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男運のない私、だと思っていたけど……?!  作者: 山之上 舞花
佐野樹里亜は男運が悪い?
25/49

25 話にならない……から、部屋を後にする

 悠介さんのあんまりな言葉に、絶句するしかない私。なのに、悠介さんはもっと冷たい視線を私へと向けてきた。


「何か言ったらどうなんだ」

「いや、ちょっと待ってください。偽名を名乗っていたのは確かですけど、それには事情があったんです。私は彼女……野口さんに頼まれて、海の家に行ったんですよ」

「事情~、ねえ~」


 馬鹿にしたような言い方に、カッと頭に血が上った。それと共にフリーズしていた頭が回り出す。

 冷ややかな視線と言葉に竦んでいた心を叱咤して、私も悠介さんをキッと睨むように見つめた。


「偽名を名乗っていたからって、それが悪行になるわけないでしょう」

「はっ! 偽名を使ってやりたい放題してたんだろ! ちゃんと調べたんだからな」

「調べたですって。本当に私が偽名を使って、やりたい放題したって証拠があったんですか」

「ああ。それに本人からも聞いたからな」

「本人から……聞いた?」

「ああ、そうだとも。俺は大学まで行って……」


 悠介さんがしゃべっている言葉が頭に入ってこない。耳の奥でワンワンと音が鳴っていて、それ越しに言葉が聞こえてくる。けど、それは意味のある言葉として入ってこないのだ。


 回らない頭で考えていたのは……


 悠介さんは……約ひと月、一緒に働いた私のことじゃなくて、嘘つき女の言い分を信じたんだ。


 ということ。


 その事実が、じわじわと、心に落ちてきた。


 それを理解すると同時に、私は椅子から立ちあがった。そのまま歩き出そうとしたけど、手首を掴まれて動けなくなる。


「どこに行くんだ」

「部屋に戻るんですけど」


 それが何か? という目で悠介さんを見たら、彼は怯んだように軽く体を仰け反らせた。手を離してもらおうと腕を引こうとしたら、彼ははっとした顔をして私の手首をつかみ直した。


「離してくれませんか」

「まだ話は終わってないだろう」


 話が終わってない?

 何を言っているのだろう。

 こんな状態で話が出来ると、思っているの?


 そう思いながら悠介さんの目をジッと見続けた。私の反応が彼の思い描いたものと違ったのか、悠介さんは目に見えて狼狽えた。


「混乱しているので、部屋に戻って考えたいんです」


 そう言って背を向けて歩き出す。それと共に手首から彼の手が離れていった。


 リビングの扉の取っ手に手を掛けたところで、再度引き止めるように肩を掴まれた。その力の強さに不快感が込み上げてくる。


「待ってくれ。その……誤解があるようだが……」


 悠介さんが言いかけた言葉は、私の冷たい視線にすべてを言えずに口の中で消えたようだ。


 誤解……


 その言葉に不快感が増していく。


「このまま居たって、話し合いにならないと思うので。というか、一緒に居たくないです」


 端的に事実だけ告げれば、悠介さんの顔色が悪くなっていく。


「す、すまない。そんなつもりじゃなかったんだ」


 そんなつもりって、どんなつもりだったんだろう?

 まあ、いいか。今はとにかく一緒に居たくないもの。


 何も言わずに踵を返して、リビングから出た。が、またも手首を掴まれて止められた。


「話し合おう。そうすれば誤解も解けるだろうし」

「話し合い以前の問題です! というか、混乱しているから自宅に帰って考えたいって、言ってるんですけど!」


 イライラしながら言葉を叩きつけた。悠介さんはぐっ、と呻くような声を出して、私の手を離した。私は悠介さんのことを見ないようにそのまま玄関まで行って、靴を履いた。


 取っ手に手を置いて……どうしても何か一言言いたくなり、振り返った。リビングの入口で立ちすくむ悠介さんの姿が目に入った。


「偽名のことですけど、海の家のオーナーの深見さんが事情を知っていますから」

「深見さん?」

「ええ。私が名乗った名前は深見さんの姪の名前でしたから」

「えっ? あっ?」


 混乱して視線をさ迷わせる悠介さん。私はその様子を半目で見てから、外に出た。


 重い足取りでエレベーターの前に立ちボタンを押す。


「はあ~」


 ため息を吐きながら、込み上げてくる思いに涙が出そうになる。

 まだ、駄目だ。部屋に戻ってからなら……。


 ポン


 軽い音がしてエレベーターが来たことが分かった。下げていた目線をあげて、エレベーターの中へと入ろうして、人がいることに気がついた。


「どうして……」

「心配だったから」


 驚きに立ちすくむ私に柔らかい笑みを浮かべた顔で見てくる。


「でも……その……」

「うん。何が言いたいかわかるけど、その前に部屋に戻らない?」


 優しい口調で言ってくれる。視線にも労わりの色が見える。

 それでも動けずに立ちすくむ私。


「樹里亜!」


 聞こえた声にビクリと大きく体が動いた。それと同時に手を引っ張られてエレベーターへと乗り込んだ。

 直ぐに扉が閉まり動き出した。


 が、すぐに次の階で止まった。


(とおる)!」

「大丈夫! カモフラージュだよ」


 直ぐに閉まり動き出した。そして、二つ下の階でまた止まった。

 またも彼が閉じるボタンを押して直ぐに動き出す。


 このマンションは十五階建てで、最上階に悠介さんの部屋があって……。

 十四階で止まってその次が十二階、また九階で止まって……。


「ねえ、こんなことしなくても、私が五階に住んでいることは話してあるのよ」

「ああ、そう言えば話しちゃったんだっけ。それなら尚更意味があるかな」


 続けて八階で止まったところで、腕を引かれてエレベーターを降りた。そして、融は当たり前のように鍵を取り出して、エレベーターのすぐそばの扉に差し込んだ。私は促されるままに中へと入った。


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