表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マの男の者  作者: はにぃ
6/11

第5話 信じられない話を語られてしまった。信じる?

「千年前、世界に危機が訪れた。今の、魔王パルプフィクションによって」

 そう話し始めたああああ――本名と言い張る彼女に、もう突っ込むのはやめることにした――の話を、当然信じることはできなかった。千年前といえば、平安時代。いろいろ乱はあったようだけど、魔王だとかそんなのは歴史の教科書に載っていない。

 僕の疑惑の目を感じたのか、ああああは「信じてないのね」と残念そうに言った。

 そんな僕とは反対に、姉ちゃんは「私は信じる」と言った。その言葉に、ああああは目を輝かせて喜んでいた。

「魔王なんでしょ?」という姉ちゃんの問いに、「ありがとう」と、素直に喜ぶああああの表情からは、人を騙しているような感じはしなかった。ただ、だからと言って信じられるわけでもなく、僕は踏み込んではいけない“あっちの世界の話”だと割り切ることにした。


「礼はいらない、私は勇者だからね」


 いつのまにか姉ちゃんは勇者になっていた。もうあっちの世界の住人だ。いとも簡単にログインしてしまったみたいだ。

 ただその姉ちゃんの言葉に、ああああの表情が曇るのがわかった。姉ちゃんはそれに気付かないのか、話を続けた。

「前から私は他の人と何かが違うと思ってたんだけど、まさか勇者だったなんて」

 興奮した姉ちゃんは、おそらく本人の中における華麗なる舞を踊った。ただ、そういうのに疎い姉ちゃんの引き出しでは、どこからどうみてもフォークダンスが限界だった。

 それを遮るように、ああああが立ち上がる。

「勇者は私よ」

 その目は真剣だった。

「勘違いはやめなさい」と姉ちゃん。

 ああああは、羽織っていた唐草模様のマントをバサッと広げた。

「このかっこうを見なさいよ、明らかに私が勇者じゃない!」

「がま口みたいなカッコのどこが勇者よ!」

「Tシャツに言われたくない!」

「Tシャツって、こう見えても七分丈よ!」

「それがなによ! なに、こいつ!」

 ああああの言葉が僕に向けられた。まいった、話をふられてしまった。

 ああああは激昂して顔が真っ赤だ。姉ちゃんは「ゆうしゃ」と言えと口バクをしている

 なにがなんだか。

 僕は小さい溜息をついて、ああああに言った。

「目立ちたがり屋のゲームバカ」

 その言葉にああああは冷たい目を姉ちゃんに向け、言い放った。

「なんだ、バカか」

「……バカ? 言ってはいけないことを言っちゃったわね! 私はゲーマーなる勇者、狭鯖小翼さっさば こつばさよ!」

「小翼? ださ」

 その言葉に姉ちゃんの膝がガクッと折れた。姉ちゃんのトラウマに触れてしまったからだ。姉ちゃんの目が遠くを見ている。

「……確かにナマエ入力がつきだした頃、4文字しか入らなくて“こつはさ”だった。時には“てんてん”を捨てきれなく“こつば”だった。そんな“さ”が不憫でよく歌ったわ。『さあ、行くんだ、このドアを開けて♪』 ……私の“さ”はどこに行ったの!?」

「さぁ?」と言ってやりたい。

 が、そんなどん底の中、姉ちゃんはああああを指さし、言い放った。

「あんただってダサい名前じゃない!」

 今度はああああの膝がガクッと折れた。今この部屋でどん底の二人がいる。アスキーアートを思い出させるほどの、見事なガクッとぶりだ。

 でも次の瞬間、合わせたかのように同時に顔をあげ、見つめあった。そしてがっちり握手し、「ださい名前同盟!」と言って、妙な連帯感を帯び始めた。

 まぁ、喧嘩するよりかはいいけど。

「だから、さっきナマエのことで私をかばってくれたのね」

「……何のこと?」

「言っていいことと悪いことがあるって。……私が名前をああああってバカにされた時」

「そうだ! あいつあんな事言いやがった! Aボタン連射だ? Aボタンは連打だ! 連射は連打の結果だ!」

 ……そこだったのか、少しでも姉ちゃんを見直した自分が情けなかった。

 ふと、ああああの目線が僕に向けられているのを感じた。僕はああああの方を見た。ああああは「あなたの名前は?」と聞いてきたので、「狭鯖 勇気」と答えた。


 この時点で、僕もログインしてしまったのかもしれない。


  *


 カタカタカタ。

 テレビ画面に、文字が表示される。

 

 ドウイウ コトダ?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ