賑やかとフィオナ
「あっ、ロニエ」
どこから持ってきたのかご飯を食べているキョウカに付き添って歩くロニエを発見した。その表情はにこやかでそれを崩したくはなかったが、弁明しなければ汚名返上できない。
僕は意を決して彼女に近付くと向こうも気付いたようだ。
「ロニエ、さっきの話をもう一度いい?」
「あー、もういいですよ。大体の話は掴めましたから」
「掴んだってどうやって?」
「被害を受けた本人に話しを聞きましたから」
そう言って僕の視線を誘導する様に指を移動させて言った。
「ここにいる方がイティラ君に被害を受けたフィアナちゃんです」
とは言っているもののロニエの示す先には誰もいない。と言うか被害者って……。
「先程はすみません。急でびっくりしてしまってあんな事を言ってしまって……」
何もない空間から声が聞こえた。いや、しっかりと意識すると微かだが誰かがいる気配を感じる。
「フィアナさん……。どうして透明化を解除されないのでしょうか」
もう終わったのだから解除してしまっても構わないはずだけれど……。
「えっと、実は私は……」
「……私は?」
少し野間を置いてフィオナは言った。
「幼少期に呪いをかけられてしまっていて、透明化が治らないんです」
呪い、それは魔王が生み出した生物が稀に覚えている能力。只人に対して必ず悪い効果をもたらし自然回復はしない。
「絶対に言ってはいけないと言われていた魔女の住む森に好奇心で入ってしまって……結果、魔女と出くわして掛けられてしまいこんな風に」
「呪いか……。それなら僕の魔法で何とかなるかもしれません」
『超回復』は何にでも効力を発する。前に呪いを治した事だってあるし、何とかなると思う。
「本当ですか……。治りますか、この呪い」
「うん、僕に任せて」
「お願いします。私はこの呪いのせいで今まで……」
見えないが涙を流しているのだろう。誰にも見られない、誰にも気付かれないというのは大変辛い事であったのだろう。
世の中には呪いのせいでこうして辛い目に遭ってしまっている人が多くいる。魔王は今頃どうしているのだろうか。次、接敵した時には絶対に倒す。
「お願いします」
神に縋る様に僕の手を握り懇願してくるフィオナ。
「『超回復』」
僕は解呪のために回復魔法を使用する。僕のありったけの魔力を注ぎ、彼女の苦しみ、悲しみの種を取り除く。
呪いの持つ闇のオーラと超回復の聖のオーラがぶつかり合い、光となって弾ける。その見た目はさながら花火の様だ。
その量が多くなればなるほど一人の少女の輪郭が徐々にこの世に顕在していき──。
僕は更に魔力量を多くして解呪をした。眩耀によって視界が眩み、辺りが光の海と化す。
その光が止んだ時、一人の少女がそこに形をなしていて──。
黄緑色の髪にぱっちりとした翡翠色の瞳。細いが女性的な柔らかみを持つ四肢に引き締まった胴。焼け過ぎてもいなく、白過ぎてもいないその肌は非常に健康的で、その健康さを示す色の中に豊満な二つの山の上にあるピンク色……。
──フィアナは服を着ていなかった。
「ちょちょちょ!」
僕はソレを意識した瞬間に目を閉じ、顔を背けた。しかし、見てしまったものは見てしまった。心臓は早鐘を打ち、脳内がおかしくなりかける。
「キョウカちゃん、隠密を」
「うん」
キョウカもいつもの様に間をおかず、魔法を発動するくらいの焦りよう。そりゃあ当然だ、見えなかった少女を見えるようにしたら何も服を着ていなかったのだから。
しかも当の本人はそんなことにはお構いなしに飛び跳ねて豊満なソレを揺らし続けている。
「何で見えるようになったのに、見えなくしちゃうんですか!」
事態を理解していないフィアナは少し怒り気味だ。
「フィ、フィアナさん……。服は……?」
「服ですか……、そんなの私の肌の上に……」
見えないけど見える、彼女の表情が固まった瞬間を。
「何で服を着ていないんですかああ。……って、そうか試合が終わった後、直ぐにロニエさんにお話に行ったから……ああぁぁぁ」
印象と違ってジタバタと暴れ回るフィアナ。
「そもそも、何で試合の時に服を着ていなかったの……」
「それはですねぇ……私って所謂、二重人格っていうやつでしてね。もう一人の私はだいぶ思い切りがいい性格をしていまして……」
はああ、とフィアナはため息を吐いて続けた。
「隠密行動をするのに衣擦れの音を立てるのも嫌だからって、脱いでしまったようでして。そのせいで、私の素肌を、しかも……を触られてしまいましたし、見られてしまいました……。もうお嫁にいけませんよぉ……」
また、大泣きしてしまった。これは宥めるのに大変そうだ。
「幸い、周囲には人もいないし大丈夫だと思うよ」
「でも、イティラ君は見ましたよね、それに触りましたよね」
隣から思い切り刺される。とりあえずフィアナを落ち着けるのが優先だっていうのに関係なしに刺してくる。もう大丈夫だって言っていたのに……。
「そ、それは不可抗力というか、何というかじゃないか。僕だって知っていてやったわけじゃないし……」
「女の子の裸を見て、更には泣かせて。逃れようとしていいんですかね」
「ロニエ、顔が怖い。分かっている、それが一生の傷になってしまうかもしれないっていうことも。けど、どうしようもないじゃないか。僕は償う方法を持ち合わせていない」
出来るなら時戻りでも何でもするけれど、残念ながら僕は神ではない。行動を変える事も出来なければ、償う事も出来ない。
「では、私と結婚しましょう。結婚すれば見る事だって当たり前になりますし。それがいいですね」
「いや、全く好きでもない男と結婚ってどうなの?!それにまだ結婚出来る歳じゃないし」
「結婚なら出来る歳になったらすればいいですし、これから頑張ってあなたの事を好きになっていきます」
なんて強情な子なんだ。彼女の気を変えることが出来る手段を思いつかない。いや、それだけの事を僕はしてしまったのだけれど……。
「 それは駄目ですううう」
いきなりロニエが大声を上げた。それから「駄目です、駄目です」と繰り返すロボットとなってしまった。
「イティラ君と結婚するのは……わ、わ、わた……ふしゅぅ」
何かを言いかけた時、ロニエが膝から崩れてしまった。
「大丈夫?どうしたの」
「い、いえ。何でもないです」
「ほほーん、なるほど。分かりました、イティラさんとの結婚は無しにします。その代わり、これから沢山お願いを聞いてもらいますよ」
何が分かったのか分からないけれど、ロニエのおかげで引き下がってくれたようだ。ありがたいけど、本当に何があったのだろうか。
「さて、呪いも解呪してもらいましたし、見られる事を堪能するために服を着にいきましょう。ロニエさん、沢山聞きたいことがあるので付いて来てくださいね」
そう言って、ロニエを引き摺りながら今日だけ借りているという部屋に向かって行ったフィアナ。付いて来て、とお願いしていたのに引っ張っているのはどうなんだろうか。
「本当に何があったんだ」
「……分からない」
慌てたり、恥ずかしがったり、怒ったり、嬉しがったり、賑やかな子であった。この先、どんな願いを叶えさせられるのだろうか……。
(ん?そう言えば解呪が償いという事にならないかな)
それを聞く相手はウキウキで去ってしまった後で、僕とキョウカは訳のわからないまま、ポツンと立ち尽くしていた。
気付いた時にはもう遅い。フィオナ、恐ろしい子。




