糖分、足りていますか?
日本プロ野球中央運営団体、そこの商品企画部が、ホテルで記者会見を行っていた。
「このたび、新しい商品を開発しました。クリスマスのケーキです」
企画部部長が声高に宣言すると、かまくら型のケーキが運ばれてくる。野球のボールを半分にした、そんな外見をしていた。
彼の説明によると、このケーキの大きさは、直径15センチメートル、高さ6センチメートル。半球の表面をホイップクリームが覆っていて、縫い目の赤い部分はいちごソースなんだとか。
登場したケーキを見ながら、記者たちはヒソヒソ声で話し合う。
新しい商品とか言っているけれど、他の店の子供向けケーキで、こういう感じのやつ、なかったっけ。
まさか、これをお披露目するためだけに、わざわざ記者会見を開いたのか?
あまりに簡素なデザインすぎて、冗談なのかと疑ってしまう。このケーキは前座で、しっかり酷評させてから、真打ちを登場させる演出とか?
ここで企画部部長が、共同開発者の名前を挙げた。
「ご存じでしょう。有名な女性パティシエです」
記者たちは、「ああ」とうなずく。
大の野球好きで、「自分の店にいる時間よりも、球場にいる時間の方が長い」と、野球界で評判の人物だ。
まずいプレーをした選手に対する、「へいへいへいへい、糖分が足りていないよー!」という彼女の野次は有名で、最近ではまねをするファンまで現れている。
なお、あの女性パティシエ、ケーキづくりの腕は普通だ。決してまずくはないが、ものすごく美味しいわけでもない。
ただ、野球界での知名度を考えれば、クリスマスケーキづくりの人選としては、大きく外していないのかも・・・・・・。
ところが、このケーキの値段を聞いて、記者たちはビックリした。
彼らの中には、自分の家族用に、他店でクリスマスケーキを予約している者もいる。その経験から、「このくらいのケーキなら、相場はこの辺」というのが、少しはわかるのだが・・・・・・。
「かなり強気の値段設定ですね」
記者の一人が言うと、
「安心してください。付属品がありますから。ただ・・・・・・」
企画部部長の顔が急に曇る。
直後に会場に運ばれてきたのは、何のへんてつもない白いローソクだった。
記者たちは絶句する。まさか、これが付属品。客をなめているとしか思えない。
「実はですね、バット型のローソクを用意していたのですが」
そのサンプルが運ばれてくる。たしかに、バットの形だ。太くなっている方から、ローソクの芯がはみ出している。
さらに、お皿に入った木綿豆腐も運ばれてきた。
バット型のローソクに火を点ける企画部部長。そして、えいと豆腐に突き刺した。
が、すぐに倒れてしまう。
「えー、ケーキの方に刺しても、今のと同じことが起こります」
ローソクの形状的に、バランスが悪すぎるのだ。重心の位置が高すぎる。
「そういうわけで、バット型のローソクは没になりまして。今からだと、新たにデザインし直すのも難しく・・・・・・」
その先は言葉を濁す企画部部長。
もっと早く気づいておけよ、と記者たちは思った。「へいへいへいへい、糖分が足りていないよー!」というフレーズが口から出かかったものの、どうにか喉の奥へと押し戻した。
地味なケーキに、普通のローソク。このクオリティーで、ゴージャスなお値段。さすがに売れないだろう。大幅な赤字になるだけでは・・・・・・。
そこで記者の一人が質問する。
ただし、企画部部長にではなく、他の記者たちに向かってだ。
「このケーキを、この値段で買いたいと思う人、どのくらいいますか?」
誰も手を挙げなかった。迷っている素振りの者すらいない。
これには、顔をひきつらせる企画部部長。
「本日ご参加されている記者の方々は、人前で手を挙げるのが苦手な、恥ずかしがり屋さんが多いみたいですね」
このケーキが売れない、そんな事実を認めたくないらしい。
「それに、付属品はまだあります。とっておきのやつです」
しかし、記者たちの視線は冷ややかだった。
ここで企画部部長が勢い良く取り出したのは、
「リーグ優勝のチャンピオンフラッグです!」
ミニサイズのチャンピオンフラッグを、ケーキの上に突き刺した。
記者たちがざわつく。このチャンピオンフラッグ、大きさの割に、ものすごいクオリティーだ。
「そちらのフラッグ、実物をそのまま再現しているんですか?」
「もちろんです! この部分にお金をかけましたからね」
企画部部長の声は、元気を取り戻していた。
「よそでは絶対にまねできません! しかも、このケーキを一つ買うと、チャンピオンフラッグが二つついてきます! 両リーグの分です! 十二球団どこのファンでも、これなら安心!」
そう言って、もう片方のリーグのチャンピオンフラッグも、ケーキの上に追加した。
「さらにさらに、今ならなんと!」
企画部部長は本日一番の大声になると、
「ご予約先着一万名様に限り、日本一のチャンピオンフラッグもついてきます! これで、あなたも日本一!」




