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四十四話:大切な力

 アイラの隣に腰を下ろしたロイドは、彼女と同じように木の幹に背中を預けながらグランデ大森林でフィルと決闘をしたことを話した。

 それを聞いたアイラは意外そうな表情で「そんなことが……」と呟きを零す。


 普段外に出ることも、魔法を使うことも面倒がっているロイドがフィルの決闘を受けたのが意外だったのだ。


「それで、もちろんロイドが勝ったのよね」


 信じて疑わないといった様子でアイラが尋ねる。


 今はさておき、過去には大賢者として魔王を倒したほどの実力の持ち主であるロイドが、自分と同じ年の賢者見習いに負けるとは思えない。

 ロイドもまた飄々と「当たり前だ」と応じた。


 その返答に一応アイラは胸を撫で下ろした。

 ロイドの勝利は疑ってはいなかったが、もし仮に「なんとか勝てた」とか、「危なかったけどな」などと返されていたら、アイラとしては複雑なところだった。


 アイラではロイドに到底敵わない。

 にもかかわらずフィルは善戦したとなれば、悔しい。


 ただそれも杞憂であったらしい。

 ロイドの口ぶりと態度から察するに、どうやら圧勝したようだ。


 しかし、安堵したのも束の間。

 言いしれぬ不安が湧き上がる。


「どう、だった……?」


 その不安を、アイラは言葉にする。

 消え入りそうなほどに小さな声で、問いを投げる。


「なにが」


「~~~~っ、フィルの、魔法のことよ」


「あぁ」


 察しの悪い師匠に苛立つアイラ。

 対してロイドはアイラがフィルのことを多少なりともライバル視しているらしいことを感じ取り、表情を緩める。


「な、なによぉ……!」


 その表情を見たアイラは更に不満げに頬を膨らませる。

 ロイドはアイラから視線をきると、静かに空を見上げた。


 葉の合間から、青い空が見える。

 その先にロイドは先ほどのフィルとの戦いを映し出していた。


 アイラも使えない上位の攻撃魔法を操り、どれだけ魔法が防がれようが戦い続けるその執念。


「……強かったな」


 戦いを思い返したロイドは、一言。

 純粋な感想を零した。


「強かったって、どれぐらい? ……私よりも強い?」


「どうだろうな。いやでもそのうち一緒に魔法の鍛錬をする機会はあるんだ。俺がここでどうこう言ってもしかたがないだろ。ただまあ、今のお前があいつと決闘したとして、たぶん勝てないだろうな」


「……っ」


 ロイドから返ってきた痛烈な感想に、アイラは唇を噛む。


 自分の実力がフィルよりも上であれば、ロイドのことを馬鹿にした彼女を見返すことが出来るかもしれないと思っていただけに、悔しさが募る。


 空を見上げるロイドとは対称的に、アイラは顔を伏せた。


 流れる沈黙。

 村内の喧噪が二人の耳にいやに入り込む。


 やがてアイラが俯いていることに気付いたロイドは小さく溜め息を零すと、彼女の頭の上に手を伸ばした。


「そんな顔をするな。確かに決闘でならティアの方が勝つかもしれないが、お前にあいつに勝ってるところはある。これからの時代、俺はそっちの力の方が大切だと思っている。そして俺はこれまで、そういう力をつけて欲しいと思ってお前を育ててきたつもりだ。だから、それを大切にしてくれたらそれでいい」


「……私が勝ってることって、何よ」


 頭を撫でられながら、いつになく真剣で、それでいて優しい面持ちのロイドにどぎまぎしながら、アイラは俯いたまま問う。

 しかしロイドは口の端を吊り上げると、ニカッと笑って言った。


「さあな」


「っ、さあなって何よっ。教えてくれたっていいじゃない!」


「いいか、こういうことは自分で気付くことが大切なんだ。なんでもかんでも教えてもらおうとせずに、自分で考えることだな」


「ああいえばこういうんだから……」


 しかし、厄介なことにロイドの言説は正しくも感じられる。


 ロイドがこれまでの生活の中で教えてくれたこと。

 ただ強いことよりも大切な力。


 両足の膝を立てて、その両膝を両腕で抱え込みながらアイラはうんうんと考えこむ。


 そんな弟子の姿をロイドは微笑ましく眺めながら、「さて」と立ち上がって軽く伸びをした。


「腹も減ったし、そろそろ帰るか。後普通に疲れた。早くダラダラしたい」


「ほんと、そういうところを治したらロイドだって馬鹿にされなくなるのに……」


 溜め息を零しながらアイラも立ち上がり、服についた土をパンパンとはたき落とす。

 とはいえ、今日のロイドは確かに疲れている様子だ。

 休みたいということを責める気にはならなかった。


「ああそうだ。なあ、アイラ」


「なに?」


「フィルにも言っておいたが、お前たちは折角同い年なんだ。俺とレティのように、同じ立場の、それも同年代の他人が近くにいるってのは想像以上に刺激になるものだ。期間限定ではあるが、折角そういう存在が近くにいることになるんだから、仲良くしておいた方がお互いのためになると思うぞ」


「……うん」


 ロイドが言わんとしていることが、アイラにはわかる。

 要するに、切磋琢磨し合えと言っているのだ。


 もしかしたらロイドはそのためにフィルたちと共に王都を観光し、そして彼女を一時的に弟子として招き入れたのでは。


(なんて、考えすぎよね)


 怠け者の我が師匠に限って、そんなことはないだろうと。

 アイラは小さく笑みを浮かべた。

大変申し訳ございませんが、本作はここまでで完結といたします。

まだまだ書きたいものはありましたが、諸々の都合により打ち切らせていただきます。

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