交流戦のポスター
「今年の交流戦、そのポスターが完成しました」
司会者の声とともに、壇上のホワイトボードを覆っていた幕が、さっと取り外された。
「『かっこいいポスター』です」
横に六つ並んだホワイトボード、そこには複数のポスターが貼ってあった。
プロ野球では毎年、別リーグの六球団と対戦する「交流戦」を行っている。
その試合を宣伝するポスターが、この球団でも完成したのだ。
会見に集まった記者たちに、多少のざわつきが生まれる。
ポスターにはそれぞれ、交流戦で戦う各球団の主力選手が、大きく描かれていた。一枚につき、一人ずつだ。各球団ごとに、三人の主力選手が選ばれているので、全部で十八枚ある。
描かれている選手たちはいずれも、戦国武者のような装いをしている。そのまま少年マンガの表紙を飾れそうな、かっこいいデザインになっていた。
「マンガ家の先生に描いていただきました」
司会者が告げたのは、二十年以上も第一線で活躍している、少年マンガ家の名前だった。
記者たちの多くから、感嘆の声が漏れた。そんな大物なら、この出来映えも納得だ。
しかし、これらのポスターには、首を傾げたくなる点もある。
まず、ポスターの作り手である球団が、全然目立っていないのだ。球団のロゴが、隅っこに小さく載っている程度。相手球団が作ったポスターだと言われても、信じてしまいそうだ。
また、各球団とは三試合ずつ戦うので、どのポスターにも「三日間の日程を載せる」のが普通なのに、それぞれのポスターには「一日分の日付」しか載っていない。
これでは、一枚のポスターにつき、たった一日、その日の試合の宣伝にしかならないのでは?
しかも、交流戦の期間中に、本拠地で開催するのは、十八試合の半分だ。つまりは三球団分。
だから、残りの三球団の分、相手の本拠地で戦う試合までは、わざわざ作る必要がない。
けれども、ここには六球団分のポスターが存在している。担当者のうっかりミスだろうか?
そういった気になる点はあるものの、『かっこいいポスター』なのは、たしかだった。
自球団のファンよりも、対戦する相手球団のファンが喜びそうだが、もしかしたら、それを狙っているのかもしれない。
リーグが異なれば、二球団をかけ持ちするファンになってくれるかも、そんなことを期待していたりして・・・・・・。
交流戦が始まった。
その一戦目、『かっこいいポスター』を作った球団が、接戦を制して勝利した。幸先の良い出だしである。
翌日、またもや記者会見が開かれた。
今回も壇上のホワイトボードには、十八枚の『かっこいいポスター』が貼ってある。
「前回、言い忘れたことがありまして」
そう告げると司会者は、右端のポスターを剥がした。昨日の日付が載ったポスターだった。
そして続ける。
「私どもの球団が勝った試合におきましては、このようにポスターの貼り替えを行います」
それを聞いて、記者たちは気づいた。だから、各ポスターには、一日分の日付しか載っていなかったのか。これなら、一試合ごとに、貼り替えの可能性が生まれる。
さっそく、新たなポスターが披露される。
「『かわいいポスター』です」
描かれている選手こそ同じだが、二頭身になっており、布団に入って、すやすや眠っているイラストだ。
ポスターのデザインを手がけたのは、人気のイラストレーターだという。かわいい癒しキャラを、数多く生み出している人物だった。
この趣向に、記者たちはメモをしながら考える。
これで、『かっこいいポスター』は残り十七枚になった。はたして、その内の何枚が、『かわいいポスター』に貼り替えられることになるのか。
今年の交流戦、新たな楽しみができたかもしれない。