13 頭の痛い話
私はズキズキと痛みだした頭を抱えたくなった。けど、そんなことをしてもなんの解決にもならないと思い、キッと主任のことを睨むように見た。
「それで、私に話したということは、まだ課長は何か言っているんですよね」
「ああ。出来れば佐野に、来週まで休んでもらいたいと言っているんだ。一応、ただの不調でミスをした可能性もあるから、と。異動は覆らないけど、上にあげる評価をちゃんとしたいと言っていた」
私はしばらく無言になった。頭の中では目まぐるしく考えていたのだけど。
私が考え込んでいるからか、主任は黙って待っていてくれるようだ。
私は考えをまとめると、一度息を吐きだしてから顔を上げた。
「分かりました。課長が言うように納得いただけるまで休みます。ですが、その前に二人にメッセージを送らせてください」
「おい!」
私の言葉に声をあげた主任は、携帯電話を操作しようとした私の手を掴んだ。
「大丈夫です。余計なことは書きませんから」
「佐野、そうではなくて」
「それに嫌なんですよ。伊崎も磯貝ちゃんも、正当な評価をされないのが」
「磯貝、ちゃん? 正当な評価?」
主任の言いかけた言葉をぶった切るように、私は強い調子で言った。その言葉に主任は動きを止めると呟いた。
「そうです。二人は普通に優秀です。私とのことで、色眼鏡でみられることは我慢なりません!」
強い調子で続けた後、私はシニカルな笑みを口元に浮かべた。
「まあ、今回のことは、伊崎のバカが浮かれまくって必要な言葉を言うのを忘れたのが悪いのと、私が短気を起こしてあのバカの言い分を聞かずに席を立ったことが悪いんですよ。そのせいで余計に拗らせましたね」
「だが合鍵を持っているとはいえ、勝手に佐野の部屋に入り込んだだろ」
「そこも誤解です。あのバカは異動の辞令を、公表されるまで話せなかったんですよね」
主任は肯定するように頷いた。
「それなら、一日フライングになるけど、他の人に聞かれないところで話したくて、うちに来たんですよ。なのに私がいなくて、緊張をほぐそうと弱いのにチューハイなんか飲んだのでしょう。で、潰れて片づけも何もしないで仕事に行ったんでしょうね」
私がウンウンと頷きながら言うと、主任は何とも言えない顔で私のことを見てきた。
「とにかく、メッセージを送らせてください。余計なことを書いてないか、打ち込んだ内容を確認してもらってから送るようにしますから」
私はそう言うと、ササッとスライドさせながら文字を打ち込み、書き上げたそれを主任へと向けた。
『磯貝ちゃん、お仕事お疲れ様。
連絡しないでごめんね。
祖父が倒れたと連絡が来て、先ほどまで意識がない状態だったの。
病院に詰めきりになってたんだ。
先ほど意識を取り戻したけど、容体が安定するまで、もう少しこちらにいることになると思う。
主任に連絡した時に、課のみんなには話さないようにお願いしていたから、心配を掛けちゃったかな。
もうしばらく仕事のことは、よろしく!』
内容を確認した主任が頷いたので、私はすぐにメッセージを送った。
続けて伊崎への文章を打ち込もうとしたら、すぐにメッセージが返ってきた。
ポン ポン ポンと、短文で贈られてきた言葉に口元がニンマリと弛んだ。
『うわ~ん、樹里亜さ~ん!(;_:)』
『無事でよかった~!!』
『大変だったんですね。りょっ!(‘◇’)ゞ』
横から磯貝ちゃんからのメッセージをみた主任は微妙な顔になった。
そんな主任は放置して、私は伊崎へのメッセージを打ち込んだ。
『い~さ~き~。聞いたぞ、ばかやろう!
異動だってな。よかったな、こんちくしょう!
で・も! この間のことは忘れんからな~!!
私の事情は磯貝ちゃんから聞きやがれ。』
主任に見せると、無言で私とメッセージとを交互に三度見した。そして微妙な顔のまま頷いたので、メッセージを伊崎へと送った。
そして、待つまでもなく、すぐにメッセージが返ってきた。
『すまん、樹里亜。俺が悪かった』
私はそれを主任に見せてから、返事を打ち込んだ。
『あー、そうだね。浮かれ過ぎたあんたが悪い!』
『うっ! 返す言葉がない』
『まあ、いいんだけど。
こっちも忙しいんで、そっちに戻ってからきっちり言い訳を聞いてやるわよ」』
『許してくれるのか』
『だーかーらー、話を聞いてからって言ってんじゃん』
『うぐっ。俺が悪かった』
『それはさっきも聞いた!』
『いやそうじゃなくて、もう一つ』
『もう一つってなにさ』
『その、あの日話をしようと思って、お前ん家に行ったんだよ』
『それで?』
『待っている間に、お詫びで持ち込んだ缶チューハイを飲んで、そのままにしてきたんだ』
『あんた、ばかー? 弱いのに缶チューハイを飲むなんて!』
『お説教はごもっともなんだけど、片づけに部屋に入ってもいいか?』
『やめて! いや、それ以外に腐るようなもんを放置してんの?』
『いや、缶チューハイ一缶と借りたグラスがそのままだと思う』
『それならいいわよ。帰ってから片すから』
『重ね重ね、すまん』
『へいへーい。明日も休むから仕事、よろしこ』
『ああ。じゃあ』




