出会いの物語
伝説とか、神話とか、昔話とか、なぜ存在するのかを考えたことはあるだろうか。実際に見たわけでもないし、見た人を知っているわけでもない。今よりもはるか昔のフィクションにすら思える。もしもフィクションなのだとしたら、こんなにも長く、こんなにも多くの人たちに知られているということは、作者はとても光栄だろう。でも、この意見には証拠は一切ない。これは僕の妄想でしかないわけだから、当たり前と言ってしまえばそれまでのものだ。妄想ついでにもうひとつ。それらが語り継がれた実話だとしたら、それは胸が熱くなる話だと思わないかい?なにせ今の世の中退屈極まりない。このくらいの妄想はあってしかるべきだとおもうだろう?答えのない問に答えを付けることは面白いものだよ。ふむふむ、僕の考えた答えかい?残念だけどそいつは言えないかな。この問いに関しては、僕は答えを知っているからね。だけど一つだけ。始まりはあっという間で、気が付けば渦中にいるなんてことはたいしめずらしくもなんともない。過去にも未来にも、今にだって確かなものは、必ずしも存在するわけじゃない。
頭が重い。体がだるい。熱・・・はないっぽい。
変な夢のせいかどうかはわからない。
確かなことは、夢のせいで朝から嫌な気分であること。
「なんだってんだよ、ついに夢にまで変な宗教まがいがでてきたか。」
父親は、8年前に女の人に誘われるがままに「真理の輪」とかいう宗教に堕ちた。
父の変化にいち早く気が付いたのは俺だった。
昔から、目を凝らすと人とか動物とかが纏っている雰囲気とかオーラみたいなものが見えた。
何年も見続けるうちに、だいたいの感情の色がわかるようになった。
母は勘のいい人で、すぐに父の変化を察知し、問い詰め、父の話を全て聞いたうえで、離婚した。
母はすぐに離婚して女手ひとつで俺を高校へ進学させてくれた。
再婚しないのかと聞くと、
「そんなこと考えてないで、自分のことを考えなさい。親の心配なんて10年早い。」
バイトをしようかと言えば、
「高校生なんだから、バイトなんかせずに勉強と遊びに集中しなさい。」
強くて優しい母を見てきた。
母のように在りたいと願った。
少女がいた。
人を見て、言葉を失った。
年齢にしておよそ10歳前後。
どんな輝きも彼女の前では太陽の隣で光る星。
その美しさは、可憐さは、儚さは、人の思考を止めるには十分すぎた。
・・・すべてを包む優しい赤だった。
今日は金曜で、母がいる日だ。朝ごはんの支度をする母の笑顔とパンをかじるその少女。
涙がでた。
思い絵描いた家族が、そこにはあった。
顔を洗い、涙も止まり、ふと思った。
「だれ?!」
俺の当然の疑問は
「氷華ちゃんよ、今日から暮らすのよ。」
で、解決した、のか?
「で、氷華ちゃん?は、どこの子なわけよ。」
「いいじゃないのよどこの子でも、可愛い妹が出来たんだから素直に喜びなさいよ。」
可愛い?ふざけるなと言いたい。可愛いなんてもんじゃないぞこれは。可愛いし、どことなく美人だ。白く長い髪とまつ毛に小柄で華奢な身体、触れれば壊れてしまいそうなくらいに可憐。筆舌に尽くしがたいとはこの事のためにあるとすら思える。
「御狛あんた、妹欲しいって言ってたじゃない。ちょうどよかったわね。」
「ちょうどよかったわね。っで済む事なのかよこれ…。」
可愛すぎで心配だわ、苦しいわ。
でも、妹か、実の妹ではないけど、それでもやっぱ、かわいいもんだな。
人との出会いというものは1度に重なるものなのか、今日、珍しい転校生とやらがきた。
そもそも、田舎の公立高校なわけで、転校生なんてきたことないし聞いたこともない。でも、きた。
「じゃー、転校生を紹介する。入ってくれー。」
なんかお決まりって感じの先生の言葉と同時に転校生がやってくる。
少し長い髪、整った顔立ちに切れ長の目で高身長。簡単に言えばイケメン。
纏っている色は灰色に近い白。
「宮守銀、島根から来ました。よろしく。」
本人の簡素なあいさつとクラスの女子の悲鳴にも聞こえる歓喜で教室は騒然としていた。
これまたお決まりのように席の周りには人垣が出来上がり、質問責めにあっていた。
さらに人は集まり、昼休みともなればこの人の少ない学校の女子の大半が覗きに来ていた。
そんな人気の被害を移動がしづらいという点で受けながらも1日は終わり、帰宅。
忘れかけていたが、椅子にちょこんと腰掛けている氷華を見つけ、疲れた1日だったと振り返った。これから始まる語られることのない戦いの歯車は、すでに動き始めていたのだった。
氷華たっての希望で俺と氷華が一緒に寝ることになった。
氷華と同じに寝たため早い時間から眠っており、目が冷めればまだ時刻は午前2時。
中途半端だなどと思っていると、外から音が聞こえてきた。なにかを切り裂くような音。ぶつかったような音。…闘っているような音。
好奇心に身を任せて外を覗いた時にはすでに運命は決まっていたのだろう。
そこには、刀を持った1人の青年と殺戮があった。その青年は、あの転校生だった。
なんというか、びっくりした。
予想していたわけじゃない。
ただなんとなく、なにか起こらないか期待した。
不思議な出会いがつずいたから。
この出会いに、偶然よりも必然を、感じたかった。
なにが起きているかはわからないし、夢かもしれない。
転校生くんが彼とほぼ同じ丈の刀を片手で振り回し、なにか化物めいたものを蹂躙している。
彼の纏う雰囲気は、物静かそうな印象とはかけ離れた狂気。
あっという間に終わった戦いは、最後を覗き見ただけの俺に言い知れぬ疲労を感じ、気を失うように眠りについた。
翌朝目が覚めて、戦いのあった場所を見ると、なんの変化もなかった。
まるで何もなかったかのように。
しかし変化はあった、我が家の中に。
「なんでいるんだよ。」
転校生くん、いるし。
朝ごはんの支度してるし。
まじかよ。