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25:対策

 マリンローに向かうのは、俺とティー、アーゼさんとリキュリアの四人だ。

 オグマさんとシーさんも行くと言ったが、そうなると誰が身重のラナさんを守るのかって話だ。

 一瞬、レイに救援を要請できればと思ったが……王国も人手が足りない状態のようだしマリンローは王国所属ではない。独立地帯──となっているけれど、王国とマリンローとの間には別の国があった。

 下手に王国軍が出て行けば、そちらと戦争にもなりかねない。


 よって、この四人でマリンローを救う。


「ラル、本当にあたしたちだけでいいの?」

「うん。問題ないよ。むしろ人数が多い方が面倒になりそうだから」


 マリンローに向かうのに徒歩だと何日もかかってしまう。

 ウーロウさんの話だと、船で川を下るならここから丸一日程度だという。流れに逆らって上るならその倍はいるだろうけどとのことだ。

 歩くよりは断然早いな。


 船はない。だけど木材はたくさんある。

 木材を組んで筏を作り、あとはこの筏を──


「ウーロウさん、本当に大丈夫なんですか?」

「もちろんです! あなた方にだけ危険な町にいかせて、自分はここで休んでいるなんてできませんっ。それに一日でも早く戻らねば……自分は、古郷と運命を共にします」


 と、悲痛な面持ちでそう話す。

 いや……なんか負けるためにいくような、そんな雰囲気なんだけど。


 おれはちゃんと勝算があってマリンローに行くつもりなんだけどなぁ。


 その日の晩はゆっくり休み、出発は翌早朝。


 ウーロウさんが筏を引き、俺たちもオールで漕いでスピードを速めた。


「この辺りの魚に、船を引くのを頼んでみます」

「魚人族の能力ですか」


 俺の言葉にウーロウさんが頷く。

 魚人族は魚に簡単な作業を手伝って貰うことができる。ただ本当に簡単な内容限定だ。

 魚に難しいことを言っても理解できないし、絶対に頼めるわけでもない。

 そこは魚の気分次第だ。


 だけどどうやらお願いは聞いて貰えたようだ。

 筏の周りに大きめの魚が集まって来て、進むスピードが少しだけ早くなった。


「効果はあまりないかもしれないが……デバフっておこうか」

「デ、デバフ!? とんでもないっ、そんなことされたら魚たちが──」

「"不可視なる枷で、かの者を縛れ──スロウ・モーション"」


 それから弱体化のデバフもオマケっと。


「心配しなくていいぞ。ラルのデバフはバフなのだから」

「デ、デバフがバフ??」


 うん、まぁそうなるよね。

 初めて会う人にはそのたびに説明しなきゃならないようだ。なかなか面倒くさい副産物を残してくれやがって、あの呪術師め。

 ウーロウさんには、魔王四天王のひとりに呪いをかけられ、魔法効果が反転するようになったんだと説明。

 首を捻られたが、アーゼさんたちもフォローしてくれたので納得してくれたようだ。

 その時、俺が勇者パーティーの元バッファーだというのも伝えられたので、ウーロウさんの態度が一変した。


「ま、魔王を倒したという勇者パーティーの方だったのですか!? ほ、本当に!?!?」

「え、えぇまぁ……。でもほら、この呪いですから……最後の最後には何の役にも立たなかったんですよ」


 魔王をバフっただけで、首を刎ねたのはアレスだ。

 

 だけど今回、そのバフをバフバフしまくるつもりだ。


「みんなには俺の後ろにいて欲しいんです」

「後ろか?」

「えぇ。バフやデバフは、付与する対象を目視する必要がありまして。俺の後ろにいて貰えればそれだけでバフは掛かりません」


 だけど日常生活を送る上で、常に俺の後ろに……なんてのは無理だ。

 今回、ちょっとだけクイに活躍して貰って、町の中に潜入するつもりでいる。

 潜入したらなりふり構わずスピードアップバフをしまくって、動きが遅くなったところを仕留める作戦だ。

 対象が敵か味方かの判断はウーロウさんにして貰う。


「頑張れば一度に百人ぐらいはバフれるので」

「ひゃっ、ひゃく!? さ、流石勇者パーティーのバッファーだ」

「はは……あとはスレイプニールだけど──」


 問題はテイマーがどんな奴なのかだ。

 スレイプニールなんて魔獣をテイムするぐらいだ。生半可な魔力の持ち主じゃないだろうな。


「へっ。スレイプールだろうがなんだろうが、ラル兄ぃがテイムしちゃえばいいんや!」

「スレイプニールだよクイ。それにテイムするには、元のテイマーの魔力より遥かに勝っていなければならないんだ。そのうえ、俺がお前をテイム出来たのが奇跡なぐらい、テイマーの才能もないんだからさ」

「オレ、奇跡の従魔! オレ凄い!?」


 いや、たぶんこんな俺でもテイムできちゃったんだから、どんくさいんだと思う。

 スレイプニールがクイと同等というのは、天地がひっくり返ってもあり得ない。

 モンスターではないが、モンスターに換算すればランクはA。それも限りなくSに近いAだ。


 それでも俺には自信をもって勝算があると言える。


 スレイプニールは半分が精霊として知られている。

 俺は精霊魔法も使えるが、ここでは魔法を使う必要はない。対話が可能ならそれでいい。

 この対話自体が精霊魔法を習得していないと出来ないことで、また誰かと契約している精霊が相手だと、元の契約者より高い魔力が必要になる。


「つまり、そのテイマーを俺がバフって魔力を極端に下げるんだ」

「……その間にスレイプニールと対話するってことが。なるほど」

「だけどそれでスレイプニールとの対話が可能になるの?」

「俺は精霊魔法も使えるから、その点は大丈夫だ」


 対話に対して抵抗を試みるなら、スレイプニールもバフる。

 あとは……。


「そのテイマーの実力次第だな。バフってすら俺の魔力を超えるような、賢者級だと難しいかもしれない。だけどその時にはテイマー自身に……死んで貰うしかない」

「その時は俺たちに任せろ」

「ラルなら魔法も封じれるんでしょ?」

「完全に封じるというより、魔法を無力化する感じかな。魔法の威力を上げるバフがあるから、それを使えば──」


 魔法の威力が下がる。

 詠唱を早くするバフもいい。魔力を上げたり、一度だけ魔法の威力を二倍にするのもいいだろうな。


 ふふ、ふふふふふ。


「ラ、ラル……顔がにやけてる」

「ふふ、ふふふふ。久しぶりに思いっきりバフれるぞぉぉぉぉー!」


 バッファーとして、これほど嬉しいことはない!



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