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男運のない私、だと思っていたけど……?!  作者: 山之上 舞花
佐野樹里亜は男運が悪い?
5/49

5 忘れさせてください

 主任に抱きしめられながら、どこか冷静な私が、そんなことを考えていた。


「佐野が悪く言われることにはならないようにするから、だから泣き止んでくれ」


 主任はそう言うと、頭頂の辺りに触れて……って、えっ?

 主任の手はまだ頭を抱え込むようにしていて、もう片方の手も背中に回されていて……。

 それじゃあ、今触れたのは?


「佐野、弱っているところにつけ込む男だと思っていいから、俺のことを見てくれないか」


 ドキンと心臓が大きく鳴った。

 顔を上げると真剣な目をした主任と目が合った。

 私の心臓はドキドキと脈打ちだした。


「えっと……嫌ですよー、主任。そんな言葉を言われたら、主任が私のことを好きみたいじゃないですか」


 冗談っぽく言って……冗談で終わらせようとしたのに、主任の手が動いて後頭部から私の頬へと移動した。


「そうだ。好きなんだよ、佐野のことが」

「うそ」

「嘘じゃない」


 主任に言われたことが信じられなくて小さく呟けば、すぐに強い口調で否定をされた。

 それと共にまるで愛おしいとでもいうように、主任の手が私の頬を撫でる。


「佐野が新入社員で入ってきた時から、いいなと思っていたんだ」

「そんな……私なんて地味で目立たないし、真面目なのが取りえでしかないし……」

「その控えめなところがいいんだよ」

「……可愛くないですよ、私」

「俺には十分可愛いよ」


 主任の言葉に頬が赤く染まっていくのがわかった。


 ここまで言われて応えないのは女じゃない?


 私は一度目を閉じて、開くと主任のことをじっと見つめた。


「あの主任、私のこと、ちょろいと思ってくれていいです。だから……その……嫌なことを忘れさせて欲しいんです」


 私の言葉に主任は大きく目を見開いて、それから嬉しそうな笑顔へと変わっていった。


「ちょろいなんて思わないよ、樹里亜。俺の気持ちを受け入れてくれるんだね」

「えっ、いや、だから、主任の好意につけ込もうとしているんですよ、私は。惨めな思いを忘れたいためですから」

「つけ込もうとしているのは樹里亜じゃなくて俺の方だよ」

「私のほうですってば。誕生日なのに惨めな思いをしたから、主任の好意を利用して、愛されているんだと思おうとしているんです、わた」


 不意に触れた唇の感触に私の言葉は止まった。優しい触れるだけの口づけをした主任の顔を驚きと共に見る。


「愛されていると思おうとしなくていいんだ。俺は本気で樹里亜のことを愛しているんだから。だから、このあとたっぷり俺の愛を受け止めてくれ」


 そう言うと主任は先程とは違う、想いのこもった口づけをして私を抱き上げると、リビングを後にしたのでした。


 ◇


 もぞりと布団の中で身じろぎをした。もう起きなければいけない時間だと思うけど、体は休息を欲していた。


「樹里亜、起きたのか」

「主任」


 聞こえてきた声に言葉を発したら、思っていた以上にガラガラのかすれた声が出て、驚いてしまった。


「主任じゃないだろう。名前を呼べと言ったのを忘れたのか」


 私の額に口づけを落としたあと、そう言った主任。笑顔に黒いものが滲んでいる気がするのは気のせいだろう。


「ゆう…すけ……さん」

「よくできました」


 今度は唇に触れ……いや、朝から濃厚な口づけをされましたよ。やっと離れてくれて息が上がる私と違い、悠介さんは涼しい顔だ。

 というか、昨夜あれだけのことをしておいて、平然と着替えて会社に行く支度をしているって、どうなのよ。


 そこまで考えて、私も会社に行かなくてはと思い、体を起こそうとした。が。


「樹里亜は寝ていろ。昨夜は手加減するのを忘れたから、体が辛いだろう。今日は休むと伝えておくから」


 そういって、悠介さんに掛布団ごと押さえつけられた。


「でも、行かないわけにいかないでしょう。好き勝手言われるのは嫌だもの……」


 と、ジタバタと布団から出ようとあがいていると、布団に重さが加わった。あれ~、と見ると先程よりも黒いものを滲ませた笑みを浮かべた悠介さんがいた。


「どうやらまだ、可愛がり方が足りなかったみたいだな」


 そう言いながら、せっかく結んだネクタイをシュルリと抜き取る悠介さん。

 今からまたって、どんなハードモードだよ。

 私は顔を蒼褪めさせながら、口を開いた。


「いきなり休むのはよくないと思います」

「そうだけど、俺も、有給が溜まってんだよな。樹里亜が休むのなら、一緒に休むのも有りじゃないか」

「そんな……」


 これ以上貪られたら、今日どころか二、三日は動けないこと間違いなしだろう。


 そんな私の心中がわかったのか悠介さんはフッと笑うと、もう一度額に口づけをしてベッドの上から降りていった。


「俺は仕事に行くけど、樹里亜は休んでいるんだぞ」


 そう言いながらネクタイを締め直す悠介さん。なんか手玉に取られている感じに、ムッとしていたら、悠介さんはどこからか取り出した鍵を私に見せてきた。


「これを置いておくから、動けるようになったら帰っていいぞ」

「帰っていいの?」

「居てくれるなら居てほしいが、そういうわけにはいかないだろ」


 悠介さんの言う通り、着替えやあれやらが欲しいかな。

 ……いや、そうじゃないだろ、私。


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