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二十五話:決着

「――さっきからベラベラとうっせえ!」


 高笑いする魔人に対して、ロイドはそう叫びながら魔法を行使する。

 ロイドの前方に巨大な魔法陣が浮かび上がり、そこから竜巻が放たれる。

 地面をも砕くほどの勢いを孕んだ烈風は魔人の巨躯を浮かし、吹き飛ばした。


「……ッ、アイラ?」


 離れていく魔人に追撃をかけようと前へ重心を向けたロイド。

 しかしアイラに後ろからローブを摘ままれてそれは阻まれた。


「ロイド、どういうことなの?」


 その瞳は懐疑心で揺れている。

 あるいはそこに突然聞かされた話に対する動揺や衝撃が見られないのは、やはり自分とレティーシャの話を聞いていたのだろう。


 ロイドは答えに詰まりながら、しかし彼女に聞かれたのならもはや誤魔化す必要も理由もない。

 魔人へ向けていた視線をアイラに向け、ロイドは毅然と言い放つ。


「あいつを倒したら、お前にすべてを話してやる。だからそれまで待っててくれ」


「……わかった。気を付けてね、ロイド」


 彼女とて今は魔人を倒す方が先だということは理解しているのだろう。

 ロイドの言葉に頷き、さらには気遣いの言葉をかけてきた。


 その優しさにロイドは思わず笑みを漏らしながらアイラの頭を軽く撫でる。

 そして再び魔人へと視線を向けた。


「――ってわけだ。俺は弟子との大切な話があるんだよ。悪いがてめえにかまってる時間はねえぞ」


 アイラを残し、魔法で加速しながらロイドは魔人へ迫る。

 超速で迫るロイドを見ても、魔人はその余裕な態度を一切崩さない。


「キサマが小娘と話す時間などない。キサマはここで死ぬのだからな、大賢者ァッ!」


 そこには先ほどまでの理性の影はなく、ただ破壊の使徒がいた。


 魔人とは瘴素によって破壊された理性を保った存在のことを指す。

 が、正確には瘴素を抑え込み、平時は(・・・)理性を保てている存在だ。

 瘴素を操ることで通常戦闘状態にないときは瘴素を抑え込み、比較的理性の伴った行動や言動を行える。

 それこそ、顔や溢れ出る瘴素を見なければ普通の人間と勘違いするほどに。


 だがひとたび戦闘状態に入ればそれは一変する。

 全身にかけた制限を解き、瘴素の力に身をゆだねた魔人は正真正銘の怪物となる。

 枷から解き放たれた瘴素は魔人の体を破壊し、改造し、強化していく。

 その中で当然他の魔獣同様に理性をも殆ど失う。


 残るのはせいぜい自分が理性ある生物であったことの自覚と、瘴素を操る技量ぐらいだ。


 ゆえに、通常時と戦闘時の魔人の人格などには二面性がある。

 それぞれの人格によって異なった記憶も持ち合わせている。


 きっと、目の前の魔人はこの状態で三年前マルネ村にいたのだろう。

 だからこそこの状態になったことで記憶が解き放たれ、大賢者のこと、ロイドのこと、マルネ村のこと、アイラのこと、そのすべてを思い出したのだろう。


「迷惑な話だ。……いや、ありがたいといった方がいいか」


 それらを考えながらロイドは呟く。

 どちらかといえばアイラに話をするキッカケを作ることができたことを感謝するべきかもしれない。

 ……間違っても、魔人なんぞには感謝などしてやらないが。


 魔人がまたもや瘴素で剣を創り出し、放ってくる。

 だがアイラを背後に残してこれた以上、ロイドに回避を妨げるものはない。


 瘴素の動きを感じ取り、そのすべてを見ずとも避けていく。

 視覚に頼らず、ただ己の感覚を信じて。

 ――故に、それは目で見るよりも正確で、視線を向けるよりも早い。


 ロイドはそのスピードを一切落とすことなく魔人の懐に飛び込んだ。

 さしもの魔人もそこでようやく余裕の表情を崩す。


 慌ててロイドに向けて瘴素の霧を放ち始めた。


「――おせぇッ! 《重力(プラビタス)》!」


 魔人の足元の重力が増す。

 その影響で魔人は地に伏しそうになりながら――


「舐めるなァアアアッッ!!」


 瘴素によって強化した膂力を生かしてそれに抗った。

 そしてすぐさまこの魔法から逃れるべく背に生やした漆黒の翼を用いて空へ飛び立つ。


 当然、ロイドもその後を追った。


 強風が吹き荒れる上空で、再び魔人とロイドは相対していた。


 ここまで追ってきたロイドに魔人は苛立ちをぶつける。


「イイカゲンキエロォオオオッッ!!!!」


 魔人から放たれる瘴素。

 そのあまりの濃度に大気が悲鳴を上げ、バチバチと電気を放ち始める。

 もはや理性を失った獣をロイドは小さく笑った。


「てめえはバカか。わざわざこんなところに逃げやがって……ここなら地上の被害も考えずに済むだろ? てめえを倒すにはおあつらえ向きの場所だ」


「ナニ?」


「てめえらの王様にも放った一撃だ。手向けとして受け取りやがれ!」


 魔人の瘴素に対抗するかのようにロイドの全身から放たれる瘴素もその量を増していく。

 上空で魔力と瘴素がぶつかり合い、摩擦を起こす。


 もはや瘴素による遠くからの攻撃は通じないと理解したのか、魔人は一層背に生えた翼の瘴素を増し、その反発力を用いた突進を敢行してきた。


 だが、アイラという人質がいなくなったロイドにはそんなものは通じない。


 突き出したロイドの手の先に一つの……いや、複数の魔方陣が浮かび上がる。

 一つの魔方陣の先にもう一つ、その先に更に魔方陣が。

 百近い魔方陣が展開され、それぞれ不規則に回転を始める。


 それを見て、魔人は突撃をやめる。

 魔方陣に注ぎ込まれる魔力が今までのものと一線を画していた。

 それに恐怖を抱いたのだ。


「――今更逃がすわけないだろ」


 ロイドの呟きに応えるように百近い魔方陣が一際明るく光り――夜空を切り裂くように炎の濁流が魔人を飲み込んだ

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