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ノーマスク  作者: 森 春樹
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プロローグ

 ――――人が声を失ったのは、神罰である。

 ――――この世界で声を発することを許されたもの、それこそ神から許された存在。

 ――――歌とは、この恩恵を神に感謝し還す神聖なる儀式。

 ――――我らはこれを尊び、奉る。

 ――――故に、これを冒すものを罰さねばならない。

 この世界で人が声を失いつつある時、誰かが言った。

「神罰? 馬鹿げたことを、そんな非科学的なことなどあるものか」

 誰もがそう思った。

 神罰など、教科書や小説でしか目にしないファンタジーである。

 だが、化学がその神罰を解明できなかったのだ。

 不安と静寂は、ウイルスとなって世界中に蔓延した。

 人の手に余る災厄が起こる時代に、宗教というものが流行るのはもはやカビの生えた習慣だが

 化学は救世主となり得なかった。

 奇跡はいまだ本の中で眠っている。

 神に縋るものが出たとて、誰がそれを責められるだろうか。

 人は、理解できないものをそのままに受け入れられない生き物なのだ。

 原因不明の病を神罰と定義付け、特別を崇め、異端を排除することで、やっと彼らはそれを受け入れる。

 彼らは異端者を狩る為の十二教会を組織し、神の使いとなった。 






 ――――さて、世界がこのように改変した時代だが

 人が神に祈るだけの時代が続いていたら、世界での医療や化学の発達はなかっただろう。

 もちろん今回も、現代のパラケルスス達は進化を追求した。

 彼らにとって魔法は手品だし、ゴーストは目の錯覚なのだ。

 頭でっかちのベジタリアンは、死ぬまで肉は食べないらしい。

 彼らは長い時をかけて現人神もどきを研究し、各地にシェルターの街を作りあげた。

 そこで生まれ育ったものは、誰だって特別ではなかった。

 街はいつも巧妙な言葉遊びのコメディ、迫真の台詞回しの舞台、精巧に磨かれた歌声で溢れていた。

 つまるところ、神罰とは大気毒による病だったのだ。

 

 だがここで、人類は錬金術師たちが越えられなかった壁に直面することとなった。

 世紀の天才でも、構成がわかったところで人間は作れない。

 全人類を守るオゾン層など作れるはずがなかったのだ。

 歴史は回帰する。

 人々は、シェルターに入れるもの、入れないものとで分けられる。

 あるいは裕福であったり、あるいは権力者、または有力者と縁のあるものがそうである。

 世界各国ははシェルター街と周りを囲む外周街(ドーナツ)で成るいくつかの大都市で分けられることとなる。

 

 音で溢れるシェルターに神は存在しない。

 化学者たちの権威であるシェルターは、外周街(ドーナツ)に点在する教会への抑止力ともなった。


 シェルターは、襲い来る静寂の恐怖から人々を守り、彼らに声を取り戻させた。

 だが、世界は平等ではないものだ。

 ここで最も顕著に貴賎の差が出たのが音の文化だった。

 声も出せない、出せたとしても音楽という娯楽は教会の脅威にさらされる。

 音を楽しむことが出来るのは、シェルター内に住む者の特権となったのだ。

 失声は防ぐことは出来るが、未だ不治の病である。

 

 だが、不自由の地でこそ科学は発達してきた。

 外周街,(ドーナツ)代替発声器マスクが流通するようになったのだ。

 マスクはシェルターができる前、科学者たちが即席で作ったコミュニケーションツールである。

 すでにシェルターでは使われていない過去の発明であるが、外周街(ドーナツ)では未だ現役活躍中だ。

 むしろより改良を重ねられたことにより、より人の声に近い、発明者も驚きの進化を遂げたと言えるだろう。

 これにより、失声者も多少不自由はあれど会話でのコミュニケーション自体は取れるようになった。

 そんな中大気毒に侵されず、マスクを必要としない者たちを羨望を込めてか『ノーマスク』と呼んだ。





 ――――これは、スラム街で音楽を愛した彼女たちの物語







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