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5:始めようか

「明日からこの周辺のチェックをしよう」

「まだお家建てないんけ?」


 焚火を囲み、夕食を摂りながらクイと話す。


「ここは位置的にもいいと思うよ。けど実は草原モンスターの縄張りだったとか、肉食獣の縄張りだったとかだと、あとあと面倒だろ?」

「悪いモンスター、オレやっつけるぞ任せとけ!」


 そう言ってクイはバンザイポーズで立ち上がる。

 いや、自分のランクを把握しような?

 君は10ランクある中で、一番下のHランクだからね?


「ラル兄ぃのバフ、オレ強くなる!」

「いやクイ……前にも教えただろ? 俺、もうバッファーじゃないんだ」


 長い首を傾げる姿は、ちょっと可愛い。

 体に対して小さな頭を撫でてやると、クイはぽすんっと座ってこちらをじっと見つめた。


「四天王のひとり、呪詛師デロリアに呪いを掛けられたって」

「……治せないんけ?」

「マリアンナにも解除できなかったんだ」

「じゃーダメだ」


 他人事だと思ってあっさり言うな。

 分かってるよ、ダメだってことは。


「ラル兄ぃ、どんな呪い?」

「魔法の効果が反転する呪い。お前、祝賀祭の時に話しただろう」

「オレ、美味しいものいっぱい食べるのに忙しかった!」


 要は聞いていないってことか。

 呑気な奴で羨ましいよ。


「つまりな、肉体強化の魔法を使えば、肉体弱体化効果になる。速度上昇を掛ければ、鈍化になるって具合にね」

「え、オレよわよわになるの?」

「そういうこと。だからもうお前を強化してやれないんだ。ごめんな」

「ラル兄ぃ……いいよ。オレ、頑張ってラル兄ぃの魔法なくても戦えるようになるけん」


 こいつ……たまにこう、健気なこと言うんだよ。


 クイは本来、体長2メートルほどに成長するアグイというモンスター。

 けどクイはこれ以上大きくならない。

 ランクの低いモンスターは、だいたい五年で体が成長しきってしまう。


 クイをテイムしたのは六年前。勇者パーティーに入るよりも前だ。

 その時から、クイの大きさは変わらない。


 小さいクイは仲間から見捨てられ、他のモンスターに襲われているところを俺が見つけてテイムしたんだ。

 何故小さいのかは分からない。

 

 けど、こいつは小さくても必死に俺を守ろうとしてくれる。

 だから俺もこいつにいつもバフっていた。


 もう、クイを支援してやることも出来ないのか、俺は。


「そうだな。一緒に強くなろう。俺も攻撃魔法の火力を上げる努力をしないとなぁ」

「あのゴミ魔法をけ?」

「ゴミ言うな。まぁ攻撃魔法はさ、属性効果が反転するようになってたんだ。けど攻撃魔法であることに変わりはないからね」


 反転する属性を把握さえしておけば、そう困ることもない。

 自分やクイをバフって強化できないなら、バフ以外の手段で強化すればいい。


 いや、俺は何かを忘れている気がする。


「ラル兄ぃ」

「ん、ちょっと待ってくれなクイ。なーんか忘れてる気がするんだよ」

「ラル兄ぃ。魔法で弱体化するバフなら、それを悪いモンスターに掛ければ激弱になるんか?」


 そ

 れ

 だ

 !


「そうだよクイ! 俺の魔法がデバフになったのなら、それを悪いモンスター相手に使えばいいんだよ!」


 向こうを弱体化させれば、俺やクイが殴ってもなんとかなる!


 か、かもしれない?






 翌朝。朝食を終えてから、クイと散策に出た。

 ついでに水汲みもしておく。

 更についでに、川の周辺に集まる獣やモンスターに、どんな種類がいるのかもチェックだ。


「クイ、見えるか?」

「見えるで~」


 クイを肩車してやり、深い茂みからこっそりその頭を出してやる。

 彼には鑑定魔法を覚えさせた。まぁ教えたのは俺じゃなく、リリアンだけど。


 クイの視力は人間の何倍もある。偵察役にはうってつけだ。


「あっちに──ブラックキックバード五個~」

「五羽、もしくは五頭な」

「その向こうに草原ボアの家族ぅ~」

「はい、食肉確定!」


 ブラックキックバードの見た目は、世界最大の飛べない鳥をもう少し大きくした感じだ。

 その肉はとても硬く、食べられたものじゃない。

 対して草原ボアは肉としての旨味ももちろん、肉も柔らかく、食用として重宝されている。

 ただし臭みがあるので、下処理がとても大事だ。


 他にも草原ウルフや、動物の狼、野兎に野ネズミ、そのモンスターバージョンもちらほら見かける。

 

「一番強そうなのはEランクのブラックキックバードか」

「オレがやっつけるで!」


 やっつけられるのは君だからやめておこうね。


 けど試しておかなければならない。

 とりあえず──


「クイ、あれを倒すぞ」

「任せろ! あれ──……キックラビ?」


 キックラビ──キック力に優れた兎。ランクはクイより一つ上のGランクだ。

 クイは不満そうだけど、俺たちの基礎身体能力で言うと、こいつでもまともに蹴られたら痛いじゃ済まないんだよ!


「文句言わずに、やるぞ。まずは俺がキックラビにバフるから、そしたらお前は爪で切り裂くんだ」

「オレにはバフくれないんけ?」

「だから俺のバフは、今やデバフになってるんだって」

「あ、そっか。じゃあオレ待ってるぅ~」


 よ、よし。

 あの時と違って勇者アレスもここにはいない。

 俺とクイだけで、どこまでやれるか……さぁ、始めようか。


 

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