イケメンと海③
イケメンと海、完結編です。
よろしくお願いいたします。
「さーくらちゃん」
後ろを振り返ると、
「日下くん」
まだ、眠そうな日下くんは、私が持っていた飲み物の袋をごく自然に持つと、私の肩に腕を回した。
「ごめんなさーい。この子、俺の彼女になる予定の子なんで、困らせないでくださいね」
仮面スマイルを彼らに向ける。彼らは突然現れた日下くんに、慌てたように
「別に困らせてねぇよ」
と、その場を去っていった。日下くんが、小さく息を吐く。
「日下くん、何で…」
「須藤が飲み物取りに行ったって言うからね。わざわざ来たわけ」
「わざわざ」
何とも恩着せがましい言い方だが、助かったのは事実なので、丁寧にお辞儀してお礼を言う。
「日下様、ありがとうございました」
「苦しゅうない苦しゅうない」
手をパタパタと振りながら、胸を張る日下くん。私は、哀れむような視線を送るが、日下くんには通用しないようだ。
「行こうや」
別荘から出ていこうとする日下くんの後を追おうとしたとき、急に前で立ち止まられたものだから、鼻を彼の背中に打ち付ける。
「急に止まらないでよ」
「須藤」
日下くんは、片手で私の頬を挟んだ。
「あんまりモテるのは禁止」
「え?」
日下くんの真剣な眼差しにうろたえる。顔がみるみるうちに赤くなるのがわかった。心臓が唸りをあげる。
「そんな可愛い顔したら、キスしちゃうぞ」
いつものふざけた口調にウインクが加わり、私は乾いた笑みを漏らしたが、それでも、鼓動の速さは緩まない。日下くんは、大きく伸びをすると、さっさと先に行ってしまった。
急に、あんな顔しないでよ。
赤くなった顔を両手で叩くと、私も歩き出すのであった。
夕方になると、別荘のすぐ近くにあるバーベキュー場でご飯を食べていた。
「おいしい。やっぱり、焼きたて良いね」
悠里は、口いっぱいに、食べ物を頬張る。こういうときに、焼き担当になるのは、もちろん孝史くんだ。
「須藤」
佐野先輩が隣に立って、食べていた。
「何ですか?」
「何て言うか…意外と、楽しかったな」
「そうですね」
今日、はしゃいでいた皆を思い返し、笑う。
「あのさ、今度、花火大会行かないか?」
「花火?」
「ほら、夏休み入ってすぐにあるだろ?」
私は、学校へ行く道中にいくつも張ってあったチラシを思い浮かべた。
「あ!そうでしたね」
「ああ」
「行きましょう!」
「ほんとか!?」
「皆で!」
「…え、みん…」
私は、佐野先輩が唖然としているのに気付かずに、皆にその事を伝える。皆も大賛成のようだ。
「楽しみですね」
「そうだな…」
こうして、その日は終わっていくのであった。
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