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その5 改めて彼女の事情を知らされる 中編

 ◇


 領司(りょうじ)さんは旧姓を坂田といった。

 再婚して姉になった美沙緒(みさお)さんとすごく仲が良かったようだ。

 ただ、年齢差が七歳あったことと異性ということもあり、美沙緒さんが大学に進学すると少し距離が出来たらしい。


 美沙緒さんは就職したのち、友人の紹介で出会った人と結婚し、野口美沙緒になった。

 野口家は夫になった人とその母、姑と暮らすことになった。舅は夫が大学を卒業してすぐに亡くなっていた。

 夫婦仲は良く、数年後に女の子を生んだ。


 領司さんは高校の同級生の友達だった深見京香(きょうか)さんを紹介された時に、「婿入りしてくれる人、希望!」と言った京香さんに猛アピールして結婚したそうだ。


 坂田家は弟が継ぐというか、その弟が結婚をして両親と同居しているという。


 ◇


「ここまではいいかしら? いいのなら、樹里亜さんのことにいくわね」


 ◇


 樹里亜の話は……義両親になった佐野夫妻の話から始まった。

 佐野夫妻にはなかなか子供が出来なくて、不妊治療をしていたという。

 そして、子供が望めないということが決定的になった日に、夫妻は樹里亜の母と知り合った。

 体調を崩した佐野夫人に親切に声を掛けたそうだ。

 樹里亜の母は『さいとうはるこ』と名乗った。彼女は妊娠していたけど、暗い表情をしているように見えた。

 次に偶然出会った夫妻とはるこ。この時は、はるこのほうが具合が悪そうで、夫妻は気に掛けたそうだ。

 三度目に会った時。この時も偶然の出会いだったのだが、三度目ともなればただの偶然で済ませられないようにおもい、それぞれの事情を話したそうだ。


 はるこにとってこの妊娠は、望まぬ妊娠だった。交際相手の子であったが、子供が出来たことがわかると男のほうは雲隠れしてしまい、連絡がつかなくなった。

 一人では育てられないと子供をおろそうとしたが、検査により別の病気が発覚したそうだ。子供を産んでもおろしても、長くは生きられないと医師に告げられた。

 はるこは悩んだが、生きた証として子供を産もうかと考え始めていると言ったそうだ。

 そして、佐野夫妻の事情を聞き『この子が無事産まれたら引き取ってもらえないか』と言った。


 佐野夫妻は悩んだ。子供が望めないと知らされ、まだ先のこと(養子を取るなど)は考えていなかった。否。考えられなかったという方が正しいかっただろう。

 だが、時は待ってくれない。はるこのお腹の中で子供は着実に育っていった。

 夫妻が決断したのは、はるこが臨月に入ってから。生まれた子を養子にもらうと決めた。


 その三週間後、子供が産まれたと連絡が来た。指定された日に病院に行くと、年配の女性が赤ん坊を差し出してきた。それと共に出生届と養子縁組届も渡されたそうだ。

 出生届の子供の名前の欄に『樹里亜』の記載があり、母親の名前は『さいとうはるこ』ではない名前が書かれていた。


 年配の女性は『はるこ』の生みの母で、『はるこ』を置いて婚家を出ることになった、と。

 再婚し義息子の嫁がここで出産したことで、『娘』に再会できた、と。

『娘』は父親の再婚相手と合わず、高校を卒業したあと家を出て、実家とは疎遠である、と。

 自分も『孫』を引き取ることは出来ないから、『娘』が決めたように養子としてもらえると助かる、と。

『娘』は数時間前に息を引き取った、と。


 それだけ告げると、年配の女性は立ち去ったという。


 佐野夫妻は愛情をこめて樹里亜を育てた。血のつながりがないのが嘘のように、可愛がられて育ったそうだ。


 が、樹里亜が七歳になった時に大きな変化が起こった。

 佐野家の本家である、結城家の後継者が事故により亡くなった。

 結城の当主は残された孫のために、『両親』となる人物を用意した。

 それが佐野夫妻だった。佐野父の父親は結城氏の実の弟で、結城氏は孫が育つまでの後継として甥に白羽の矢を当てたのだ。

 それにより、樹里亜には二人の弟が出来た。

 樹里亜は結城家に求められたように、弟たちにとって良い姉となった。


 その樹里亜に次の変化が起こったのが、大学に入ってから。

 大学で顔なじみになった女性に、夏休みの間のバイトを紹介されたことが発端になる。

 バイトを紹介した女性、野口幸恵(のぐちゆきえ)にどういう風に頼まれたのかはわからないが、幸恵のふりをすることになっていたそうだ。

 夏休み一杯海の家に居るはずが、結城の祖母が突然倒れたと連絡が来たそうで、急いで実家に戻ったそうだ。

 祖母が亡くなり、その連絡を深見さんに入れたそうだ。


 八月の最終日、樹里亜は海の家に行くはずだった、という。

 実家がある駅で高校の同級生に会ったせいで、事件に巻き込まれた。

 同級生の男と少し話して直ぐに離れたのだが、突然現れた女にナイフで腹部を刺された。

 女はすぐに取り押さえられ、樹里亜は病院へと運ばれた。内臓を傷付けられてことにより、一時は危ぶまれたが、乗り越えたそうだ。


 樹里亜を刺した女は、同級生の男と交際していた女だという。男は女癖が悪く、次から次へと手を出していたらしい。夏休み前に捨てられた女は、駅のところで男と樹里亜が親しそうに話しているのを見て、樹里亜のせいで捨てられたと思い凶行に及んだそうだ。


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