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T-8 今更だけどと、それからのこと 前編

 結城の祖父はちらりと時計へと目を向けた。


「そろそろ樹里亜(じゅりあ)が帰ってくる頃だな。一先ず、この話はここまでとしておこう。この後の予定だが、皆のことを樹里亜に紹介するつもりだ」


 息をのむ坂田家一同。祖父は咲良(さくら)大叔母へと目を向けて言った。


「咲良さんに任せてよろしいか?」

「ええ、もちろんですわ」


 おっとりとした口調で請け負う咲良。


「皆も樹里亜に会って動揺しないように……というのは無理だろうな。余計なことを言わないように気をつけてくれればいい」

「はっ? 動揺しないようにというのでしたら、平常心でいるように努めますが」


 坂田さんが答えたけど、それに納得したように深見さんが言った。


「あ~、義父(とう)さん、動揺しないのは無理だと思うよ。実際に樹里亜さんと会えば、義姉(ねえ)さんにそっくり過ぎて、挙動不審になると思うから」

「そんなにも美沙緒(みさお)に似ているのかい」と野口さん。

「ええ、バイトに現れた時にギョッとし過ぎて、樹里亜さんを送り込んだ幸恵(ゆきえ)に殺意が湧きましたから」


 物騒な言葉にみんなして引いた顔で深見さんのことを見つめた。そんな中でただ一人、深見さんの妻の京香(きょうか)さんが頬に手を当てて、ほお~と息を吐きだした。


「私も夫に同感ですわ。あの子のことだから、樹里亜さんが私たちの前に現れた時の驚きようを、いたずら気分で楽しんでいたのではないかしら。そこいら辺で見ているのではないかと、見回してしまったもの。予想に反していませんでしたけどね」

「というか義兄(にい)さん達は、前に来た時に樹里亜さんに会ってないの?」

「ああ、会っていなかったんだ」


 などと、坂田一族が話している間、こちらはこちらでアイコンタクトで感情の共有をしていた。


 そこに扉をノックする音が響いて、皆の会話がとまった。


「樹里亜です。入ってもよろしいでしょうか」

「ああ、入りなさい」


 扉が開いて樹里亜が部屋の中へと入ってきた。


「ただいま戻りました」


 家族へと挨拶した後、お客様……坂田一家へと目を向けた。


「皆さま、いらっしゃいませ」


 そう言って軽く頭を下げた樹里亜。顔をあげた樹里亜は……戸惑っていた。

 それはそうだろう。樹里亜の顔を見た坂田一族は、皆驚きに目を見開いて樹里亜のことを凝視しているのだから。

 そして、樹里亜も美沙緒(みさお)を見て、驚いた顔をした。


「樹里亜ちゃん、こちらにいらっしゃい」


 咲良が声を掛け、おとなしくそばへと行く樹里亜。咲良の隣へと座らされた。


「樹里亜ちゃん、こちらはね、私の亡くなった姉の旦那様だった坂田恭嗣(ゆきつぐ)さんとその家族なの」

「えっ!」

「うふふっ、驚くわよねえ。私も、すごく驚いたのよ。しばらく交流がなかったもの。恭嗣さんの隣にいる方は、再婚なさった杏子(きょうこ)さん。そのお隣にいるのはお二人の間のお子さんで恭介(きょうすけ)さん。それから、そちらにいらっしゃるのが、私の姉、彩愛(あやめ)姉さまとの子供の美沙緒ちゃんとその旦那様の哲郎(てつろう)さん。それから、あなたがバイトでお世話になった深見領司(りょうじ)さんは杏子さんの前の旦那様との子供なのよ」

「ええっと……はい」


 樹里亜は咲良さんの説明に目を白黒させながら、坂田一家の関係性を何とか飲み込んだようだ。


「それから、今日は来ていないけど恭介さんの奥様と二人のお子さんがいるの。まだお子さんは小さくてね、今日は時間が読めないということで、遠慮していただいたのよ」

「はあ~」


 樹里亜は咲良の含みのある言い方に、困ったように相槌を打った。その様子をふふふっと笑ってみていた咲良は、スッと表情を引き締めて樹里亜に言った。


「樹里亜ちゃん、先に謝るわ。ごめんなさいね。あなたに黙っていたことがあるの」


 そう言うと視線を野口夫妻へと向けてから言葉を続けた。


「実はね、こちらの美沙緒ちゃん……野口夫妻はひと月以上前にこちらに来ていたのよ」


 野口という言葉に樹里亜の肩が揺れた。


「あなたに不快な思いをさせたくなくて、私たちが対処するとは伝えていたわよね」


 頷く樹里亜。


「その時、私は立ち合っていなかったのだけど、話し合いが終わった頃に母屋にいった私は玄関で美沙緒ちゃんと会ったのよ。美沙緒ちゃんから『叔母様』と言われて、すごく驚いたわ。でも、私が驚いたのは美沙緒ちゃんに会えたことではなかったの。美沙緒ちゃんと樹里亜ちゃんが、とても似ていたことによ。他人の空似というには、あまりにも似すぎていると思ったの。それで、美沙緒ちゃんと別れた後に、夫とお義兄(にい)様にお話してみたの。お義兄様たちも樹里亜ちゃんと美沙緒ちゃんが似ていることを気にしていたから、調べてみることになったわ。その結果、樹里亜ちゃんを晃良(あきら)奈織美(なおみ)さんに渡した人が、野口家の姑だと分かったの」

「えっ?」


 思ってもいなかったことを言われた樹里亜は、小さく呟いた。


「そこで美沙緒ちゃんに連絡をして再び会うことにしたのよ。その時に野口家の姑と樹里亜ちゃんのことを話したの。もしかしたら赤ちゃんのすり替えが行われたかもしれないこともね。その話を聞いた野口さんから姑とは継母、継子の関係だとお聞きしてね。そこで野口夫妻は娘さんとのDNA鑑定を行うことにしたの。ついでに娘さんと姑の鑑定もお願いしたそうでね。結果が分かったと、報告に来てくれたのよ」


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― 新着の感想 ―
[一言]  情報量が…(@_@)
[良い点] 追いつきました! 血縁関係が脳内でついていけてない部分はありますが、お金持ちの世界は凄いなあ、やっぱり血で動くんだなあなんて思いながら読みました。 でもなあ、悠介さんもそこまで足らない部分…
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