1 最悪の誕生日
企画の時と言葉使いや文章が少し変わっています。
よろしくお願いします('◇')ゞ
秋の桜子さま作成!
「つまり、私と別れたいというのね!」
私は向かいに座る男に向かって、きつい視線を向けながら吐き捨てるように言った。男はビクッと肩を震わせたあと、ヘラリと笑った。
「そんなに怒るなよ。お前だって俺の彼女ってことで、周りに対していい思いをしてきていただろ」
「何、馬鹿なことを言ってんのよ。あなたの彼女だからって、どこにいい思いをする要素があるのよ」
「出世有望株でハンサムな俺とつき合っていたんだぞ」
真顔で返されて、私は開いた口がふさがらなくなった。
こいつはいつの間に、ナルシストの自信家になっていたのだろうか。確かにここ二年ほどは同期の中でも頭一つ抜きんでていたけど、それでもまだトップの成績というわけではない。カリスマ的な先輩がトップに君臨……もとい、立ちはだかっ……んん、ゴホン。素敵な先輩がいらっしゃるのだから。
私が呆れすぎて言葉が出てこないのをいいことに、こいつはいかに「俺はスゲー」のかを、語りだした。その自慢だけど、仕事関係については、私がフォローをしていたことを都合よく忘れているみたいだ。一々あの時の相手の反応がどうの、この時はこうして相手側に喜ばれただのと、全部私が助言やら手助けしたことを、自分の手柄のように話している。確かにそれでこいつの評価が上がり、出来るやつと思われるようになったのは確かだけどさ。
私も自分の彼氏が認められるのは嬉しかったから、何も言わずに喜んでいた。けど、改めて聞かされると、ほとんどが私のフォローによるものだと気がついた。まあ、仕事だからフォローするのは当たり前と言っちゃ当たり前なんだけど……。
だけどそのことを忘れて、すべてが自分一人でやったかのように言うこいつに、愛想がつきた。
私の心情などお構いなしに、自己陶酔感に酔ったこいつの自慢は女性にモテる話へと変わっていた。
かなりムッとしながら料理を口に運んでいたけど、あることに気がついて私の手は止まった。それは……。
さっきこいつは私とのことを「付き合っていた」と過去形で言っていた、よね。
その事実に気がついたことで、さすがにもうついて行けないと思った私は、両手に持っていたナイフとフォークを置いて、ナプキンで口元を拭った。それを軽くたたみ、テーブルの上に置きながら立ち上がった。
「リップの色を変えたことを指摘したら『すごい、気がついてくれたのね』なんて言われてさ。それからだよ、彼女からアプローチを……って、おい。まだ食事の途中だろ。どこに行く気だよ」
「これ以上、あなたにつき合っていられないから、帰るわ」
「待てって、樹里亜」
テーブルから離れようとした私の手首を掴んで引き留める、彼。それを乱暴に私は振り払った。
「忘れているようだけど、今日は私の誕生日なのよ。それなのに、あなたがプレゼントにくれたのは、他の女性とつき合うことにしたからという理由の別れ話」
そう言ったら、彼の顔は引きつり、手の力が緩んだ。私はすぐに手を引いて、再度掴まれないように、一歩離れた。周りのテーブルから視線が飛んでくるけど、そんなことに構っていられなかった。
「でも、よかったわ。そんな最低な人ということが知れて、別れることが出来るのですもの。あなたは常務の娘さんと仲良く過ごしてね。ああ、そうそう、わかっていると思うけど、最後くらいここの料金はあなたが払ってね」
そう言って、私は踵を返して店の出口へと向かった。
「ねえ、別れ話だって」
「どうやら男の方の心変わりみたいね」
「えー、信じらんない。彼女の誕生日に別れ話ってー」
「最低な奴だな」
「上司の娘に鞍替えかー。そうだとしてもこれはないわよね」
「ああ、そうだな……(くっそー、こっちは一世一代の大勝負に出ようとおもっていたのに。水差しやがってー!)」
「というかさ、ちっさい男ね。彼女のあのセリフだと、今までデートの代金を男のほうが持つことって、ほとんどなかったんじゃない」
「その浮いた分を他の女に回してたのかよ」
「もっと悪く考えれば、何やかやと理由をつけて、デート代は彼女に払わせてたのかも」
「男の風上にも置けないやつだな」
「ねえ、あの男って、他に言い寄られた自慢してなかった」
「彼女が居るのに堂々と浮気していたなんて、クズよね」
通るそばのテーブルから、ザワザワと聞こえてくる声を聞きながす。そのままレジの横を通り過ぎる。その時にチラリと店員をみれば、ニコリと笑顔で「またのご来店をお待ちしています」と言ってくれた。どうやら、彼から料金を受けとってくれるようだ。
「とても美味しかったです。最後まで食べられなくてすみませんでした」
と、謝ったら「お気になさらずに」と言ってもらえた。他の手すきの店員が扉を開けてくれたので、私はその人に「ありがとうございます」と言って、店から出た。
店員は「後のことはお任せください」と言ってくれたので、私は安心して駅へと向かって歩いて行ったのだった。




