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マの男の者  作者: はにぃ
9/11

第8話 戦いに巻き込まれそうになってる。どうして?

「なにこれ?」

 ああああが、“マの男の者”を片手に首をかしげている。

 ファミコンのカセットと答えたけど、ああああは首をかしげたままだ。確かに僕がファミコンを知っているのは、マニアな姉ちゃんがいるからであり、全盛期の頃にプレイしていたわけではない。だからファミコンのカセットを初めて見るというのも、仕方ないのかもしれない。

 「昔のテレビゲームだよ」と言ったけど、ああああの首は戻らない。どうもテレビゲームというもの自体を知らないらしい。

 まぁ、自称千年前の人だもんな……。

 ちなみに姉ちゃんは、ファミコンを知らないという言葉を受けて、長々とああああにその素晴らしさを説明していたけど、途中から陶酔してしまって、説明というより弁論になっていた。そこまでの熱意を別のところで活かしてほしい。


 ああああはファミコンの電源を入れていた。

 テレビ画面には“マの男の者”の文字が浮かんでいる。

 ああああは色々試すけど、ゲームが進行するだけで、何も変化は現れない。


 僕はじっとその画面を見ていた。


「……そもそも気になってたことがあるんだけど」

 ファミコンに夢中になっているああああに声をかけた。

「本当の話と前提した場合、どうしてくだらない魔法ばかり使っているの? お互い、相手を倒そうとしてないでしょ」

 何か大事なことだったのか、ああああはファミコンを動かす手を止めた。

 そして、テレビに目を向けたまま話し始めた。


「あの体はね、元々はホタルって人の体なの。……かつて勇者と呼ばれていた。千年前の戦いで、魔王に乗っ取られてしまって」

「……だから殺すことはできない?」

 殺す--勇気の言葉に、ああああは一瞬険しい顔になったが、その気持ちを押し殺すように静かに笑った。

「だからね、取り返さないといけないの」

 勇気はふーんとだけ言って、言葉を続けた。

「……魔王は?」

 勇気の言葉にああああは少しだけ考えているようだった。

「……弱くなったからだと思う」

「……へぇ」

 興味があるのかないのか、気の抜けた言葉を返した勇気だったが、しばらくの沈黙の後、今度は気持ちがこもっているのか、こもっていないのか、そんな風に笑って言った。


「傷つけ合わないことに、越した事はないね」


 僕は、自然と言葉にしていた。

 僕の横では、姉ちゃんの演説がまだ続いていた。


 ちなみに説明兼弁論は以下のとおり。

「ファミコンとは任天堂が1983年7月15日に発売したファミリーコンピューターの略よ。ドンキーコングやマリオブラザーズから始まり、ドラクエなどの数々の名作を作っていった、一時代を築いたひとつの文化といっていい。しかし、時代の流れというのは残酷なもので、常に向上を求める需要者は、16ビットのPCエンジンやメガドライブへと目を移し、ファミコン自体はディスクシステムの限界を境にスーパーファミコンへと姿を変えていった。そしてその後も64やゲームキューブ、WIIと姿を変えていったけど、もうそこにはファミコンの面影はなくなっていた。ファミコンがあらゆる媒体を開発、そして進化させていったのは事実であり、今となっては、この当時のソフトは一枚のソフトに複数入れられてしまうほどの「ちゃちさ」だけど、今もその情熱は消えることなく、むしろ燃えている。ビデオ端子のファミコンが発売されており、あの接続不良の苛立ちも改善され、中古屋では昔懐かしく、またこんなゲーム知らんぞと言わんばかりのソフトが並ぶ。影ながら人気のあるソフトは破格の値段を誇示し、失敗作ディスクシステムすら高額を示す時もある。どこで書き換えするの!? ただ時代が再びファミコンを求めているのは事実である。ファミリートレーナー。一時流行ったダンスダンスレボリューションの先駆けであり、WIIでもリバイバルされたような商品が現われている。時代が求めるニーズに、古ぼけたこの過去の栄光が輝きを取り戻しているのだ! 私は思う。WIIやPS3などの次世代ハードに立ち向かえるのは、この初代ファミコンのみだと。なぜなら、人々は進化の中でも故郷を求めるからだ。これから進む未来に期待をしながらも、思い出を振り返えらずにはいられないからだ。どうかみんなも探して欲しい。物置の奥で眠るこの小さな輝きを見つめなおして欲しい。小さいながらも強く、そして激しく輝いている!」


「で、この『マの男の者』って一体?」

 僕の質問に、ああああは少し困った顔をしたあと、ニコッとした。

「わからない」

「……わからない?」

「うん」

 その表情から何かを隠しているとは思えなかった。本当に分からないんだろう。

 僕はマの男の者を手にとった。

 これが何か分かれば、多少なりとも彼女たちが何なのか分かるかと思ったけど、逆に分からないことが増えてしまった。なら、なんでこれを探していたんだ、ああああは。

 僕の素朴な疑問を投げかけたが、

「だ、だって魔王が手に入れようとしてるから!」

 と、単純な答え。つまりは、魔王が探し求めてるから、渡さないようにしてるってことだろうか。

「だって危なそうじゃない!」

 君たちの存在が危ないよ……。

「なんかへんな雰囲気が流れてる。……信じてないでしょ?」

 僕は頷いた。

 ああああは少し悲しそうな顔をしたけど、気持ちを立て直したのか、僕の手を取り、意気揚々とまるで何かの勧誘のように微笑みを向けてきた。

「でも、これがあなたの手にあるってことは、きっと何かの縁だわ! いっしょに戦いましょ!」


……僕をそっちの世界に巻き込まないでくれ。


 が、その僕のその願いも空しく、最初の戦いが訪れることとなった。


――最初の敵、それは僕の部屋の入口で、唇をワナワナさせたほがらかだった。


 ほがらか VS 僕とああああと弁論中の姉ちゃん。


……だから僕を巻き込まないでくれ。

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