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七話:三人組と魔獣の森

「アイラー!」


 庭で洗濯物を干していると背後から幼い声で名前を呼ばれ、アイラは振り返った。

 そこには三人の子どもが立っていた。


「あら、エイブ、ロト、リナ。これからどこかにいくの?」


「おう! 草原まで行ってくるぜ!」


 と、ガキ大将気質な少年、エイブ。


「そろそろ色々な花が咲いているだろうって」


 エイブに続けて言葉を発したのは、少し弱気なところがある少年、ロト。

 そしてロトの言葉に、その横にいた少女が続く。


「お花でお冠を作るんです!」


 リナたちの説明を受けてアイラは微笑む。


 この三人組はグランデ村ではなかなか有名だ。

 何せ、何処へ行くにもいつも一緒にいる。


「確かに新しい花が咲きだしてたわね」


 ロイドとグランデ大森林に赴く道中で草原を横切る。

 その時目にした草花のことを思い出してアイラはそう言った。

 すると三人は目を輝かせて、「ホントか!」「よかったぁ」「たくさん作れるね!」などと口々に反応した。


 楽しそうな子供たちを微笑ましく見ながら、アイラは少しだけ声を鋭くして忠告する。


「あんまり森の方に近付いたらダメよ。危ないからね」


 アイラの忠告に、三人は頷く。


「綺麗にできたらあげますねっ。あ、ロイド様にも!」


「楽しみにしてるわ。ロイドにも伝えておくから」


 別れ際リナが発した言葉にアイラはそう返し、再び洗濯物を干し始めた。


 ◆ ◆


 三人はグランデ村を北門から出る。

 そして近くに広がる草原へと向かった。


「うわぁ……っ」


 到着すると同時にリナが歓喜の声をあげる。

 草原には色とりどりの野花が広がっており、この場に来た目的である花の冠を作るのには十分だ。


 そしてそれから暫くの間、三人は花遊びに興じる。


 陽も少し傾き始めた頃、リナが悩まし気に言葉を零す。


「白い花、ないなぁ……」


 周囲を見渡せども、そこにあるのは赤や黄色の花ばかり。

 今の今までそれらで指輪や冠などを作っていたが、リナとしては少しぐらい白い花が欲しい。


 するとリナのその言葉を聞いたロトが反応する。


「そういえば、お母さんから聞いたことがあるよ。森にはいろんな色の花が咲いてるって」


「本当!?」


 思わぬ情報に、リナは興味を示す。

 その反応に気圧されたながら、ロトは「う、うん……」と頷き返した。


「……あ、でも森には入ったらダメって」


 グランデ村を出る前にアイラに言われたことを思い出し、リナは肩を落とした。

 明らかに落ち込んでいる彼女の姿を見て、エイブは少し悩んでから威勢よく言い放つ。


「じゃあ俺が取ってきてやるよ」


「え? でも……」


「大丈夫だって、少しぐらいならバレやしないさ! それに、リナも白い花があった方がいいだろ?」


「それはそうだけど……」


 エイブの提案にリナは逡巡する。

 すると、ロトが止めに入る。


「や、やめときなよ、エイブ。危ないって……」


「ああ? なんだよ、ビビってるのか。それでも男かよ!」


「――ッ、そ、それなら僕も行くよ!」


 エイブに煽られて、ロトは震えた声で言い放つ。

 男としてのプライドが、リナの前で弱気でいられなかったのか。


 どうあれ、エイブとロトは森の中に行くことを決めた。

 そんな二人をリナはオロオロとした様子で見つめ、


「ふ、二人も行くなら私も行くよ!」


 かくして、三人組は草原を越えてグランデ大森林に入っていく。

 三人が魔獣と遭遇したのは、ほんの数分後だった。


 ◆ ◆


「ロイドー、買い物に行ってくるわよ? ロイドー?」


 洗濯を終え、庭で軽く魔力制御の練習をしたのち自室で書物を読み漁っていたアイラは、いつの間にか窓の外から見える空がオレンジ色に染まり始めていることに気付き、慌てて本を閉じた。

 そして廊下に出て、自室で未だ眠るロイドに声をかける。


 返事はない。

 アイラは小さくため息をつき、無理やりにでも起こそうか悩んでやめた。

 結局木で編まれた買い物かごを引っ提げてアイラは一人で家を出る。


 東門近くに向かい、商店街を物色しながら夕食を何にしようか考える。

 以前ロイドに料理を褒められたときは渋々やっているのだと言ったが、実のところ楽しんでいたりする。

 何より自分が作ったものを美味しそうに食べるロイドを見ているだけで作り甲斐があるというものだ。


「……ん?」


 そうして買い物かごに着々と食材を買い入れていると、ふと近くで村人たちが慌ただしくしているのに気付き、アイラはそちらへ向かった。


「どうかしたの?」


 そこにいたのはエイブ、ロト、リナの三人組の母親たちだ。

 皆血相を変えて慌てている。


 アイラに声をかけられ、村人たちは彼女の方を向く。


「アイラちゃん、うちの子供たちを見ていないかい?」


「エイブたちなら昼頃見たわよ。草原に花の冠を作りに行くって」


「本当かい!」


「あの、どうかしたの?」


 彼女たちの慌てぶりに何か問題があったのかと思い、アイラは聞く。


「実は、昼に遊びに行くって言って家を出て行ったっきり帰ってこないんだよ。村を探し回ってもいなくてね。何をしているんだか……」


 心配そうに呟くエイブの母。

 彼女の呟きに、アイラは考え込む。

 そして一つの仮定に辿り着く。


「もしかして、森に……? ――ッ、おばさん、私が連れ戻してくるわ。これ、預かっておいて!」


「ア、アイラちゃん……!?」


 エイブたちは森に入ったのではないか。

 そんな最悪の可能性が脳裏を過り、アイラは買い物かごを押し付けて北門の方へと走り出した。


 ◆ ◆


「お、あったぜ! リナ、これだろ?」


 森に入って数分後。エイブは木の根元に咲く白い花を指出してリナに声をかけた。

 それを見てリナはパッと笑顔を咲かせる。


「うん! ありがと、エイブ! ロト!」


「へへへ」


「僕は何もしてないよ……」


 エイブとロトはそれぞれ照れた笑みを浮かべる。


「じゃあさっさと戻ろうぜ。もう夕方だ、お袋に怒られちまう」


「そうだね」


「迷わないうちに帰りましょう」


 白い花を幾本か摘み取り、帰ろうと今まで来た道に足を向けたその時だった。

 ――木の影から魔獣が跳び出してきた。


「うわぁ――ッ!」


 魔獣の凶刃を避けられたのは幸運だった。


 エイブは反射的にその場に倒れ伏し、魔獣の初撃を躱す。

 その反動で魔獣は木の幹に自ら突っ込んだ。


 唸り声を上げながらその場でよろめく魔獣。


 その時、エイブたちは気付いた。

 自分たちがいる場所とは反対側の木々の影に、数十の光があることに。

 そしてそれら全てが魔獣の瞳であることに。


「に、逃げろぉ――ッ!!」


 そう叫んだのは誰だったのか。

 エイブたちは一目散にその場から逃げ出した。

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