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地平線  作者: 幻中 六花
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挑戦を辞める

 私は、追ってばかりいるこの恋に終止符を打ちたいと考えるようになった。

 別にみんなみたいに認知してほしいとか、特別扱いされたいとかいう気持ちはないけれど、このまま何もせずにただ相手を想って終わるのだったら、気持ちだけでも伝えられたら、相手にとっては大勢いるファンの中の1人であっても、私は楽になれる。そう思った。


「初めてだけど、ファンレターでも書いてみよう」


 私の選んだ方法は実に王道だった。

 ファンレターなんて、毎日何十通と貰っていると思うから、本当に私の手紙に目を通してもらえるかもわからない。

 でも、私は胸の内にしまってある想いが溢れて吐いてしまいそうだったから、自分を楽にさせるためにファンレターを書いた。1人の女のわがままである。


 ──藍沢凌選手へ


 ……。

 …………。

 相手の名前は書けたが、そこから先がまるで進まない。小学生の作文のように進まない。


 ──いつも活躍を配信で観てます。


 ……。

 …………。

「これじゃあどうしてチケット買って観に来ないんだよって思われちゃうかも……」


 顔の見えない相手に文字で想いを伝えるのは難しい。

 いや、私は顔を知っているけど、相手が私の顔を知らないバージョンはもっと難しいかもしれない。

 みんなみたいにプリクラを入れたりするのも、ちょっと違う。


 そういえばみんなはどうして認知してほしいのだろう。自分が楽になるため以外に、好きだと伝える意味はあるのだろうか。


 気を取り直して、私はもう一度レターセットに向き合った。


 ──藍沢凌選手へ。


 いつも活躍を配信で観ています。

 今日は初めて、私の気持ちを手紙という『物質』に(したた)めました。

 どこの誰だよ、と思うかもしれませんね。


 私は関東圏に住んでいるので、近くでもたくさん試合をやっているのは知っているのですが、最近の試合はチケットの争奪戦が激しく、サイトに繋がったらすでにいい席は売り切れていたりして、次第に買うことへの挑戦も辞めてしまいました。


 『挑戦を辞める』だなんて、藍沢選手が1番嫌いな言葉ですよね(笑)すみません。

 けれど、今の時代は配信で試合を観ることができます。それって、チケットは要らないし、観ている人は全員最前列ということになりますよね。

 私はそのシステムに惚れ込んでしまい、配信で観るようになりました。


 藍沢選手はチームの中でもスタメンに選ばれることが多く、カメラでもよく抜かれているので、本当に現地で観ている気分になります。

 この間の静岡での試合では、途中から右手の薬指を気にしていたのが気になりました。大丈夫でしょうか? 大きな怪我ではないことを祈っています。



 そんな、読む側からするとちょっと引くくらい、「細かいところまで観てるぞ」を全面に出した文章を、便箋3枚に詰め込んで封筒に入れ、人生で初めてファンレターというものを出した。

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