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男運のない私、だと思っていたけど……?!  作者: 山之上 舞花
佐野樹里亜は男運が悪い?
11/49

11 会社の内情に詳しいのは……

 私は頷くことを返事としながら、頭の中では様々なことを考えていた。


 会社の成り立ちを話すということは、主任も会社の創立に関わった一族だということだろう。確か、一族や縁故で入社する人ほど、厳しい目を向けられると聞いている。


 そこまで思って私は、ん? となった。


 その疑問を口にする前に主任がまた話し出した。


「このことを踏まえての話になるのだが、我が社は五代目が会社創立に関わっていないことからわかるように、関係のない一般社員でも出世の道は広く開かれている。佐野も噂には聞いていると思うが、優秀と目される者は入社三年目くらいから地方へと行かされるんだ」

「知っています。五年から十年くらいを地方で過ごして、本社に戻る時にはポストが約束されているという話ですよね」


 私の合いの手に主任は苦笑を浮かべた。


「さすがに地方に行った全員にポストを用意は出来ないぞ。それに本社に戻れるかどうかも、決まった話ではない。現に今の大阪支社長は本社に戻ることを拒んだ人だからな」

「ええ~! 本社に戻るのを拒む人がいるんですか」

「ああ。支社長はもともと関西の人で、向こうなら実家に近いことと、家族が東京に移るのを嫌がったと聞いている。単身赴任をするくらいなら出世しないことを選んだんだ」


 ということは、大阪支社長は本来なら六代目社長になっていたかもしれない人だったのね。今の社長はまだ三十代前半だったから。ああ、もう半ばになったんだったか。

 五代目が早く社長をやめたかったのなら、現社長の前に誰かに社長を譲ればいい。それを大阪支社長に打診して断られたのだろう。


「それでだな、その対象に伊崎が選ばれたそうなんだ」

「彼が?」


 疑問形で聞いたけど、私は納得していた。彼は同期の中で一番優秀だもの。


「そうなんだ。ひと月ほど前に伊崎には予告というか、異動の打診をしたそうだ。伊崎もわかっていたようで、嬉しそうな顔をしていたと課長が言っていたな」

「一月前に打診? それって辞令の間違いではなくて?」

「うちの会社はいきなり辞令は出さないぞ。それぞれ事情もあるだろう。そういうことを考慮して、先に打診をするんだ。だいたい海外勤務もあるんだぞ。打診も無しにいきなり二週間後に行けっていうのは横暴すぎるだろう」

「確かに」


 そうか。ひと月前に予告されていたんだ。

 ……ということは私の誕生日の日の約束をした数日後ということだろう。


 えっ、待って。それって……。


 私は冷や汗が背中を伝っていく錯覚を覚えた。


「それで、伊崎からも了承の返事をもらって、昨日伊崎の異動が発表されたのだが……」

「どうかしたんですか?」


 歯切れ悪く言葉を止めた主任に私は続きを促した。


「課長が異議を申し立てているんだ。伊崎と磯貝の評価に疑問点があると」

「伊崎だけでなく磯貝さんのこともですか?」

「そうだ」


 主任は重々しく頷いた。


「それはどういうことなんですか」

「課長が言うには伊崎の功績は、組んでいる事務の女性の力が大きいのではないかと言っていた。磯貝は仕事が出来なくはないが、他の人がやった仕事を自分がやったと吹聴しているらしい」


 ……それって……。


「えーと、うちの課の事務って、ホストコンピューターに入っている仕事を、その日に誰がやることにしたのか分かるようになっていますよね」

「ああ。前に事務の女性で、急な病気で仕事を休むことになった人がいたらしいな。その人が抱えていた仕事を引き継げなくて、大変困ったことになったと聞いている。それから事務長となった人のパソコンに、共有フォルダを作って管理するようになったんだろ」

「そうです。だから、他の人の仕事を自分の仕事とするなんてできるわけがないんですよ」

「そういうがな、出来上がった書類を磯貝が営業に手渡して、お礼を言われるのを、課長が目撃したと聞いたぞ」

「……課長が見たんですね。その場面を」

「ああ、そうだ」


 ひくりと頬が引きつるように動いた。

 思った通りの事態に、私は肩が落ちそうになるのを気力で保つ。

 他のことも確認するために再度口を開いた。


「確認なんですけど、主任って創立者の関係者だったりしますか?」


 主任は(おもむろ)に表情を消して真顔になった。


「どうしてそう思うんだ」

「理由はいくつか。一つ目は、ただの主任にしては内情に詳しいということ。二つ目は主任の異動の時期のおかしさですね」

「俺の異動の時期?」

「そうです。先ほど主任は言いましたよね。普通は本社から異動して支店を回った後、本社に戻ると。支店から本社勤務になる人もいるとは聞いていますけど、大体が十年以上勤務してからだと聞いています。主任は入社してわずか二年で本社勤務になっていますよね」


 暫し沈黙する主任。私のことをジッと見つめてくるから、私も表情を消して見返した。

 どれくらい経ったのか、主任がフッと息を吐いた。

 それと共に張り詰めていた空気が緩んだのを感じたのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言]  くくくっ、この裏がドロドロしてるところがお姉様♪
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