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その4 改めて彼女の事情を知らされる 前編

 物思いに(ふけ)っている間に、ほとんどの招待客が会場入りをしたと連絡が来た。

 そろそろ開始時間になる。


 裕翔(ゆうと)と株式会社YUUKIの社長と会長が、衝立の陰でスタンバイする。


 司会の紹介で裕翔たちが現れた。先ずは社長たちからの挨拶。

 今回の事業提携のことについての説明。

 乾杯。


 から、談笑タイム。


 俺は片隅から会場の様子を見守っていた。不備はもちろんトラブルも今のところ起こっていない。


 会場では五石(いついし)商事の技術者と株式会社YUUKIの技術者が話しているのが見える。


 三十分ほど経っただろうか、若干会場が暗くなり、前のほうにスポットライトが当たる。株式会社YUUKIの会長が前に出てきた。それからスポットライトからギリギリ当たらないところに男女の姿が見えた。


「ご歓談中に失礼する。私から一つ発表したいことがある。この度、我が孫、(とおる)の婚約が調った。知っている者は多いだろうが、融は亡き我が息子の長男である。数年後には我が社を背負って立つだろう。融の相手は佐野樹里亜(さのじゅりあ)という。以後、お見知りおきいただきたい。よろしくお願いする」


 スポットライトが広がり、男女の姿が浮かび上がった。その姿に、俺は目を見開いた。


 融と樹里亜はお辞儀をしてから、顔を見合わせて微笑みあった。


 それから……何が起こったのか、覚えていない。

 気がつけばパーティーは終わり、社へと戻っていた。


 いや、断片的には覚えている。株式会社YUUKIの会長の発表のあと、二人の周りには人垣が出来ていたこととか。樹里亜によく似た女性と深見さんが話していたこと。裕翔と水穂(みずほ)さんを交えてあの二人を囲んで話していたこと……など。


 パーティーが滞りなく終わったことを、社長から労われて解散となったが、俺は裕翔に誘われて彼の家に行くことになった。


 楽な服装に着替えるように言われて、着替えと共に浴室へと追いやられた。楽な服装に着替えることは賛成だったから、シャワーを浴びてからリビングへと戻った。


 裕翔も水穂さんも同じように着替えていて、お酒とつまみがテーブルに並べられている。座るように促されてグラスを渡された。


「お疲れさん」


 裕翔はそう言うと軽くグラスを掲げてから、一息で飲み干した。水穂さんも俺へとグラスをあげて見せてから、一口飲んだ。仕方がないので俺も追随する。


「さて、悠介君。聞きたいことがあるんでしょう」


 何をどう聞いたものかと考えを巡らせていた俺に、水穂さんが切り込んできた。


「えっと……」

「ふふっ。いきなり言われても、困るわよね。それじゃあ、こちらから勝手に悠介君の疑問を想像して答えていくことにするわね」


 俺の戸惑っている姿をみて、水穂さんがそう言った。


「そうねえ、まずは……悠介君を我が家に誘ったのは、一人でいたらまんじりともせずに過ごすんだろうと思ったからよ。気になっているんでしょう。私と樹里亜さんとの関係が」


 ガタッ


 ソファーを蹴り飛ばす勢いで立ちあがった。


「座れ、悠介」


 裕翔の圧を掛けた声に俺は座り直した。


「お前も言いたいことはあるだろうが、まずはこちらの話を聞け」


 渋々頷けば、水穂さんが語り出した。


「簡単に言えば、樹里亜さんと私はいとこのいとこになるわね」


 謎かけのような言い方に俺の眉間にしわがよった。


「あなたがバイトに行った深見さん、領司(りょうじ)叔父さんの姪になるのよ」

「それって……野口幸恵(のぐちゆきえ)が姪じゃなかったのか?」

「あら、覚えていたのね。そうよ、八年前までそう思われていたのよ。いろいろあって関係が正されたのは、七年前になるのだけど」


 もっと謎かけのような言葉を言われてしまい、理解が追い付かない。


「そうねえ、言葉で言ってもわからないわね」


 そう言うと水穂さんは立ち上がり、紙とペンを持って戻ってきた。ささっと簡単な家系図みたいなものを書いていく。その上に深見家と書いた。


「この長女と書いたのが私の母、三女が深見家を継いだの。領司叔父さんは婿に来てくれたのよ。それから……」


 三女の隣の男……男が〇、女が△で書かれている。今度は男のほうの家系図が書かれた。

 男……深見さん、いや、領司さんの家系図は少し複雑だった。領司さんの両親は父親のほうに×が書かれ、母親が再婚したのかそちらとの間に男の子がいるようだ。母親の再婚相手も妻を亡くしたようで、×がつけられた。そしてそちらには女の子がいる。そして上には坂田家と書かれた。


「領司叔父さんは三歳の時に父親を病で亡くしているそうなの。母親はもともとフルタイムで働いていたのね。再婚相手はやはり奥様を病で亡くした上司の方だった。領司叔父さんが五歳、美沙緒さんが十二歳の時に再婚したそうよ。その二年後に弟が生まれているわね」


 ここまではいいかというように水穂さんは俺を見てきた。

 領司さんの義姉(あね)が美沙緒さんかと頭の中で反芻してから、俺は頷いた。

 そこからの話は俺が想像できない……想像すらしたことがない内容(こと)だった。


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― 新着の感想 ―
[一言]  んにゅ~~~、家系図、画像で欲しい…
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