柔肌と仁王立ち
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「ぐ、っく……」
まさか背後に先輩達以外の何者かがいたとは気づかなかった。僕はもう何度目になるか分からない気絶の感覚に身を任せて……。
「あれ?」
いつもなら正面に倒れるなり、後ろに倒れるなりするが僕の両足はしっかりと地面についていて意識もはっきりしている。
「え、なんで気絶していないの!」
「そこか」
「きゃっ……」
驚きで声を上げてしまった上に気配を消すことを忘れてしまったのだろう。透明になっているが完全に気配を感じ取れた僕はその地点に向かって後ろ回し蹴りをお見舞いすると、見事に感触があった。ただ何故かそれはとても柔らかく弾力もあった。
(これは隠密じゃないな)
隠密であればキョウカ以上に魔力がなければ僕らの目に映らないはずがないし、何より若干の魔力の流れすら感じない。
気配を探って、蹴り飛ばした少女を抱え上げる。
(うん?柔らかすぎやしないか……?)
いくら女子とはいえども服やらの上からじゃここまでの柔らかさは出ないはずだし、何より生々しい温もりを支えている手から感じる。
「……ん……っきゃ。ちょっとあなた、どこ触っているの!」
軽く意識を失っていただけなのだろう。動き出した少女が突然、僕の腕の中で暴れ出した。
「どこって、僕からは見えていないからイマイチ分からないんだよ」
「変態!外道!気絶した女の子にこんな事をするなんて」
急に態度が豹変した少女が僕を突き飛ばしてそんな事を言う。地面に降り立った少女は僕から離れて自分の身体を押さえている様な気がする。
「んんん?!急に何を言い出すんだ!!!」
「だって……だって私……」
すうー、と息を吸い込んで言った。
「服を着ていないの!」
少女はそのまま泣きながらバタバタと走り去っていった。
「何だったんだ……」
(変な少女だ。冷静に僕らの中に紛れ込んできたと思ったら、あんな感じでどこかに走り去ってしまったし。何より服を着ていない、ってどうしてそうなったんだ)
あの少女への疑問が深まるばかりだ。
「イティラ君……あの子に何をしたんですか」
背筋を越えて全身を凍らせる様な冷気を感じた。いや、感じざるを得なかった。
「ひっ……」
美しく艶やかな真紅の髪を逆立たせたロニエが仁王立ちで僕の背後に立っていた。その姿は僕よりも何十倍にも大きく見えて威圧感があった。
「イティラ君。さっきの女の子の服を……脱がせたんですか」
「いいや、違います。誓って、そんな事はしていないです。しておりません」
「やっちゃった人は皆んなそう言うって聞いたことがありますけど……」
「その人たちがやっていても僕は、僕だけはやっていない!冤罪だ」
まずい状況になった。まさか思わないじゃないか、透明化したまま気絶していたら発見されなくて可愛そうだと思っていた少女が、何も着ない生まれたままの姿だったなんて。
(って、言うことはあの感触は……)
えも言われぬ柔らかさを感じたアレは……。
「イティラ君、やっぱりやっちゃったんですね。その表情、自分で気づいているんですかね」
「ん……?僕の表情?」
「平静を装ってはいますが、心の奥底で興奮している様な表情です。へへ、女子の柔肌に触ってやったぜ、みたいな」
ゴミムシを見る様な目で見下してくるロニエ。こんな表情、初めて見た。
「今のロニエの中のイメージってそんなことになっているの!?流石にそこまでは思っていないよ」
「そこまでは……ですか。ちょっとは思っているんですね」
「いや……それは言葉の綾で……。とにかく違うんだよぉ」
僕はロニエにすがりつく。見っともない、ああなんて見っともないんだ、僕は。
「触らないでください。っと、イティラ君が叫ぶせいで気付かれ始めてしまいました。本当に何から何まで最悪です」
「ちょっとロニエさん。言葉がキツすぎでは……」
「今のイティラ君には丁度いいです。反省に一人で回ってください。私達は予定通りに事を進めますので」
さっさと立ち去っていくロニエ。僕にこれ以上の弁明の機会は持たせなてくれない様だ。
「イティラ、ドンマイ。単独行動についてはペインを通じてセキグに伝えておくからさ」
方をポンポンと叩いて過ぎ去っていく先輩達。僕を連れて行ってくれる様子はなさそうだ。
そりゃあ当然だ、気絶させて身包みを剥いだ最低野郎という汚名を被せられた状態なんだから。それに今の負のオーラを纏うロニエに僕を連れて歩く姿を見られたらその人が何をされるかわかったもんじゃない。
今の僕に出来ることが汚名を返上するために敵をバッタバッタと薙ぎ倒すのみ。そしてもう一度、ロニエに弁明の機会を……。
そうと決まればやるのみだ。止まっていられる時間なんてない。
「ハアアアアアアアア」
持ち前の機動力を活かして起伏のある場内を突き進む。手当たり次第に蹴り飛ばし、剣技を浴びせていき、片っ端から気絶させていく。
僕の視界に入る者は皆、気絶させた。勿論、勇者学院の生徒を除いて。
他の学院の球を入っているスポットから抜き出す、その数十個。更に大所帯で動いていた生徒も壊滅させた。
──観客席からのその光景は異様なもので、何もないのに波が押し寄せる様に段々と生徒が倒れていく。視認しようにも倒している当人は隠密を使っている上に超スピードで動いているから捉えようがない。
その異様なまま時が過ぎ、陣地取りの制限時間なった。時間最後まで立っていられた他学院生徒は勇者学院よりも遥かに少なった。
勇者学院は予定通りに球を嵌め込むことに成功して獲得面積は理論上最大であった。
対する他学院はイティラが片っ端から球を外していったせいで、最大で二つしか嵌っていなかった。二つでは角形を描けない為、獲得面積はなし。
──この種目は勇者学院の圧勝であり、また会場を沸かせた。
この結果の功労者はそんな事は気に求めず、会場のどこかにいるロニエを探し回っていた。
記念すべき百話目なのにこんな感じで良いのだろうか……。




