俺の愛したお人形
お久しぶりです。
かなり久しく投稿していませんでしたが、久しぶりに投稿しようと思い立ち浮かぶままに書いたのがこの作品です。
書いてみると、なんともドロドロの人間感情w
意中の相手を振り向かせるために、どんな方法をとったのか?
5分とかからずに読める短編となっていますので、最後まで読んでいただけると幸いです。
俺が愛している女性は車いすがないと動くことができない…。
彼女と初めて会ったのは、俺が中学に入った時だった。
小学生の俺は引っ込み思案で、友達と走り回ることなんてできない、ひ弱な少年だった。
毎日学校から帰ると、家の中にこもって、ひたすら本を読んでいた。
両親は俺に、外に出るように言っていたが、俺は友達というものが苦手だった。
どうしてこうも人と付き合うことができないのか…。
俺自身できることなら友達と騒ぎたいと思っていたし、友達同士が仲良く話しているのを聞いていると、その輪の中に入りたいとも思っていた。
ところが、輪に入ってもまるで自分だけが阻害されているように感じて、どうしてもそこにいることができなかったのだ。
中学生になったからといって、その性格が変わるわけはなかった。
いつでも一人で、教室の片隅で小説を読んでいた。
小説を読んでいるときだけは、その世界に入り込み自分がヒーローにもなれたし、大恋愛をすることもできた。
世界一のイケメンになって、美女と出会って金持ちになることも可能なのだ。
あらゆる敵と戦って、勇敢な男を演じることもできるわけだ。
周りには俺を崇拝する仲間がいて、俺は誰よりも幸せになれる。
だからこそ、本の世界から抜け出ることができなかったのかもしれない。
現実世界ではありえないような、素晴らしい世界。
それが俺にとっての本の世界だった。
ところが、そんな俺にも恋のキューピットが矢を放ったらしい。
相手は同じクラスで一番の美人だ。
一目見た時から俺の心臓は高鳴り、彼女と付き合いたいと思ったけど、そんなことができるはずもなく、俺はじっと彼女を陰から見ることしかできなかった。
にぎやかな教室。
友達同士が話しているのを横目で見ながら、本に没頭しているふりをして、俺は彼女を盗み見る。
そんな毎日だった。
彼女の名前は亜香里。
名前の由来なんて知らないし、分かるはずもない。
でもきっと、彼女の両親は明るい子になるようにって付けたんだろうな。
名前の字こそ違っても、きっとそうに違いない。
俺はそっと彼女のことを調べ始めた。
調べてみると家が近いことが分かった。
誕生日は俺と1か月違いの同じ日。
好きな動物はネコ、好きな食べ物はトマト、好きな色はピンク。
俺は亜香里に関する情報を集めるに従い、俺の世界の亜香里に生命を吹き込んでいった。
いつも明るく笑う亜香里に、俺はどんどんのめりこんでいったのだ。
亜香里はクラスでもトップの成績を有している。
運動も得意で、テニス部に所属。
逆に俺の成績は中の中。
あまりにも中くらい過ぎて、何のインパクトもない。
部活は帰宅部。
友達が多い彼女と真逆で、俺には友達がいない。
ところが不思議なことに、2年となり3年となっても、俺は亜香里と同じクラスになった。
どんなに高嶺の花であっても、さすがに3年間も一緒にいるのだ。これはチャンス以外の何物でもないだろう。
このチャンスを生かすのも殺すのも俺次第だ。
俺は亜香里に接近することを試みた。
少しでも話ができたらラッキーだと、そんな気持ちで接近したのだ。
もしかしたら無視されるかもしれない。それでもかまわなかった。
とにかく、彼女のそばに寄れたらそれだけで幸せだ。
初めて話かけたのは、亜香里が消しゴムを落とした時だった。
隣に座っていた俺は、消しゴムを拾って渡した。
他の連中なら簡単な行動でも、俺にとっては大変な勇気が必要だった。
もしかしたら、俺なんかに拾われた消しゴムを気持ち悪いと思うかもしれない。
嫌な顔をされるかもしれない。
そんな思いがありながらも、とにかく渡してみると、彼女はにっこりとほほ笑んで「ありがとう」と言ってくれた。
そして、さらには「ずっと一緒のクラスなのに、なかなか話すチャンスがないよね」と、亜香里の方から言ってくれたのだ。
これをきっかけに、俺は亜香里に話かけるようになった。
何を話したらいいのか、どんな話なら聞いてくれるのか。話し方だって注意が必要だろう。
周りを研究するように見てきた俺は、今まで培ってきた話術を駆使して亜香里との会話を心掛けた。
こうして、中学3年という時間が過ぎていくのだった。
しかし、中学が終わればお互い別々の学校になってしまう。
亜香里ほど頭のいい女子なら、進学する高校もいいところに決まっている。
俺は亜香里にどこの学校を受験するのかと、それとなく聞いた。
その結果、俺は頭をでかいハンマーで殴られるほどの衝撃を受けた。
なぜなら、県内でもトップクラスの有名校を受験するというのだから。
ここで小説なら、俺が必死に勉強して同じ高校に進学する、なんて筋書きになるだろう。
しかし、さすがに中の中である俺に、そんなことができるはずはないわけで…。
「和樹君は、どこの高校を受験するの?」
亜香里が俺に聞いてきた。
どこの高校なんて聞かれても、俺が入れる高校なんてたかが知れてる。
俺はどう返事をしたらいいのか分からず、悩んでいるふりをした。
「まだ決めてないの?そうだよね、まだ何か月もあるしね。でも、同じ高校に入れたらいいね」
夢のような言葉が俺の耳にこだました。
「同じ高校に入れたらいいね」
ありえない話をサラッという亜香里に、俺は視線を投げた。
彼女は本心で言っているのか、それとも単なる社交辞令なのか。
きっと社交辞令だろう。
そんなのは分かり切っている。
それでもいい。
社交辞令でも構わない。
俺は俄然やる気になった。
残りの数か月、ここで頑張らずにどこで頑張るのだ。
同じ高校に進学できたら、俺の人生が大きく変わるかも知れないじゃないか。
小説ならうまくいくわけだから、きっと頑張れば俺だって勝利を手にすることはできるはずだ。
俺はその日から必死に勉強し始めた。
寝る間も惜しんで、とにかく勉強のためにすべての時間を費やしたのだ。
学校にいる時間も、分からないところがあれば、恥を捨てて亜香里に聞いた。
授業が終われば嫌がる先生を捕まえて質問攻めにした。
中には俺のやる気を高く評価してくれて、いつでも質問を受け付けてくれる先生まで現れた。
おかげで、ありえない速さで俺の成績は上り始め、絶対に無理だと言われていた高校に見事に合格することができたのだった。
そうして、その後の3年間も亜香里と同じ高校に通うことができた。
しかし、人生の山場はこれでは終わらない。
同じ高校に入れたからといって、亜香里と付き合えるわけもなく、俺は亜香里の入部した部活に入り、とにかく亜香里のそばから離れない努力をした。
高校1年にして大学を視野に入れ、必死で勉強もした。
おかげで俺の両親は大喜びだったし、俺自身も何とか亜香里のそばにいることを許してもらえるように、自分の性格を変える努力もしたのだった。
そのかいあって、俺にも友達といえる仲間ができたし、俺を好んでくれる女の子もできた。
だが、俺の気持ちは亜香里一筋だ。
今までの努力はすべて亜香里と付き合いたいだけのために生まれてきたのだから。それを他の女子で紛らわすなんてありえない。
こうして大学も同じところに入ることができた。
もちろん、高校、大学の7年間に亜香里に彼氏ができなかったわけはなく、そのたびに俺はいらいらしたし、やり場のない怒りを抑えるのに必死だった。
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、亜香里は俺に恋愛相談をしてきたし、俺はいい相談相手として亜香里に助言してきた。
ある時、亜香里が悲痛な表情で俺に言った。
「ねぇ、和樹。彼が浮気してるんじゃないかと思うの」
亜香里が誰と付き合っているのか、その相手がどんな奴なのか、俺は熟知してる。
決して褒められるような相手じゃないことも。
俺は知りうることを亜香里に話、別かれることを提案した。
しかし、亜香里はうなだれるだけで、結局別れることはなかった。
ただ、「和樹が彼氏だったらよかったのに」と言っただけだった。
大学を卒業する頃になると、亜香里と彼氏との恋愛は自然消滅したらしい。
連絡がつかなくなった彼氏に、亜香里は泣いてばかりいた。
「和樹、どうして連絡が来ないのかしら…」
俺に連絡してきては、そんなことを言っていた。
どうしてか…俺は知っている。他に好きな女ができたからだよ。
その相手が誰なのかも、俺は知ってる。
なぜなら、俺が紹介した女だからさ。
いとも簡単に乗り換えてくれた。
こうなることは、ヤツを観察していた俺にとっては、想定の範囲ってやつだ。
だが、俺は黙っていた。
相手が誰か。
どうしてこうなったか。
そんなことが問題なんかじゃないのさ。
大事なのは、亜香里がアイツと別れて、また自由を手に入れたってことなんだ。
俺はこの時を待っていたんだ。
連絡のつかない彼氏を待つことに疲れ切った亜香里は、俺を頼るようになっていた。
「俺がそばにいるじゃないか」
優しく亜香里に声をかけた。
これだけ言えば、俺の気持ちも伝わるはずだ。
何度も何度も、亜香里は首を縦に振りながら、流れる涙で両手を濡らしていた。
俺の勝ちだ!!
ところが、亜香里の元気が戻ってくるに従って、俺に偏ってきていたはずの亜香里の気持ちはまたしても外を見始めていた。
それが決定的になったのは、亜香里が就職してからだった。
俺は社会に出て、亜香里と別の会社に就職を果たしたが、それでも亜香里との距離が遠くならないように毎日のように連絡を怠らなかった。
時間が合う限り、食事をしたり映画を見に行ったりもした。
はたから見れば、俺と亜香里はれっきとした恋人同士だったはずだ。
「ねぇ、和樹!私、彼にプロポーズされたの!!」
ある日、嬉しそうに亜香里が俺にそう言った。
「え…どういう…こと?」
「だから、結婚しようって言われたのよ!」
「付き合ってる人がいたの?」
俺の頭は真っ白になっていた。
そんな話は初めて聞いたし、恋人がいるなんて、そんな素振りすら見えてなかったのに。
亜香里は嬉しそうに、今までの彼氏とのことを報告してくれると、
「これで永久就職決定よ!よかった~、行き遅れたら貰い手がなくなるところだったわ」
そう言って笑ったのだ。
「あ…相手は、誰なの?」
「同じ会社のチーフなの。彼はね、社内でも有望視されてるのよ。きっと、将来は部長まで登り詰めてくれるはずよ!」
亜香里の夢は果てしなく広がっていた。
将来は部長夫人となり、優雅な生活を送るのだと…。
俺の今まではなんだったんだ…。
絶望が俺を押しつぶす。
「結婚式には招待するから、絶対に来てね」
「あ、ああ…そうだね」
嬉しそうにビールジョッキを開ける亜香里を、俺はぼんやりと眺めていた。
ところが、それから3か月後。
不幸な出来事というのは、突然に襲ってくるらしい。
ここしばらく連絡のなかった亜香里から、泣きながら電話が入った。
「和樹…私…」
「どうした?」
泣きじゃくる亜香里を落ち着かせるように、俺はいつもと変わらない口調で言った。
すると、亜香里は「階段から突き落とされた」と言ったのだ。
「誰に?!」
「分からない…仕事の帰りに歩道橋を渡っていたの。そうしたら、下りようとした時に背後から突き飛ばされて…そばには人がいなくて、誰も犯人を見てないの…」
どうやら、亜香里は痛みを堪えながら自分で救急車を呼んだらしい。
何とか病院へはついたものの、検査の結果脊髄をやられて下半身不随となったとのことだった。
「彼氏さんは?」
「最初はお見舞いに来てくれたけど…私が半身不随になったことを知って、LINEで破談にすると連絡がきただけで…」
「なんて奴だ!こんな時こそ、そばにいて守るべきなのに!!」
「彼の両親が、車いすの嫁ではダメだって…どうしよう…どうしよう…和樹、私どうしたらいいのか分からない」
「大丈夫だよ、すぐに行くから。まずは落ち着こう」
俺は電話を切ると、すぐに病院へと走った。
タクシーを飛ばし、冷たい廊下を足早に通り過ぎると、入り口に亜香里の名前があった。
俺はためらうことなく、ドアを開け中に入る。
するとそこには、頭に包帯を巻き、ぐったりとした亜香里がいた。
俺は亜香里を抱きしめ、彼女の心に手を差し伸べた。
「和樹、私…もう、結婚できない。二度と歩くことなんてできないんだもん、誰もお嫁さんになんてしてくれないよ」
そう言って泣きじゃくる亜香里。
どうやら、永久就職ができなくなったことで、かなりのショックを受けているようだ。
それにしても、体が不自由になったことくらいで、愛する女性を捨てるなんて…最低で、最高の男じゃないか。
俺は笑いがこみ上げてくるのを感じながらも、それをじっと耐えていた。
「亜香里、俺が一生をかけて守ってやるから、心配するな」
「え…だって、私は」
「一生車いすならそれでも構わない、俺のそばで笑っててくれるだけでいいんだ」
「本当に?私、和樹のお荷物になっちゃうよ?」
「荷物なんかじゃないよ。俺は、亜香里の笑顔が好きなんだ。その笑顔を独占できるなら、それだけで幸せだよ」
「和樹…」
俺は亜香里の弱り切った肩を引き寄せ、これからの人生を思い描いていた。
半身不随となった亜香里は動くことができない。
どこに行くにも、家の中ですら俺の手が必要なお人形だ。
もう二度と、誰にも盗まれることのない、大事なお人形となったのだ。
そう、こうなることは分かっていた。
亜香里が結婚すると報告してきたあの時から。
必ず俺のもとに帰ってくると、分かっていたのさ。
今まで何度も亜香里の婚約者に会って、ヤツの人となりを観察して、亜香里がこうなったらどうなるか分かっていたからね。
だから、歩道橋の上に亜香里の背中が見えた時、俺は躊躇わなかったんだ。
俺は亜香里を抱きしめながら、ニヤリとほくそ笑んだ。
しかし、俺は知らなかった。
亜香里は俺の胸に顔をうずめ、小さな声で「これで婚活なんて面倒なこととはおさらばだわ」
と言って、悪魔のような笑みを浮かべていたことを…。
fin
最後まで御覧いただきありがとうございます。
いかがでしたでしょうか?
最後に笑った和樹。そして、まさかの亜香里の笑み。
ふたりの心境はどんなものなんでしょうかw
ぜひ、感想をいただきたいと思います。
よろしくお願いします。




