表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/76

交流戦のポスター

「今年の交流戦、そのポスターが完成しました」


 司会者の声とともに、壇上のホワイトボードを覆っていた幕が、さっと取り外された。


「『かっこいいポスター』です」


 横に六つ並んだホワイトボード、そこには複数のポスターが貼ってあった。


 プロ野球では毎年、別リーグの六球団と対戦する「交流戦」を行っている。


 その試合を宣伝するポスターが、この球団でも完成したのだ。


 会見に集まった記者たちに、多少のざわつきが生まれる。


 ポスターにはそれぞれ、交流戦で戦う各球団の主力選手が、大きく描かれていた。一枚につき、一人ずつだ。各球団ごとに、三人の主力選手が選ばれているので、全部で十八枚ある。


 描かれている選手たちはいずれも、戦国武者のような装いをしている。そのまま少年マンガの表紙を飾れそうな、かっこいいデザインになっていた。


「マンガ家の先生に描いていただきました」


 司会者が告げたのは、二十年以上も第一線で活躍している、少年マンガ家の名前だった。


 記者たちの多くから、感嘆の声が漏れた。そんな大物なら、この出来映えも納得だ。


 しかし、これらのポスターには、首を傾げたくなる点もある。


 まず、ポスターの作り手である球団が、全然目立っていないのだ。球団のロゴが、隅っこに小さく載っている程度。相手球団が作ったポスターだと言われても、信じてしまいそうだ。


 また、各球団とは三試合ずつ戦うので、どのポスターにも「三日間の日程を載せる」のが普通なのに、それぞれのポスターには「一日分の日付」しか載っていない。


 これでは、一枚のポスターにつき、たった一日、その日の試合の宣伝にしかならないのでは?


 しかも、交流戦の期間中に、本拠地で開催するのは、十八試合の半分だ。つまりは三球団分。


 だから、残りの三球団の分、相手の本拠地で戦う試合までは、わざわざ作る必要がない。


 けれども、ここには六球団分のポスターが存在している。担当者のうっかりミスだろうか?


 そういった気になる点はあるものの、『かっこいいポスター』なのは、たしかだった。


 自球団のファンよりも、対戦する相手球団のファンが喜びそうだが、もしかしたら、それを狙っているのかもしれない。


 リーグが異なれば、二球団をかけ持ちするファンになってくれるかも、そんなことを期待していたりして・・・・・・。






 交流戦が始まった。


 その一戦目、『かっこいいポスター』を作った球団が、接戦を制して勝利した。幸先の良い出だしである。


 翌日、またもや記者会見が開かれた。


 今回も壇上のホワイトボードには、十八枚の『かっこいいポスター』が貼ってある。


「前回、言い忘れたことがありまして」


 そう告げると司会者は、右端のポスターを剥がした。昨日の日付が載ったポスターだった。


 そして続ける。


「私どもの球団が勝った試合におきましては、このようにポスターの貼り替えを行います」


 それを聞いて、記者たちは気づいた。だから、各ポスターには、一日分の日付しか載っていなかったのか。これなら、一試合ごとに、貼り替えの可能性が生まれる。


 さっそく、新たなポスターが披露される。


「『かわいいポスター』です」


 描かれている選手こそ同じだが、二頭身になっており、布団に入って、すやすや眠っているイラストだ。


 ポスターのデザインを手がけたのは、人気のイラストレーターだという。かわいい癒しキャラを、数多く生み出している人物だった。


 この趣向に、記者たちはメモをしながら考える。


 これで、『かっこいいポスター』は残り十七枚になった。はたして、その内の何枚が、『かわいいポスター』に貼り替えられることになるのか。


 今年の交流戦、新たな楽しみができたかもしれない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ