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男運のない私、だと思っていたけど……?!  作者: 山之上 舞花
佐野樹里亜は男運が悪い?
21/49

21 とりあえずまだ怒っていますけど、なにか?

 呆れのため息を吐きだした主任。


「わかった。このことは、俺は聞いていないから」

「そうしてくださると助かります」


 私はそう言うと、フウと息を吐きだした。そしてグラスを持って立ちあがった。

 主任もつられたように立ち上がり、自分のグラスを持ってキッチンへ。

 ササッと洗って布巾で拭くと食器棚へと片づけた。


「それじゃあ、もう寝ますね。おやすみなさい」


 ニコリと笑って主任から離れてリビングへと行こうとしたら、右手首を掴まれた。


「どこに行く気だ」

「どこって、あちらで寝ようと思っているんですけど」


 掴まれていない手でリビングを指させば、険しい顔をする主任。


「ソファーで寝るつもりか」

「えっと、あれってソファーベッドですよね」

「だが、布団はないだろ」

「いやいや。今は6月じゃないですか。布団なんていらないですよ。タオルケットで十分ですってば」

「タオルケットなんかないだろう」

「いえ、ありましたよ。あちらの部屋に」


 主任の服だらけの部屋で、家探しさせてもらった時に見つけましたとも。

 そうしたら主任は拗ねた顔で見てきた。


「恋人なんだから一緒に寝たっていいだろう」

「嫌ですよ」


 きっぱりと言い返したら、主任は傷ついたような顔をした。私は小さく息を吐きだした。


「あのですね主任、私だってこんなこと言いたくはないんですよ」

「それなら一緒に寝たっていいだろう」


 私はじっと主任の顔を見つめた。


「では聞きますが、ただ(・・)一緒に眠るだけなんですよね?」

「それは……」


 目線を逸らす主任。けどすぐに目を合わせてきた。


「樹里亜だって嫌がってなかっただろ」

「昨日までは、です!」


 強い口調で言えば怯んだように軽く体を引いた主任。でも手は離してくれない。


「というか、何か勘違いしてませんか、主任」


 据わった眼で主任のことを見れば、引きつった顔で見詰め返された。


「私は軟禁されたことを許してませんから」

「えっと? 怒っているのか」


 言われたことを飲み込むために二度瞬きをした後、恐る恐る聞いてきた主任。


「ま・さ・か、怒っていないと思いました?」

「いや、その、普通に食事を用意してくれていれば……」

「別に主任のためではないです。私が食べたかったから用意しただけです」


 言外に主任の分はおまけだと匂わせてやる。この言葉にショックを受けたのか、出てくる言葉はないようだ。

 私が一歩動くと、主任の手が離れた。


「今夜はこの部屋に泊まりますけど、無理強いするつもりでしたら警察に駆け込みますから」


 ジッと顔を見詰めたまま主任からの言葉を待つ。

 主任は掠れた声で「わかった」と言った。


 私は主任に背を向けると、リビング奥の扉を開けて隣の部屋へと入った。

 扉を閉めると、先に用意していた一人用ソファーを扉の前へと置いた。これで主任は扉を開けることは出来ないだろう。


 昼間に用意しておいた着替えを持つと、私はシャワーを浴びた。

 ルームウエアに着替えた私は、これまたセットしておいたソファーベッドへと腰かけた。

 家探しした時に見つけたシーツを敷いて、枕とタオルケットを端に置いてある。


 髪をタオルで拭きながら「ハア~」とため息を吐きだした。

 思っていた以上に堪えたみたいだ。

 いろいろ……考えて出した結論……どおりだったことに。


 話を聞いて課長の懸念も分かったけど、だからってその言葉通りに物理的に動けなくするのは、どうかと思う。

 私を屈服させたかっただけなのか、それとも実は嗜虐趣味があるのだとか?


 そんな益体(やくたい)もないことを考えていたら、ジワリと涙が浮かんできた。


「くやしい……」


 小さく零れた言葉に、自分の本心を悟った私。


 そうだ。私は悔しかったんだ。

 主任に……悠介さんに信用してもらえてなかったことに。

 課長の懸念を話すわけにいかなかったとしても、具体的な部分はぼかして話して、私に協力を頼んでくれればよかったはずなのに……。

 一緒に仕事をして、信頼をして貰えていると思っていたなんて……。


 ほんと、ばっかみたい。


 ポロリと涙が落ちた時に、ピロンとメッセージの着信音が鳴った。

 開いて見れば弟からだった。


『ねえさん、大丈夫?』


 短い言葉に集約された思いが伝わってくる。

 普段は鬱陶しいくらいに長い無駄話満載の文を送りつけてくるのに、こんな時に限って思いを込めた一言だけだなんて……。


 画面に触れた指が電話帳を開いたところで、私は手を止めた。

 こんな状態で電話を掛ければ、涙声なのがバレてしまう。

 そうしたら優しい弟のことだもの、すぐに駆けつけてくるだろう。


 私は口元に笑みを浮かべると、メッセージを開いた。


『大丈夫よ』

『本当に?』


 直ぐに返ってきた言葉に苦笑が浮かぶ。

 私の性格を知り尽くしている弟は、疑っているのだろう。


 昼間に頼みごとをしたことで、弟には今の状況を話すことになったのは仕方がなかったことだった。

 心配性の弟がいろいろ言ったけど、彼と話をしてみてからだと押し切ったのは、私。

 だから……。


『本当に! でもまだすべて話してないから、明日にもう一度話すよ』

『それなら僕も一緒に』

『それは駄目よ。

 というか、姉さんのことを信じなさい!』

『ねえさんのことは信じているけど、そいつのことは知らないから』


 弟の返事に笑ってしまった。


『心配してくれてありがとう。

 おやすみ』


 そう返して、私はスマホを閉じたのだった。


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