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十一話:魔竜討伐(上)

「――――――――」


 白い光と漆黒の光が激突する。

 魔法陣によって阻まれ、逸れた漆黒の光の濁流は周囲の地面や木々を破壊する。

 数秒間拮抗した後、ようやくソレは消え去り、ロイドは《防護(サンク)》を解いた。


「大丈夫か?」


「う、うん……」


 ロイドの問いかけに、アイラは自分とそして子供たちの様子を確認してから頷いた。

 そして辺りに視線を移して愕然とした。


 ロイドの魔法によって守られていなかった場所の地面は抉れ、木々はへし折られている。

 それを為した元凶は一体なんなのか――


 アイラはロイドに倣って夜空を見上げた。


 北の空から現れたのは、その巨大な体躯から瘴素を放つ一体の――


「――竜!?」


 思わずロイドの口から驚きの声が漏れ、遅れてその存在に気づいたアイラも目を見開き、あまりの衝撃に驚きの声すらでない。

 先ほどの攻撃があの竜によるものだということは何よりもこの状況が悠然と物語っていた。


 魔獣化した竜――魔竜はそのまま滑空し、ロイドの近くへと降り立つ。

 周囲に生い茂っていた木々は、魔竜が降り立ちながら翼を上下させて生じた風圧で吹き飛んだ。


 こうして木々が一掃され開けた場所で、ロイドたちと魔竜は谷を挟んで相対した。


「どうして、魔竜がこんなところに……?」


 アイラが零した疑問と同じものをロイドも抱いていた。


 大気を舞う瘴素に侵された動物が魔獣となる。

 魔獣化はその個体が持つ生来の力が弱いほど早く進む。

 その代表として犬や狼などがあげられる。

 それ故に世界樹(オルビス)の近くであるこの辺りでは、犬や狼、極稀に熊などの魔獣としか遭遇しえない。


 そして竜と言えば、自然に存在する動物の中で最高位に位置する存在。

 当然並大抵のことでは魔獣化しない。

 それこそ、瘴素の濃い魔界樹(ディアボロス)の近くでなければ。


 だが現に、魔獣化した竜はロイドたちの目の前にいる。

 このグランデ大森林に。


 その事実を何故と思うのと同時に、これまで抱いていた疑問をロイドは解消した。


 どうして最近グランデ大森林で魔獣に遭遇することが多くなったのか。

 それは、魔竜が北の空から飛んできたことで答えを得た。


 魔竜が北の方角――グランデ大森林の奥地に潜んでいたのならば、その存在感に恐怖を抱き、それまでそこにいた魔獣たちが南の方へ逃れてきたのだとしてもおかしくない。


 残った疑問。何故魔竜がここにいるのか。

 その疑問を考えている余地を、目の前の竜は与えてくれそうにない。


 開かれた口の奥に瘴素が集っているのが見える。

 犬や狼程度の動物では魔獣化したところで身体能力が増す程度でしかないが、高位の存在が魔獣化するとこうして瘴素そのものを攻撃に転換できる。


「うだうだ考えている暇はないな。アイラ、ガキどもを連れて下がってろ」


「わかったわっ」


 即座に動き出し、ロイドの魔法による補助を受けながら三人を離れたところまで移動させる。

 それを見届け、ロイドは魔竜に向き直った。


「魔竜……魔王討伐でディアクトロ大陸に入った時以来か? 瘴素の濃密さを視るに、過去に戦った魔竜以上の力を持ってやがるな」


 本当に、このグランデ大森林でどうやってそれほどまでに力を蓄えたのか。

 疑問は次々と浮かび上がってくるが、まずは倒すことが先決だ。


「――《防護(サンク)》!」


 魔竜の口中から放たれた黒い光の束。

 それを再び魔法で防ぐ。

 後方に下がったアイラたちに危害が及ばないように、今度の魔法陣は先程よりも二回りほど大きい。


 魔竜の攻撃を防ぎ切ったロイドは、すぐさま頭を回転させる。

 すなわち、超強力な個体に対して有効な魔法を選択する。


 杖を天に掲げ、魔力を外界に放出する。

 空高く、雲一つなかった夜空に白く光る魔方陣が浮かび上がり、そこから黒い雲が生まれた。

 そして――


「――《神雷(アーサム)》!」


 名唱の後、一際明るく魔法陣が光ると、黒雲から一筋の稲妻が降り注ぐ。

 轟音を立てながら、稲妻は魔竜の体躯を――――貫くことなく、稲妻は地面へと流れた。


「効いていない? ……いや、瘴素に弾かれたのか」


 魔竜の巨躯に纏わりつく瘴素を睨みながら、ロイドは冷静にそう分析する。


 魔素が何かを生み出す種になるものならば、瘴素はその逆、あらゆるものを破壊するものだ。

 魔竜の体の表面に漂う瘴素は、ロイドの放った魔法を破壊し、受け流したのだ。


 だがそれは、予想していたことだ。

 何より魔王討伐の戦いで幾度となくそういう場面には遭遇した。

 その時はこれよりも更に大規模な魔法を用いて倒していたが、


(……ここにはアイラがいる。あれを使えば巻き込みかねない)


 瘴素の破壊の力を上回る大規模魔法。それは当然敵のみならず周囲にまで影響が及ぶ。

 魔王討伐時はロイドの近くにはそれこそ彼と同等の存在である大賢者しかいなかったため、彼らは各々で自分の身を守ることができた。

 だからこそ味方を巻き込む大規模魔法を容易に使うことができた。


 しかしアイラは彼らと比べるとあまりにも未熟だ。

 当然、自衛などできるはずがない。

 下手をすれば自分の魔法で彼女を殺しかねない。


(これは思った以上に、やりにくいな)


 アイラを巻き込むことなく、しかし瘴素のバリアを突破する術。


 《神雷(アーサム)》と似たような威力をもつ魔法は他にもある。

 だがその程度の威力ではとても突破できない。

 そしてそれ以上の威力を持つ魔法でもダメだ。


(方法はあるにはある。だが……)


 ちらりと、アイラを見やる。

 彼女は不安げにこちらを見つめていた。


 全く心外だ、とロイドは思った。

 お前の師が、あんなトカゲ程度に負けると思っているのかと。


 再度放たれた魔竜の攻撃を、ロイドは同じく《防護(サンク)》で防ぐ。

 どうやらこの魔竜、戦いの経験はそれほどないらしい。

 攻撃が単調に過ぎる。


 いや、正確には自分よりも強者との戦いの経験がない。

 この一撃があれば大抵の敵や獲物は倒せただろうから。


「仕方がない、あれを使うか。……見てろ、今すぐお前のその耳障りな咆哮を消してやる」


 魔竜に向けて啖呵を切りながら、ロイドは杖を持たない左手から黒いオーラを放出した。

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