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男運のない私、だと思っていたけど……?!  作者: 山之上 舞花
佐野樹里亜は男運が悪い?
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15 伊崎の事情 その1

 まずは入社一年目に起こったことを話し終わったので、私はグラスからお茶を一口飲んで喉を潤した。


「その話は聞いているぞ。確か企画室の奴だったな」


 と主任が言ったので、私は頷いた。


「そうです。まだ所属していた課が企画室だったから、左遷で済んだんでしょうね」

「そうだな。そんな詐欺まがいのことを行うやつが、営業だったら目も当てられなかったな」


 主任の言葉に、私はジトーとした目を向けた。主任はたじろいだようだけど、逆に目に力をいれて見返してきた。


「なんだ?」

「いえ、認識が甘いなと思いまして」

「どこがだ」

「ですから詐欺まがいではなくて、詐欺を働いたんですよ。やつは」

「だが、それは防がれたんだろう」

「いえいえ。奴がしたのは結婚詐欺ですってば」


 私の言葉に目を丸くする主任。


「いいですか。奴は後藤さんと結婚の約束をしていました。このことは口約束だったと、やつは言い張りましたが、マンションの契約の時に不動産会社の人が『結婚して二人で住むところだから』と言っていたのを聞いています。それに浮気相手に『あいつは貯めることしか知らないからな。それなら俺が有効活用してやらないと』と言っていたのも知っています。人のお金を自分の物のように思っていたんですよ。詐欺師の考え方でしょう、これは」


 主任は暫し考え込んで……首を縦に振った。

 よし、詐欺師だったとわかったようだ。

 と安心したのに、すぐに首を横に振る、主任。


「いや、この話のどこに、関係があるのかがわからないんだが」

「関係ありますよね。伊崎が年上女性社員たちに目をつけられたという話ですもの」

「どこがだ。後藤さんと高橋さんの馴れ初め話じゃないか」

「あっ、知ってました。ヒーローは高橋さんだって」

「奴は、俺と同期だよ。それに手伝わされたんだよ。奴の素行調査を!」

「へえ~。それはご愁傷さまです。ちなみに二年で本社に来たのに、営業に移動になるまでの一年半は、どこにいたんですか?」

「ああ、それは裕翔(ゆうと)の小間使いをさせられていたんだよ」

「小間使いですか? 秘書ではなく?」

「そうなんだ。移動する時の運転手から、出張の時のかばん持ちまでやらされてな。……って、それはいまは関係ないだろう。それよりも伊崎が女性社員に目をつけられたと言うが、それくらい自分でどうにかできるだろう」


 話しが脱線しそうだったので、ついでとばかりに主任が営業に来るまでの空白の期間を聞いてみたら、あっさりと答えてくれた。そうか……再従兄弟(はとこ)の我が儘につき合ってやっていたんだ。


 生暖かい目を向けたら、ぎろりと睨みつけられた。

 へいへい。ちゃんと話しますってば。


「それは無理ですよ。伊崎が年上女性をあしらえないから、私が彼女になったんですもの」


 私の言葉に何故か主任は目頭を押さえるようにして、眉間を揉みだした。


「あのな、先ほどから聞いていると、佐野と伊崎は契約かなんかで付き合っていると聞こえるんだが」

「ええ、そうです。さっきからそう言ってますよね?」


 私は小首をかしげながら肯定した。


「だから、なんで樹里亜が伊崎の面倒を見てやっているんだ。おかしいだろう」

「えー。でも、あの時には、こうするのが一番波風が立たないと思ったんですもの。最初に噂話をしてきた先輩たちも、伊崎に手を出せなくなりましたし。私にも事情があって、煩わしい人からのアプローチをどうにかしたかったし。いうなれば利害の一致というやつでしたから。それにねえ、伊崎の生い立ちを聞いたら、協力してやりたくなったんですよ」

「伊崎の生い立ち?」

「えーと、わたし達同期は伊崎から直接話を聞いているし、会社の人事部辺りも知っていることなので、話させてもらいますね」


 私はもう一口お茶を飲んで喉を潤してから、伊崎の事情を話し始めた。


 ◇


 伊崎はああ見えて苦労してるんですよ。

 彼が生まれる前に、事故で父親が亡くなっているそうです。

 母親は頼る親戚もなく一人で伊崎を育てていましたが、伊崎が小学校に入る頃にいい人が出来たそうです。

 その人も妻を早くに失くしたけど、妻の両親が助けてくれたので息子と二人の生活が成り立っていたそうでした。

 お察しのとおり、会社の上司の方だったそうですよ。

 紆余曲折があって、二人が再婚に踏み切ったのが、伊崎が小学校を卒業する時だったそうです。

 そして、何やかやとあって二人が温泉宿への一泊の新婚旅行に行ったのが六月だったそうでした。

 で、事故に遭って亡くなりました。


 伊崎は茫然自失になったと言ってました。

 気がつくとお葬式も終わっていて、親戚が集まっていたそうです。

 お義兄(にい)さんのほうは親戚たちが引き取ってもいいと言ったそうですが、伊崎のことは誰も引き取ろうとしませんでした。

 でも仕方がないことですよね。

 集まった親戚というのは、義父の親戚でしたから。

 施設に入るしかないと思われたところに、声をあげたのは義兄とその母方の祖父母だったと言います。


 あっ、とっ、そうそう、義兄(あに)になった人は伊崎より六歳上でして、この時大学に入ったばかりでした。

 で、義兄の意思がとおり、伊崎と義兄は義兄の母方の祖父母に引き取られました。


 普通に育ててもらったそうですよ。

 遠慮する伊崎に「心配するな。お前にかかるお金は、お前の母親の保険金から使っておる。私らに負担はないからな」と笑いながら言ったそうです。


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