43話
「ではでは、参りましょうか」
「えぇ、お願いします」
ギョッズさんも空間収納鞄を持っていた。素材を彼の鞄に移して、これからマリンローへと向かう。
俺とオグマさんも一緒にだ。
オグマさんがマリンローを見てみたいというのと、俺ひとりでは帰りが大変だから。
マリンローに到着したら、船を譲って貰う。もちろんこれも取引のうちだ。
これからは素材を自分たちでマリンローに運ぼうと思って。
そうすればついでに買い物もできるからな。
ウーロウさんとギョッズさんは小舟でここまで来たようだ。
船には他に二人の魚人族がいて、ギョッズさんの下で働いている船乗りらしい。
「あ、スレイプニールの鱗をくっつけるんで、速度上がりますよ」
と、取り出した鱗を船にぺたりとくっつけた。
「おおぉぉ!?」
船の速度が加速する。
これから下流に向かうので、流れに逆らう訳じゃないがそれでも早い。
「ス、スレイプニールの鱗!?」
「えぇ、貰ったんです。あれ? お聞きになっていなかったんですか? スレイプニールのこと」
「いえいえ、聞いております! テイマーに操られて、それで……しかし鱗を貰っていたのは聞いておりません! ウーロウさん、だ、誰か魚人族で鱗は?」
興奮気味のギョッズさんに言い寄られ、ウーロウさんは鬱陶しそうな顔をしている。
嫌ぁな顔をしながら首を左右に振り、それから彼を押しのけた。
すると今度はこちらにギョッズさんが来る。
「ラルさま!」
「売りません」
「そんなぁぁーっ」
やっぱりか。
売る訳ないだろう。スレイプニールから頂いたものだよ?
そんなの売ったら、それこそスレイプニールの怒りを買ってしまう。
「はぁ……まぁちょっと言ってみただけなので! 気にしません!」
「……そうですか」
切り替えの早い人だな。
あっという間にマリンローまで到着をし、交換として貰う武器と小舟をもらう。
「オグマさん、少し時間いいですかね? 町長に挨拶をしてきたいんで」
「分かった。俺は少し買い物をしてきてもいいだろうか?」
「じゃあ一時間後にまたここで」
復興中のマリンローだが、港町は活気に溢れていた。
俺のことを覚えている人たちが手を振ってくれる。
以前はこの町に人間族も住んでいたが、今では誰もいないみたいだな。
町長さんの家はまだ修繕できていないようだった。
町の人に聞くと、自分の家は後回しでいいと、宿の一室で夫婦共に暮らしているそうだ。
その宿を尋ねると──
「勇者様! 酷いじゃありませんか!! いつうちに泊まってくれるんですっ」
「あ、いや、その……」
すっかり忘れていた。
毎日家造りで忙しく、それどころじゃなかったものなぁ。
「今日こそはお泊りいただけるんですよね!」
「いや、今日は……その」
今日中に帰るって言って出てきたんだ。帰らない訳にはいかない。
転移リングを使えばすぐだけど、そうなると船が……。
あ、空間収納袋に入れればいいか。
どうせならみんなも呼ぶか。
「こ、今夜は泊まらせていただきます。でもその前に同行者に知らせてこないと。ね? ね?」
「本当でしょうね! 嘘じゃないでしょうね!」
「本当っ、本当だから。じゃー」
町長さんに挨拶するはずだったのに、挨拶しないで戻ってしまった。
で、オグマさんを探して事情を話し、船を収納してから俺だけでいったんキャンプへ転移。
「──て訳で」
「そう言えば、宿屋のおじさんたち、ラルに泊ってくれって必死だったわね」
「なんで? なんでラルを泊めたいんだ?」
まぁなんとなく予想がつく。王都の宿屋でもそうだったから。
町を救った勇者が泊まった宿──という看板を掲げるためだ。
まぁ宿としての箔が付くってことだろう。
身重のラナさんを慎重に船に乗せ、それからマリンローを目指した。
「まぁ、風が気持ちいい」
「姉さん寒くない? 大丈夫?」
「えぇ、大丈夫よ。最近はずっと家の中だったし、気持ちいいわ」
出産前にリラックス出来てよかったかもしれない。
その夜はマリンローの宿でのんびり寛ぐことが出来た。
宿には風呂もあって、しかも広くて気持ちよかった。更にはサウナなんてものもあったし。
やっぱり大きな風呂はいいよなぁ。
今の家が完成したら、ダンダさんに相談してみよう。




