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男運のない私、だと思っていたけど……?!  作者: 山之上 舞花
佐野樹里亜は男運が悪い?
2/49

2 帰宅途中の出会い

「佐野?」


 自宅最寄り駅を出たところで、後ろから声をかけられた。振り向くと、主任がいた。ここに住んで一年近くになるけど、今まで出会ったことはなかったから、本当に驚いた。


「主任、お疲れさまです。主任も、この駅だったんですね」

「ああ、そうなんだ。佐野もだったんだな」


 和やかに会話をしながら、並んで歩きだす。どうやら家があるのは同じような方向らしい。だけど私はすぐそばのコンビニの前で立ち止まった。


「主任、私、ちょっと寄りますので」

「あっ、俺も買いたいものがあったんだ」


 ここで……と続ける前に、主任に言われてしまい、一緒にコンビニの中へ。カゴを手に持ち、一瞬躊躇(ちゅうちょ)したけど、すぐに私は開き直ることにした。そう、このあとやけ酒をするために立ち寄ったのだ。ついでに言うと、先ほどのディナーはまだ三品目のポワソンを食べ始めたところだった。真鯛だというからゆっくり味わおうと思ったのに、あいつの言葉に一口食べただけで、残すことになったのよ。


 あのお店を予約したのは私だ。あいつが「樹里亜の誕生日なんだから好きな店にしていいよ」と言ったから、ずっと行ってみたかったあの店にした。ついでに言うと、付き合って四年経つし、最近はいい雰囲気になっていたから、そろそろプロポーズ……なんて、考えなかったわけじゃない。


 それなのに、この会話の直後といっていい三日後から、彼に私の課の後輩が近づきだしたのだ。最初は気にしなかったけど、噂で常務の娘だと知ってから、嫌な気持ちがしていたの。


 そして、先ほどのあれ……というわけだ。ひと月が経つ間に落とされたということね。


 ムカムカする気持ちを押さえながら、適当にチューハイやカクテルを選んでカゴに放り込む。それからつまみになりそうなものを物色しながら、やはりちゃんとご飯も食べないととおもい、総菜などを見繕って入れた。少し多くなったけど、明日の朝用におにぎりも買うことにして、レジ待ちの列に並んだ。


「佐野、カゴがいっぱいじゃないか」


 後ろから声をかけられた。てっきり主任はもう買物を済ませて出て行ったと思ったのに。


「いいじゃないですか。私が何を買ったって」

「この量って、買い置きにしても多すぎないか。やけ酒をするわけでもあるまいに」


 呆れたような主任の言葉に、私はとっさに返せなくて唇を噛んだ。


「佐野?」


 不審そうな声に答える前に、レジが空いて私の番になった。


「主任、お先です」


 レジへと行って、電子マネーで支払った。商品を詰めてくれた袋を受けとって店の外に出ると、主任が待っていた。会計が終わった後、先に店を出て行くのが見えたから帰ったと思っていたのに、待っていてくれたようだ。


「佐野の家はどっちだ」

「こっちの方です」


 答えたくないけど、一縷の望みに掛けて、マンションがある方向を指さした。


「そうか、同じだな」


 そう言って主任は歩き出したので、私も並ぶように隣を歩く。


「それで……」


 と、珍しく主任は言いにくそうに言葉を発した。普段は歯切れよく話す人なのに、躊躇(ためら)いながら言葉を口にするのが珍しくて、つい主任の顔を見るために見上げてしまった。

 そうしたら、心配そうな顔をした主任と目が合って、私は思わず立ち止まった。


「小耳に挟んだのだが、今日佐野は、ディナーに行ったんじゃないのか。そのために定時で上がれるようにしていただろう。なのに、ディナーを食べ終わって帰るには、早い時間だよな」


 私は主任が知っていたことに驚いて、目を見開いて主任のことを見つめた。


「もしかしなくても、彼と喧嘩をしたのか」

「……どうして、そう思うんですか」


 私は辛うじてそう訊き返した。主任は私が手に持つ袋を指さした。


「さっきの俺の失言に佐野は何も返さなかっただろ。あれが図星だったとしたら、という推測だ」


 主任はため息を吐きながらそういった。どうやら、先ほどの失言を悔いているみたいね。


「気にしないでください。私は気にしてませんから」


 そう言ってニコリと笑った。……笑ったはずだった。


「お、おい」


 主任は焦ったように声をあげた。それから両手に持っていた荷物を片手に纏めると、ポケットからハンカチを取り出して、私の目に当ててきた。


 平然としていようと思う気持ちを裏切って零れた涙は、堰を切ったように次から次へと溢れてくる。


 泣き出した私の涙を拭きとろうとしてくれる主任。その私たちを見ながら通り過ぎる人の視線が痛い。主任が泣かせたわけではないのに、これでは主任が悪者と思われてしまう。

 そう思うのに、涙は止まる気配は見せなかった。


「仕方がない」


 主任はそう呟くと、私の肩を抱くようにして歩き出した。


「すぐそこに俺の家がある。一先ず、そこに行くぞ」


 私は主任に連れられて、徒歩三分くらいのところにあるマンションへと入って行ったのだった。


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