かおう。その怪我を治さなくては」
オレは傷に触れないように上手く持って歩き出す。
「おいおい、流石に自分で歩けるぞ」
何を言っても離す気がなかったオレはアレンにグチグチ言われながら廊下を歩いた。
片側一方しか強固でなかった結界。




