パフォーマンス
他人が見たら、ふざけていると思うかもしれない。
しかし、男は本気だった。
ちゃぶ台に向かって、今日も「作業」を開始する。
プロ野球の試合中、ホームランを打つとパフォーマンスをする、そんな選手たちがいるのをご存じだろうか。
ベースを一周してきたあとで、ベンチに戻り、そこでパフォーマンスを行うのだ。その内容は、選手によって違う。
ああいうパフォーマンスについて、男の望みは一つだけだ。
今やっているのは、どれも大人しすぎる。もっと派手にしてもらいたい。
とはいえ、相手チームのファンに対する配慮も必要だから、やりすぎは良くないと思う。
しかし、男にとっては切実だった。もっと長いパフォーマンスを・・・・・・。
男は「作業」を続ける。ちゃぶ台の上には、国語のノートが何冊もあった。
これらのノートは、近所の小学生数人から、借りてきたものだ。一日あたり一冊「五百円」で、快く貸してくれた。
もちろん、それぞれの親御さんの了解も得ている。こちらの切実な事情を訴えると、苦笑しながらではあったものの、どうにか納得してくれた。
ちゃぶ台の上には、国語のノートの他に、大量のハガキも積み上げられている。
男は新しいハガキを取ると、それまで開いていたノートを閉じ、別の子のノートを開いた。
この作業をするようになって、二週間が経つ。子どもが書く文字をまねするのにも、だいぶ慣れてきた。
――ぼくは、もっとながい、ぱふーまんすを、みたいです。
男はプロ野球の審判だ。
試合中は神経を張り詰めている。試合が終わるまでは何時間も、集中力を維持しなければならない。
非常に過酷な仕事だ。
が、試合中にも存在する。
わずかではあるものの、気を抜くことのできる時間が。
そう。選手がホームランを打ったあとで、パフォーマンスをしている時間だ。
あれこそ、砂漠の中のオアシス。
だから、もっと長々とやって欲しい。
男は真剣な顔で、ハガキに文字を書き続ける。
――こんど、ほーむらんをうったら、ぼくのかんがえた、ぱふーまんすを、してください。
二週間前から、ちびっこファンを装って、プロ野球の各球団に、ハガキを送り続けている。うまくいけば、試合で実際に、選手がやってくれるかも。
――このぱふーまんすは、ながくて、かっこいいやつです。ぜったいに、やってください。おねがいします。