肉体と生存本能
「あなたは誰ですか」
この空間で何をしているのか。どうしているのか。
様々な質問が脳裏を過ったがまずそれを聞いた。
「ワタシはこの肉体の生存本能だ」
生存本能は外の映像を見ながら言った。
そして
「ワタシはこの肉体に降りかかる危険性があるものを排除する役目がある」
目を細めて映像を見つめる。
「だから、ロニエのことを斬っているのか。
ロニエは敵じゃない、攻撃をやめろ」
「どうしてそう信じられる」
「あの娘も所詮は他者だ。他者である以上何を考えているか分からない」
確かに他人は何を考えているのか分からない。
あの女性だって何を考えているのか想像もつかないが
「そうかもしれないが、彼女は友人だ」
「話にならない。友人、知人などワタシには関係ない」
生存本能はきっぱりと言いきった。
どうしたら良いんだ……。どうすればロニエへの攻撃をやめてくれる。
生存本能は僕の身体を守ろうとしている。つまり、死なないようにしているってことか?
そう思った僕は
「僕には『魂の転移』と『超回復』がある。
万が一、死んでしまっても生き返られる。だから、ロニエへの攻撃をやめてくれ」
「所有者は間違った理解をしている。いくらその魔法を使おうと僅かながら肉体へダメージが蓄積されていく。そのダメージが限界点まで達した時、いくら回復魔法を使おうと治らなくなる」
「『超回復』は完全回復魔法だ。ダメージが残ることなんてない」
「その魔法は問題ではない、『魂の転移』の方だ。その魔法は魂が肉体に入る事で肉体と魂の結び付きを強くする、そう理解しているな」
ああ、と言いながら僕は頷いた。
「正しく魂と肉体を結合させると肉体と魂は正しく一致する。
しかし、その魔法による結合は肉体を傷つけ削れた所に魂を置き換えて無理矢理行われている」
けど、女性はそんなことは一言も……。
何で教えてくれなかったんだろうか。元々謎の多い女性だったけど何を考えているんだ。
そう考えていると生存本能は続ける
「そして、欠けた肉体の残滓によってこうして精神内に顕現したのがワタシだ。
ワタシは魂そのものを動かせる、故に強く身体を扱える」
しかし、と置いて
「所有者はどうだ、肉体すらしっかりと扱えていない。ただ無理矢理な結合によって強くなっているだけだ。
その状態ではまたすぐに命を奪われる…今回の敵のような者に」
今回の敵……!?
「イルビィはどうなったんだ」
僕がそう聞くと
「ワタシが再生不可能な段階まで蹂躙した。これでもう奴は脅威ではなくなっただろう」
「そう、なのか。ありがとう」
「礼を言われる筋合いはない。ワタシはワタシの使命を全うしただけだ」
ふんと鼻を鳴らして、僕を見つめる。
「ワタシはこの肉体には滅んでほしくない。だからこそワタシは守り続けるのだ、この肉体を」
ずっと機械的で淡々としていた生存本能が初めて願いを発した。
「強くなるよ。強くなってこの身体が潰えないように」
僕は生存本能に誓った。
「ならばその決意、見させてもらう。意思を強めてワタシから主導権を取り返してみせよ」
意思を強める、ロニエへの攻撃の自制を行った時のようにしていると
生存本能が外の映像に視線を戻す。
すると、
外の映像にロニエの胴を大きく斬りつけた所が映った。
それを見た僕の中に怒りが湧いた。
そして今回で攻撃を絶対にやめさせなければならないと思った僕の身体は不思議な感覚に包まれた。
「これ以上、ロニエを傷つけるな」
気合を入れて無限の空間中に響き渡るほど大きな声で僕は叫んだ。
それと共に意思を更に強固にすると
「出来るじゃないか。真の魂の結合はそれだ」
真っ白な空間に幾つもの裂け目が出来ていく。
「しかし、所有者は統合よりも肉体を最大限扱える様にするべきだ。そして、塵山流の四の型を習得するんだ。
それがあの魔法を使わずに大きく強くなるため一歩だ」
「分かった。精一杯努力して強くなる」
その言葉を最後に僕の意識は消えていった。
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「イティラ……君?」
息絶え絶えにロニエがそう言いながら倒れてくる。
僕はロニエを支えて
「ごめん、ごめん……」
『超回復』を使用しながら謝り続けた。
「良かった、いつものイティラ君だ」
傷が治り意識がはっきりしたロニエはそう言って微笑んだ。
「本当にごめん」
「いいよ、イティラ君が大丈夫なら」
自分よりも他人を優先出来るロニエはやっぱり凄い。
「止めてくれてありがとう」
「どう致しまして」
ふふ、と笑っていつもの向日葵の様な笑顔を見せる。
「そういえば、イルビィは」
僕はそう言いながら彼が倒れていた方を見ると
──そこにイルビィの姿は無かった。
『魂の転移』のデメリット
イルビィは何処へ……。




